欲。
「何でもって。何でも持ってたのは兄さんの方じゃ無いか!」
「ワタシは確かに第三王子で王位継承権もあった」
ガンとノワールの剣を弾くレヒト。
「だがそれは兄上たちの予備の予備でしかないそんなあやふやなものだ! なんの価値も無い!」
「だからって!」
「病弱のワタシはずっと元気に飛び回るお前が羨ましかった。人々から好かれ、勇者と崇められるお前は嫉妬を通り過ぎて憎くもあった」
「そんなの!」
「お前にとってはそんなものなのだろうよ! 頑強さも、愛らしさも、勇者としての名声も! だが!」
「だから俺を殺そうと思ったっていうの!?」
「そうだよ!」
「そんなの!!」
ノワール……。
ああ。
ノワールは兄さんたちが大好きで、その大好きな兄さんたちに喜んでもらいたくて。
勇者として頑張っていたのだって、そのためだったのに。
「だが、今のワタシのこの体を見よ! この力を! 人を超越したこの完成された生命体としてのワタシを! 病弱で何をすることも出来ず弱々しく生きることしかできなかったワタシでは無い!」
「悪魔に魂を売ったのか! 兄さん!」
「それの何が悪い!」
「人間としての尊厳はどうした! 王族としての使命は! 忘れてしまったのか!?」
「ははっ! 生きていくのに理由が必要か? 快楽を求めるのに意味が必要か?」
「少なくとも俺にはそれは重要で必要なものだよ!」
「そんな甘い事を言うからワタシはお前が嫌いなんだ! そのくせなんでもその手にしてしまうお前がな!」
レヒトは左手をブンと横なぎに払った。
「ノワ!」
その圧をまともに受け吹っ飛ぶノワ。
あたしも全力でそちらに飛ぶ。
「どうだこの力をみよ! 欲望のままに、快楽のままに、そうして生きても誰にも否と言わせることのない力を! ワタシはワタシがしたいように生きる! 今はただそれだけが望みだ! 何をも跳ね返し、何に囚われることもなく、ただ快楽に生きる、それが!」
「ノワ!」
あたしは倒れたノワを抱き上げ顔を覗き込む。うん、意識はしっかりしてる、大丈夫。
「兄さん……」
悲しげな表情を浮かべるノワ。
うん、レヒトは、
あれはレヒトの欲。
人の欲は魔と化す。
そうした魔が暴走した結果がゲームのラスボス魔王だった。
でもあのレヒトは、
欲が魔となり、魔界と繋がり悪魔となり、その結果本物のレヒトを食べ尽くしてしまった、と。
レヒトの欲に潜り込んだ悪魔の種子。
魔界からやってきた悪魔だと、あたしはそう思っていたけど。
どうやらそれだけでは無い、そんな。




