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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
後日談:ヨシコとカケル

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後日談 第6話:最強一族の介入と、愛ある説教

感動の再会(と説教)によって、店内の空気は奇妙なものになっていた。


「……えーっと、つまり。この凄腕のおば様が、カケル君のお母さん?」

「そ、そうみたいだな……」


 ルシアナが困惑した顔で尋ねると、カケルは頬を赤らめながら頷いた。

客たちも

「店長の母親か!」

「道理で料理が上手いわけだ!」

と勝手に納得し、嵐のようなランチタイムが終わった店内で、温かい拍手が起きていた。


 だが、ヨシコにとって「再会」はゴールではない。

あくまで「現場確認」が済んだだけだ。


「よし! カケルの生存確認完了! 健康状態、要改善! 労働環境、ブラックの疑いあり!」


 ヨシコはスマホを取り出すと、テーブルの上にドン!と立てかけた。


「ほな、みんなに報告会やるで! 集合や!」


 ヨシコが画面をタップした瞬間。


フォォン……!


スマホのカメラから光が溢れ、何分割にもされたホログラムウィンドウが空中に投影された。

四男・シロウが開発した「多人数同時通話アプリ(異世界版)」だ。


『――おっ! 繋がったか!』

『姉さん、カケルは見つかったんか!?』

『ちょっと! 私も混ぜなさいよ!』


 画面に映し出されたのは、カケルにとって懐かしく、そして頭の上がらない「最強の叔父・叔母たち」の顔だった。


「うわっ……! イチロウ叔父さんに、ジロウ叔父さん……それにハナコ叔母さんまで!? 全員揃ってる!?」


 カケルがのけぞる。

画面の中の男女が、一斉にカケルを見て目を輝かせた。


『おおっ! カケル! ほんまにカケルやないか!』

『生きてたか! 良かった……ほんまに良かった!』


 長男・イチロウ(国際弁護士・54歳)が、眼鏡の奥の目を潤ませている。

次男・ジロウ(三ツ星シェフ・50歳)が、コックコートの袖で涙を拭っている。


 カケルは胸が詰まった。

父が亡くなった後、母と共に自分を支えてくれた親族たち。

失踪した自分のことを、こんなにも心配してくれていたなんて。


「……ご無沙汰してます。心配かけて、すみませんでした……」


 カケルが深々と頭を下げると、画面の向こうから優しい声が飛んだ。


『ええんやええんや! 生きててくれたら、それでええ!』

『せやでー! カケルくんが無事ならオールオッケーだよー!』


 五男・ゴロウ(カリスマ保育士・38歳)が、園児に向けるような満面の笑みで手を振っている。


 ……しかし。

感動的な空気が流れたのは、最初の30秒だけだった。


『――さて。生存確認は済んだな』


 三男・サブロウ(経営コンサルタント・45歳)が、スッと真顔に戻り、眼鏡をクイッと上げた。


『カケル。さっき姉さんのスマホ越しに店の様子を見とったけど……あのオペレーションはなんや?』


「えっ?」


『回転率が悪すぎる。客単価と滞在時間のバランスも崩れとる。……あんな薄利多売の自転車操業で、利益出とるんか? 損益分岐点は計算しとるんか?』


「あ、いや、その……どんぶり勘定というか……」


『アカン! 経営をナメたら火傷するで! 今すぐ直近3ヶ月の帳簿出し! 私がPL(損益計算書)引き直したる!』


 矢継ぎ早に飛んでくるコンサルのダメ出し。

カケルがタジタジになっていると、今度は長男・イチロウが六法全書(のような魔導書)を開いた。


『カケル。そもそも君がこの世界に来た経緯だが……「召喚」されたと言っていたな?』


「は、はい」


『その際、雇用契約書は交わしたか? 就労ビザは? 同意なき召喚なら、それは「拉致監禁」および「人身売買」に該当する可能性がある。……相手(召喚主)に損害賠償請求をする準備はあるか?』


 イチロウの鋭い視線に、カケルは少し言い淀み、隣にいたルシアナをチラリと見た。

ルシアナが気まずそうに身を縮める。

カケルは苦笑して、首を横に振った。


「……いえ、叔父さん。請求はしません」


『ほう? なぜだ』


「えっと、実は……俺を召喚した『召喚主』は、ここにいるルシアナなんです」


「えっ!? 私!?」

ルシアナが驚きの声を上げるが、カケルは優しく彼女を制した。


「でも、彼女も国のシステムというか、しきたりで仕方なくやったことで……彼女自身も被害者みたいなものでした。だから俺は、彼女を訴えるんじゃなくて、彼女を縛り付けていた『システム(ラスボス)』の方をぶっ飛ばしてきました」


 カケルの言葉に、イチロウはルシアナをじっと観察し、ふっと表情を緩めた。


『……なるほど。「実行犯」ではなく「首謀者(黒幕)」を叩いたわけか。情状酌量の余地あり、ということだな。……いいだろう、その判断を尊重する』


 ホッとしたのも束の間、今度はキンキン響く高い声が割り込んだ。


『甘いわカケル! 甘すぎる!』


 次女・ハナコ(リスク管理・42歳)だ。

彼女は画面越しに、カケルをビシッと指差した。


『あんたねぇ! その「ラスボスをぶっ飛ばした」って軽く言うけど、事後処理はどうなってるの!? 世界の管理システムを壊したんでしょ!?』


「え、あ、はい……」


『リスク係数が測定不能よ! システムダウンによる二次災害は? 世界の崩壊リスクは? もし何かあったら、その製造物責任(PL法)は誰が取るの!? あんた、賠償保険も入らずに世界救ったん!?』


