20.理論上可能ならなんでもできる女vs気合いで不可能を可能にする幼女
「ついたー!!……かな?」
【ボス部屋だね】
【水晶でセーブも忘れずに】
岩を壊し、そのまま進むとすぐにボス部屋に通じるが扉があった。
イワヒバが通った道は、実はショートカットルートであり、なんらかの方法で岩を破壊することで通れる道であった。
しかし、イワヒバとほぼ同時に正規ルートから入ってきたプレイヤーがいた。
我らが人力TAS、牡丹である。
「ありゃ?人がいた」
「あっ……えっと、こんにちは」
「はい!こんにちわ!」
人見知りの牡丹としては気まずい状況であった。
先日、ピンク頭のせいで1日別のゲームで気分転換して、今日は人のいないらしいダンジョンで遊ぼうと思っていた矢先に、またちょっと面倒くさそうなタイプの人が出現して己の不運を呪っていた。
「あ、えっと、お先どうぞ…」
「えっ?ボスって2人で挑戦できないんですか?」
揉めたくもないので、先を譲ってやり過ごそうとする牡丹であったが、イワヒバとしてはせっかくだし2人で攻略しようなんて考えていた。
「いや、できるけど……やめておいた方がいい。私とやってもつまらないから」
「え?なんでですか?」
「……私が、強すぎるから」
これは決して煽りではなく、牡丹なりの親切心であった。
自分なら、ここのボスがどれだけ高性能のAIを積んでいても圧倒できる自信がある。だからこそ、特にこのボスが初見なら、私が倒してしまって何もできないまま終わるなんて呆気ない思いはさせたくなかったのだ。
そう牡丹が説明すると、イワヒバが頬をプクッと膨らませた。
「む、私だって、こう見えて結構強いんですよ?」
「……!」
牡丹は目を見開いて驚く。自分に対して強さを主張するなど、数年ぶりの事だったからだ。
人力TASなんて言われてから何年経っただろうか、いつしか牡丹より強いと主張する者はいなくなっていた。人間扱いすらして貰えないのが当たり前になっていた自分になにより驚いていた。
目の前の少女に向き合う。
よく考えれば、これだけ小さいアバターであのサイズの大剣を使いこなしているのだとすれば、相当強いはずだ。案外、ちゃんと共闘できるのかもなんて期待する。
そして、気がつけば『決闘』ボタンを押していた。
「えっ…?あ、あの…?」
当然イワヒバは、突然のPvPの申し込みに困惑している。イワヒバのコメント欄も同様の困惑と、あの牡丹が決闘を申し込んだという事実に対する興奮が入り交じり盛り上がっていた。
「私と戦って!そして勝って!その強さを、私に証明して!」
牡丹は初めてゲームを買ってもらったあの日と同じくらいに目を輝かせていた。興奮で動悸が治まらなくなる。いや、動悸を治めることはできるが、したくなかった。興奮を冷めさせたくはなかった。
「……わかった。勝ったら一緒に戦ってよね!」
勢いよく『YES』のボタンを押す。
2人がバトルフィールドに転送される。障害物のない、平坦なステージだ。
カウントダウンが始まる。
『5』
イワヒバは武器を構えて、目の前の赤い少女を見据える。
『4』
対して、牡丹は構えない。
『3』
それでも、舐められている訳ではないことは、イワヒバにもわかった。
『2』
はやる鼓動を楽しみながら、目だけは真剣で。
『1』
そして、世界一長い5秒間が終わった。
『START』
「これくらい避けてよね!!」
その瞬間、牡丹の姿が消えた……ように見えたのは我々凡人だけだっようだ。
イワヒバは牡丹の動きをなんとか捉え、牡丹のストレートパンチを大剣でギリギリガードする。
「はやい…っ!」
牡丹も勿論ガードされることは織り込み済みだ。すぐにイワヒバの後ろに周ってそのまま飛び蹴りを喰らわせる。
「そこっ!!」
牡丹がイワヒバに攻撃をガードされてから、後ろに周り、飛び蹴りのモーションをするまで、20フレーム……つまり0.3秒。
凡人は勿論、トッププロでさえ見切るのは難しく、動く前に牡丹の動きを読めば一撃は防げるレベルの攻撃だ。
それをイワヒバは『見てから』、ガードどころか、牡丹の攻撃に合わせて剣を振るった。
蹴りと大剣の一撃がぶつかる。当然蹴りが押し負け、牡丹がダメージを喰らう。
