真っ赤な口。
「お前たちは本当に面白いな。特にそこの娘。お前、魔にならないか? 歓迎するぞ」
真っ赤な口を開きそういい放つその悪魔。レヒトは表情こそ崩さずに、唇の角度だけで笑いを表現したかのように。
「断る!」
そう答えたのはあたしじゃなくて、ノワールだった。
「はは、ノワールよ。ワタシはお前に聞いたんじゃないんだがな」
「天と地がひっくり返ろうがあり得ない。お前がそう彼女を誘惑するのなら、それは俺が必ず、全力を持って阻止する!」
ノワは近づく魔獣を薙ぎ払いながらそう叫んだ。
悪魔レヒトを中心にじわじわと溢れていた魔はその流出を終えたのか、今や新しい泡は湧いてこなくなった。
空の魔獣たちをあらかた一掃した竜たちは、レヒトを取り囲みあたしの命令を待っているようだ。
地上はソユーズたちが最後の残った魔獣に相対するだけ。
これでおしまい?
竜たちはレヒトを睨み、距離を保っている。
あの得体の知れない異次元の存在感に、迂闊に手を出せないでいる。
というか。
あれはあそこに居るように見えて、あそこに存在していない?
あの場にもし全竜種の全力のブレスを放ったとして。
それを鏡のように全て跳ね返される、そんな未来が見える。
空間が捻じ曲がっている。それだけはあたしにもわかるから。
「竜にはわかるんだね、ワタシには敵わないって」
真っ赤な唇がそう言う。
悔しい。けど、あいつの言ってることは多分正しい。
竜はギアの化身だから、それぞれこの空間より高位に手が届く存在だ。
そんな竜にとっても、あの悪魔が存在している場所までは届かない。
そこまで届き得るのは、多分この中ではあたしだけ。
あたしの天神族としてのポテンシャルであればきっと、あそこまで手が届くのだろうとは、思うけど。
怖い。
得体の知れない恐怖があたしを襲っている。
「サモン! マジックサークル!」
ラプラス!?
彼の声が聞こえる。
「ダブルプレス! マギア!」
宙に浮かぶレヒトの、その足元に二重の魔法陣が浮かぶ。
あれは。
「ダークバインド!!」
漆黒の闇の手が伸びる。
あれはあたしを一時的に拘束した見えざる手?
闇の空間魔法、そんな魔法陣から浮き上がる見えざる手がレヒトに向かって伸びる。
「ゴッズディーン!」
「イグニッションスパーク!」
「アブソリュート・ゼロ!!」
すかさず彼らが口にしたのは先ほどあたしに向かって放たれた三位一体の必殺の魔法。
黒と白。光と闇。
そんな対照的なエネルギーが混じり合う渦が。
地表の空気を巻き上げながら、嵐となって悪魔レヒトに向かって放たれた。
ゴゴゴと爆音をあげ吹き飛ぶそのエネルギー。
竜たちは円を描くようにまわり、その被害があたしたちに及ばないように結界で抑え込む。
ああ。ごめんね。
きっと彼らにとっても最後の魔力を振り絞った攻撃だったのだろう。
力つきその場に膝をつく三人。
怪我をしているわけじゃない、単純に自身のマナを使い切った、そんな感じで崩れ落ちる。
「化け物め」
ソユーズが最後に吐き出した言葉は、さっきあたしに言われたよりももっと憎しみがこもっている、そんな声だった。