「ほ、保険なんてあるわけないじゃないですか……!」


『だから危なっかしいって言うのよ! 「結果オーライ」はビジネスじゃ通用しまへんで! もしその子――ルシアナちゃんに何かあったら、あんたが一生責任取る覚悟はあるんやろな!?』


 ハナコの鋭いツッコミに、カケルが答えようとするより早く、ルシアナが反応した。


「えっ……せ、せきにん……!?」


 ルシアナの顔色が、一瞬で茹でタコのように真っ赤になる。

彼女の脳内では、「一生責任を取る」という言葉が、猛烈な勢いで桃色の変換を遂げていた。


「い、一生って……えっ、つまりその、ゆりかごから墓場まで……ってことよね!? ひゃう!? わ、私、まだ心の準備が……ていうか、こんな公衆の面前でプロポーズ的なアレを!?」


「いやルシアナ、落ち着け! 叔母さんはあくまで『管理責任』の話をしててだな!」

『あらあら、可愛い子やないの』

『ふふ、脈ありやなこりゃ』


 画面の向こうで親族たちがニヤニヤと笑う。

カケルが顔を覆いたくなったその時、今度は四男・シロウが淡々とした口調で切り込んできた。


『はいはい、色恋沙汰はその辺にして。……僕の方からは設備の話や』


 シロウが眼鏡のブリッジを中指で押し上げる。


『店の空調、魔力効率が悪すぎるわ。排熱が厨房に篭っとる。カケルの体力が削られる原因はそこや』


「え、ああ、確かに夏場は暑くて……」


『せやから、今いじったったわ』


「え?」


 ウィイイイイーン……!

 ガション、ガション、キュイイイン!


 突然、店の天井に設置されていた空調用の魔道具が、独りでに動き出した。

内部の歯車が高速回転し、青白い光のラインが走る。

次の瞬間、店内に爽やかで最適な強さの冷風が流れ始めた。


「うわああっ!? 勝手に動いた!?」

「す、涼しい……!?」


 ボビンやグレンが腰を抜かす中、シロウは画面の中で涼しい顔でキーボードを叩く真似をした。


『遠隔でファームウェア書き換えといたで。ついでに自動洗浄機能もアンロックしたから、これからは掃除いらずや』


「い、一瞬で!? どうやって異世界の魔道具にアクセスしたんだよ!?」

『技術の基本は一緒や。……魔力回路のセキュリティ、ザルやったで?』


 カケルは絶句した。

法務、財務、リスク管理、そして超技術ハッキング

各分野のトップランナーである親族たちが、よってたかって「カケルの人生(と店)」を最適化しようと襲いかかってくる。

それは愛情なのだが、あまりにも圧が強すぎた。


 その光景を、ルシアナたちは呆然と見ていた。


「な、なんなの……この人たち……」


 ルシアナが呟く。

小さな画面の向こうから、店を一瞬で改革できそうな「知性」と「圧力」が溢れ出してくる。

ただの家族会議のはずなのに、まるで一国の「閣僚会議」を見ているようだ。


「カケル君の強さって……遺伝だったのね……」

「ボビン、怖い。あの眼鏡のシロウ、ここにいないのに店を改造した……」

「こりゃあ、カケルが頭上がらねぇわけだぜ……」


 スタッフたちが戦慄する中、ヨシコがパン!と手を叩いた。


「はいはい、あんたら落ち着き! カケルがパンクしとるやろ!」


 一喝。

画面の中の弟妹たちが、シュンと静かになった。


「ハナコも、若い子いじりすぎや。シロウも勝手に店改造すな。……まずは飯や。カケルもスタッフの子らも、腹ペコなんや」


『……せやな。ごめんよカケル、つい職業病で』


 ハナコがバツが悪そうに頭を下げる。

ヨシコはカケルに向き直り、ニカっと笑った。


「聞いたな? 今夜は貸し切りや。……ジロウからとびきりのレシピが届くはずやから、私が腕振るったる。あんたの『家族』と『仲間』、みんなで飯食うで!」


 カケルは、画面の中の騒がしくも温かい親族たちと、目の前の母、そして背後でまだ顔を赤くしているルシアナたちを見渡した。

ため息が漏れる。

けれど、その口元は自然と緩んでいた。


「……了解。調理担当は俺でいいんだよな?」

「アホか! 今日は私が作る! あんたは座って食べる係や!」


 最強の母と、最強の一族。

異世界《前借亭》に、かつてない規模の「業務改善おせっかい」の嵐が吹き荒れようとしていた。


(続く)

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― 新着の感想 ―
本当に優秀な一族だね。職場改善が凄すぎ。でも、カケルのために全力。だから、これでいいのだ。  最後の「アホか! 今日は私が作る! あんたは座って食べる係や!」がオカンの愛で溢れててとってもよかった。カ…
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