「アハハハハハハハハハハハハっ!!すごいっ!すごいよ!私の攻撃を見てから行動した!貴方にも、私と同じように見えているんだ!」
「……?何を言って……」
「あぁ、まだ自覚はないんだ。大丈夫、直ぐに分かるから。……さあ、本気でいくよっ!」
意味深なセリフを残し、本気で攻めにいく。
さっきまでの鼓動は無理やり治め、表情も無理やり真顔に変えて、容赦なく攻める。
それはいつもの少しだけ退屈な『魅せるプレイ』じゃなく、本気で勝ちにいくプレイだった。我々にそれを視認することはできないが。
「くっ…!あたらないっ…!」
牡丹が攻撃すると、イワヒバがそれを的確にガードする。だが、ガードできるだけだ。
時々、反撃をすることはできる。だがさっきのように当たってはくれない。全て回避され、ダメージを1度も与えることが出来ずにいる。
「…っ!!『五連斬り』!!」
だが、ついにイワヒバがほんの一瞬の隙を見つけ、アーツを使う。
「ここで一気に決めるっ!」
「残念、惜しいね♪」
攻撃力の高いイワヒバの『五連斬り』なら、防御力に一切振っていない牡丹を倒すことができただろう。
だが、一瞬に見えたその隙は、素手での通常攻撃では有り得ない隙だった。特に、人力TASとまで呼ばれる牡丹には。
イワヒバはそんなことは知らない。
その隙が自分を誘い込む罠であることはおろか、目の前の相手が人類最強と呼ばれるプロゲーマーであることも。
ゲームとは、知っている者が勝つ。
だからこそ、全てを掌握している牡丹は勝ち続け、何も知らない少女はこの勝負で勝つことができない。
「うぉぉぉおおりゃあああああっ!!」
一撃ごとに紙一重で躱す。
最後の五撃目を躱したら、後隙を狩って終わり──案外呆気なかったな、なんて思いながら攻撃の準備をする。
(今だ)
『五連撃』を知っている牡丹は、最後の一撃を躱す動きをしてから間合いに入る。
だが、躱してはいなかった。
「ぁぁぁあああああああああ!『回転斬り』ッ!」
(うそっ、技キャンセル!?有り得ない!)
技キャンセルとは1部のゲームで、技を中断したり、後隙をなくしたりするテクニックのことである。大抵はバグや、仕様の穴をついたような方法。
少なくとも仕様上、技キャンセルができないことは牡丹自信で検証済み。つまりは理論上不可能ということだ。
つまりイワヒバは気合いで不可能を可能にしたということである。
(でも回転斬りならまだ間に合う!)
イワヒバの『回転斬り』をギリギリのところでジャンプして躱す。
このままかかと落としからコンボを決めて終わりだ。
(これで──終わり!)
「うぅぅごおぉぉけぇぇぇぇ!!!」
「っ!?」
まただ。大剣スキルの『回転斬り』の後隙は25フレーム。
だがイワヒバは『回転斬り』の動作が終わる前に、次の行動へ移して、後隙をなくした。
「まだだ!私は負けない!『奈落落とし』!!」
牡丹が初めてアーツを使った。落ちる速度が上昇する。
体が無理やり動かされる感覚が苦手というのもあるが、そもそもアーツより速く動ける牡丹からすれば、無駄に隙を晒すだけのアーツは基本使う必要がなかった。
ここで『奈落落とし』を使ったのは、アーツを使えば威力が上がるからだ。
つまり、大剣の一撃と相殺する。
「ぐっ……!いっ……けえええぇぇ!!」
互いの攻撃がぶつかり合い、そして──イワヒバの身体が崩れ落ちた。
「え?」
『緊急ログアウトを開始します』。
そのメッセージと共に、イワヒバのアバターが消えた。
【今回描写できなかったけど一応説明しておきたい設定】
『格闘家』ジョブについて。
格闘家はグローブ系以外の武器を装備することはできない代わりに『コンボシステム』というのがある。
3秒以内(ガチな格闘ゲームではないので長めに設定されている)に次の攻撃を当てることでコンボが繋がり、威力が増していく。
『格闘家』の場合は最大10コンボで最大2倍まで上がる。上位のジョブになると最大コンボ数と倍率が上がる。
【ついでに作者からのお願い】
「イワヒバちゃんどうなっちゃったの!?」
って人は広告の下にある☆☆☆☆☆評価お願いします。
「2人ともgg!」
って人は☆☆☆☆☆評価+ブクマお願いします。
「イワヒバちゃんかわいい(*´д`*)ハァハァ」
って人は星5評価お願いします!!




