【番外編】騎士の日常
今回はモブ視点です。
「なあギルバート」
「断る」
断るって、何を。
久しぶりに見かけた友人は相変わらず愛想が悪かった。声をかけてきたのが俺だと解ると微かに眉を潜めた後、すぐさま視線を余所へと外して拒絶の一言だけを告げる。俺からしてみれば不愉快なこの様子も、若い女達からすればつれない所も素敵、と魅力的に感じるらしい。何故こんな態度を取る奴が女に人気があるのだろう。顔か。やはり顔なのか。
「断るって俺はまだ何も言ってないだろ。お前だって自分が何を断ったのか解らないはずだ、話は最後まで聞け」
「俺は貴様と話す事自体を断ったんだ。そもそも聞くつもりが無い」
「それが久しぶりに会った友人に対して言うことかよ」
昔から素っ気ないと言うか、誤解をされやすい態度というのだろうか。顔に感情がでにくいのが余計にこの男を取っ付きにくくさせているのだが、まあ根は悪く無い。むしろ良い奴だと俺は思っている。そんな俺に対してこの態度。
「まあ聞く気がないなら勝手に話すさ、独り言だから気にしないでくれ。実は俺には妹がいて、これがめちゃくちゃ可愛い。あいつの為なら何でも出来そうなくらい可愛い妹がこの間俺に頼み事をして来た。それがまあ何と言うか、お前を紹介して欲しいってやつでな。いや俺だって本当は複雑なんだけど妹には何でも言う事聞いてやるって言っちまったしお前も付き合ってる子とか居ないみたいだし、何より妹に嫌われたくない。結論として次の休みにでも妹に会って欲しいっていう長い独り言だったんだけど、お前本当に聞いてないだろ」
長々と話終えた後にギルバートを見てみれば、全く違う所を見つめて明らかに聞いていない様子だった。仕方がないので俺もその視線の先に目をやれば、丁度どこかの令嬢が歩いているところが見える。ははあ、なるほどなあ。
「お前、ああいう娘が好みなんだな」
「違う。あの娘の着ているドレスはヒナコ様に似合いそうだと思っていただけだ」
何だ、ドレスかよ。余計なお世話だろうが、女を見ながら別の女の事を考えて話題にするのはやめておいたほうが良い。間違いなくややこしい事になる。
「ヒナコ様って巫女様だろ。さっき陛下と一緒にいるのを見かけたぞ」
オスタシアを守護する巫女姫は何か重そうな荷物を運んでいた。陛下は手ぶらだったけど。
「あれを見て陛下のお気に入りってのも大変そうだなって思ったな。ま、陛下も巫女様と一緒にいる時は色々な意味で楽しそうだし良いのかもしれないけどさ」
陛下と言えば王座に座って貴族のお偉いさん達が頭をぺこぺこと下げている様子を腐った大根を見るみたいな目をして眺めている印象があるが、巫女様といる時はそんな目をしていない気がする。そういえばギルバートも彼女といる時はいつもの無愛想も少しはましに見えるな。
「何にせよお前が俺の独り言を聞いてなかったことは解った。これから昼飯でもいかないか。そこで改めて話をさせてもらうから」
「ああ、構わない。昼食だけならな」
だけ、という所をやけに強調されたが俺も可愛い妹の為に引き下がるわけにはいかないのだ。二人連れ立ち歩き出した時、不意にこちらに駆け寄る人影があった。足を止めたギルバートにつられて俺も立ち止まってみれば、噂をすればの巫女様だ。
「ギルバート!これから少しついて来て欲しい場所が・・・あるんだけど、ごめん、何か用事だった?」
ギルバートに用があったらしい彼女は隣にいる俺に気がついて、しまったと言いたげな顔をした。そういや巫女様をこんなに近くで見たのは初めてかもしれないな、大抵近くには陛下がいるし。
しかし、何というか普通だ。平々凡々で可もなく不可もない顔立ち。
「ヒナコ様。いいえ、何もありません」
そんなことを考えていたら隣にいるギルバートが呆気なく前言を撤回させる。そんな事だと思ったが。
「え、本当に?」
「この男とはたまたま会っただけです。それより貴女の予定が先だ。行きましょう」
俺の事を気にかける巫女様を促すようにしてギルバートはさっさと歩き出す。あいつ、俺には一言の断りもないままか!
とりあえず、俺は妹に何て報告したら良いんだ。




