19.ゴリ押し幼女は前を見据える
「せいっ!」
掛け声と共に大剣を振るい、同時に魔物が消える。
イワヒバと別れた次の日、イワヒバはダンジョンで冒険を始めることにした。
「それにしても人いないねー?ここってまだ誰もクリア出来てないんでしょ?」
【もうみんな諦めてるんやで】
【レベルが足りない】
【1番近いダンジョンなのにまだクリア出来てないの?】
【1番近いからって簡単ではないってこと】
「え!?ここって難しいの!?──」
村から1番近いからと言ってそこが1番簡単とは限らない、というおかしな仕様に、流石の廃人達もキレそうになっていた。
しかしイワヒバは、そんな理不尽に驚いた訳でも、ましてや怒った訳でもない。
「──うっそだー」
【嘘じゃねえよw】
【君がおかしいんだよ?】
【上手すぎなんだよなぁ】
【初心者って実は嘘だった?】
そう、現在イワヒバは非常に順調に進んでいた。
大剣というただでさえ攻撃力の高い武器で、ほとんど攻撃力特化のステータスビルドをしている。
そんなある意味玄人向けのステータスなのはイワヒバが上手すぎるからだ。
元々は攻撃と物理防御を交互に振っていたが、ある時ふと気づいたのだ。先に攻撃して倒せば攻撃が当たらない、ということに。
そんなこんなで、耐久で困るまでは攻撃力特化にしようと決めてしまったのである。
「2,3回攻撃すれば倒せるし、あんまり難しくないと思うんだけどなぁ」
モンスター自体こそ、村周辺のエリアにいるモンスターが多いが、レベルは圧倒的に高い。
イワヒバのレベルでは勿論、1歩先を行く廃人達でさえ、ボス部屋までたどり着くのすら難しいのだ。
「みんなさー、私が健康になったら食べて欲しいオススメの食べ物あるー?」
廃人達も諦めるような数の罠やギミックを叩き切りつつ、そんな質問をする。
生まれつき病気や体質の影響で、口から物を食べるということがほとんどない。
そんなイワヒバにとっては、食事こそ最大の憧れであった。
【米食おうぜ米】
【ニンニクいっぱい入れたラーメン食べて体力つけてほしい…】
【早くスパチャさせてくれ】
【美味いものたくさん食え】
【みんな!イワヒバちゃんの初めてを決めるんだぞ!慎重に選べ!】
【卵かけご飯】
【いきなり美味しいもの食べたら美味しいものしか食えなくなるぞ】
【オススメの食べ物聞かれてるだけなのになんで泣けてくるんだ…】
【肉食え!!!!魚食え!!!!野菜も食え!!!!!】
「あはは、うん、いっぱい食べるね!待っていればそのうち治療法とか、全身義体とかできるかもだから、それまで死ななきゃいいけど」
コメントが少し重たい空気になる。
この少女は、いつ死んでもおかしくないのだと、他でもないその少女自身が度々言うのだ。
視聴者という、ただの他人でしかない人達ですら、目を背けたいと思うのにだ。
「もー、大丈夫だって!私、赤ちゃんの時も含めたら2回余命宣告受けてるけど、死んでないし!あ、分かれ道……こっちかな」
そんな、強がりにしか聞こえないセリフを、心の底から笑顔を浮かべて紡ぎ、歩き続ける。
すると、ゴゴゴゴゴ…と地面が揺れ、目の前から通路ギリギリの大きさの石の玉が転がってくる。
「私だって、死ぬのは怖いよ。我慢だけの人生だって辛い」
逃げ場のない大きな絶望に対して、人の取れる行動は少ない。
無駄だと分かっていて逃げるか、諦めるか。
「でも、だからって諦めたら、なんにもできないから」
イワヒバは剣を構える。
【逃げて】というコメントで溢れかえる中、逃げるでもなく、諦めるでもなく、立ち向かうという選択を証明するかのように。
「『鋼鉄斬』ッ!!」
今、イワヒバができる全力を浴びせ、大玉を破壊する。
「やった!みんな見た!?凄くない!?」
鬼神のような気迫と一転して、いつもの調子に戻り、無邪気にはしゃぐ。
【うっそだろ】
【大玉を破壊はもう草も生えない。凄い】
【ゴリ押し幼女…!?】
【映画のワンシーンじゃんこんなん】
【凄い!!】
【かわいい】
【かわいい】
【ゴリ押し幼女かわいい】
【凄すぎんよ】
【かわいい】
【今さっき大岩を破壊したとは思えない無邪気さだ……】
【言ってることとマッチし過ぎてヤラセを疑うレベル】
【かわええなぁ】
「えへへ〜。えーっと、みんなも、もしかしたら凄い大変なことが起きて、絶体絶命!ってなっちゃうこともあるかもしれないけど、こんな風に気合と根性でだいたいなんとかなるから!!」
そう言って締め括りながら、まっすぐ前を向いて歩いていくのであった。
「鋼鉄斬」……「大剣(初級)」スキルの中で最も攻撃力の高いアーツ。
約2秒もの溜めを必要とする、実用性の乏しいアーツであるが、当たれば転がってくる巨大な岩もも砕く程の威力を出せる。




