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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
後日談:ヨシコとカケル

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後日談 第7話:《前借亭》ホワイト化計画

叔父・叔母たちとの嵐のような通信が終わり、スマホの画面が消えた。

店内に、少しばかりの静寂が戻る。


「……ふぅ。相変わらず、キャラの濃い人たちだ……」


 カケルがぐったりとテーブルに突っ伏す。

だが、安息の時はまだ訪れない。

目の前には、腕組みをした「最強の総務オカン」が座っているからだ。


「さて、カケル。親族の挨拶は終わったけど……ここからが本題や」


 ヨシコは、店のメニュー表と、カケルが記録していた「感情出納帳のコピー」を並べた。


「さっきサブロウ(三男)も言うてたけどな。……あんた、この店の経営、どういうつもりや?」


「え? どういうって……普通に、安くて美味しいものを皆に食べてほしくて……」


「それが『安すぎ』やって言うてんねん!」


 ヨシコがメニュー表をビシッと指差す。


「このパスタ、原価率なんぼや? 手間暇かけて、この値段設定はおかしい。完全に『あんたの技術料(人件費)』をゼロ円計算しとるやろ!」


 図星だった。

カケルは言葉に詰まる。

日本のブラック企業時代、「サービス残業」や「自己犠牲」が当たり前だったカケルにとって、自分の労働力を安売りすることに違和感がなかったのだ。


「それに……これや」


 ヨシコは「感情出納帳」の数字を指差した。


【負債残高:140億ルーメ】


 ヨシコの目が、スッと細められた。


「……あんた、この借金は何や? 通貨単位ちゃうな? 『ルーメ』ってなんや?」


「あ、それは……えっと……」


 カケルは観念して説明した。

ラスボスを倒すために、世界のシステムから「感情」を前借りしたこと。

その代償として、莫大な「感情負債」を背負い、人々を笑顔にして返済しなければならないこと。


 話し終えると、ヨシコは深く、深くため息をついた。

そして――。


「……アホかーーーーッ!!!」


 店が揺れるほどの大声だった。

ルシアナたちがビクッと飛び上がる。


「140億やて!? 神様かシステムか知らんけど、とんでもない闇金業者やないか! イチロウ(長男・弁護士)がおったら『公序良俗違反で契約無効や!』って訴訟起こすとこやで!」


「い、いや、でも俺が納得してやったことだし……」


「納得してへん! あんたは『そうするしかなかった』だけや!」


 ヨシコは立ち上がり、カケルの正面に回った。

そして、その痩せた肩を両手で掴んだ。


「カケル、よう聞き。……あんたは優しい子や。誰かのために自分が損をするのを『美徳』やと思ってる。……せやけどな」


 ヨシコの声が、優しく、しかし厳しく響く。


「『自己犠牲』の上に成り立つサービスなんて、いつか破綻するんや。あんたが倒れたら、誰がこの借金返すんや? 誰がルシアナちゃんたちを守るんや?」


「……っ」


「あんたが今やってることは、『経営』ちゃう。『自傷行為』や」


 カケルはハッとした。

ルシアナを見る。彼女は悲痛な面持ちで、けれど大きく頷いていた。

ボビンも、ミレイユも、フィンも。

みんな、カケルの働きすぎを心配していたのだ。


「……ホワイト化しなさい、カケル」


 ヨシコはカケルの目を見据えた。


「ちゃんと休む。ちゃんと稼ぐ。スタッフを信じて任せる。……自分も幸せになって初めて、他人を幸せにできるんや。それが『持続可能サステナブル』な店づくりや」


 カケルの目から、ぽろりと鱗が落ちた気がした。

140億という数字に追われ、がむしゃらに走ってきた。

でも、母の言う通りだ。俺が笑っていなければ、本当の意味で客を笑顔にはできない。


「……分かったよ、母さん」


 カケルは顔を上げた。憑き物が落ちたような、晴れやかな顔だった。


「俺、ちょっと焦ってたみたいだ。……店のやり方、見直すよ」


「ん、ええ顔になったわ」


 ヨシコは満足げに頷くと、パン!と手を叩いた。


「よし! 説教はこれでおしまい! ……腹減ったなぁ! そろそろ晩ご飯にしようか!」 「あ、そういえばジロウ叔父さんからレシピ送られてきてたよ」


 カケルがスマホを確認すると、三ツ星シェフの叔父からとんでもないデータが届いていた。


【件名:今夜の献立(在庫処理スペシャル)】

【本文:カケル、店の冷蔵庫の在庫リスト見たで。余ってる魔物肉と、こっちから送った調味料でこれ作れ】


 添付されていたレシピ名を見て、カケルは目を剥いた。


「ええっと……『火吹きファイアドラゴンのピリ辛肉じゃが』に、『マンドラゴラとごぼうの叫びきんぴら』……!?」 「ほう! さすがジロウや、食材の無駄を出しよらん!」


 ヨシコはニヤリと笑うと、再び割烹着の紐をキュッと締め直した。


「よっしゃ、ほな『前借亭・大改革』の前祝いや! 今日は私が指揮執るで! 総員、配置につけ!」


「「「イエッサー!!」」」


 ルシアナたちもつられて返事をしてしまう。

ここから、厨房は新たな戦場と化した。


「カケル! 玉ねぎのみじん切りが遅い! 繊維に逆らわんようにスッといけ!」

「は、はいっ!」

「ルシアナちゃん、皿の並べ方! 動線を考えて、取りやすい位置にスタッキングして!」

「あ、はいっ! す、すみませんお義母さま!」

「ボビン! マンドラゴラが悲鳴上げる前に熱湯で締めろ! あ、ちょっとうるさいわね、口ふさいどき!」

「ピ、ピギャアアア……(ボビンがマンドラゴラを鍋に押し込む)」


 ヨシコは厨房の中を竜巻のように移動しながら、的確かつ高速な指示を飛ばしていく。

それは単なる調理ではない。

無駄な動きを削ぎ落とし、最短ルートで完成形へ向かう「業務プロセスの最適化」そのものだった。


「すごい……」


 カケルは手を動かしながら、母の背中を見た。

見たことのない食材でも、匂いを嗅ぎ、手触りを確認しただけで最適な調理法を見抜いている。

そして何より――楽しそうだ。


 ジュウウウウウッ!!

巨大な中華鍋の中で、ドラゴンの肉が地球の醤油とみりん、そして異世界のスパイスと絡み合い、食欲をそそる暴力的な香りを放ち始める。


(続く)

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― 新着の感想 ―
あの〜「感情出納帳」の【負債残高:140億ルーメ】って、まだあったの?ぶっちゃけ、忘れてたけど… ラグナ残渣倒て神界の秩序もどしたんだから、神様権限でチャラになってもおかしくない? 残ってたとしても、…
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