19話
普段、というか今まで一度たりとも見たことのない明るい性格のティーナがありえないほど感情を無くし、冷めた目で男を見ていることに、ディルたちはティーナの視線が自分たちに向けられているわけでもないのに背筋が凍った。
そして、その視線をぶつけられている男は顔を青から白に変化させ今にも気絶しそうな勢いだ。
だけど小さい子に傷をつけることも厭わず、大事な仲間を傷つけた相手を気遣えるほど私は優しくない。
黒より深い漆黒に染まったナイフを手に取る。
「なっ!おい!ティーナ!何やってるんだ!早くそれを離せ!」
「私なら大丈夫です」
ディルやフレインが私を見て焦っているが、それより今はこの男に聞きたいことがある。それにこの程度の闇に私は呑み込まれるはずが無いと何故か分かった。
「貴方に聞きたい事があります。このナイフは何処で手に入れたものですか?」
「ひ、ひぃ........!かっ、買ったんだ!」
「へぇ、どちらでですか?こんな危険なものそこら辺でで売っている訳ないですよね?」
私は怒りを抑えるためにわざと笑顔を浮かべたのだが、何故かディルたちも含めて顔を真っ青に変えていた。
「しぇ、シェルドザ......だ.........」
「シェルドザ?」
聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまったが、私と違いディルやフレインは聞き覚えがあるのか目を大きく見開き驚愕している。
「シェルドザ.....だと...!まさか実在するのか?!」
「そ、そうだ。その子供も元々はそいつらに渡す予定だった」
話についていけてない私と違い、ディルとフレインは理解しているようでなんだかもどかしい。
「あの、二人はそのシェルドザが何か知ってるの?」
話しかけると一瞬二人の方が少し跳ね上がり、こちらに振り向いたが二人は何故か私の顔を見ると安堵したように息を吐いた。
「あぁ、知ってるぞ。何しろ有名な話だからな。とは言ってもみんなただの噂としか思っていないと思うが」
「その話は後にしようよ。アルカナもその子も早く休ませたほうがいいだろうし。一先ずは早く宿に帰ろう」
「そうだな」
「えぇ」
***
私達は街につき衛兵に事情を説明し男を突き出した後、獣人の男の子も連れて宿に戻ってきた。
今この部屋にいるのは、私とディルとフレイン。そして未だにベッドで眠っているアルカナと男の子だ。
私は男の子の茶髪を優しく撫でた。本来は真っ白な髪色をしていた男の子だが、街に戻ってくる前にディルとフレインに髪色を変えられる魔法があったら男の子の髪色を変えて欲しいと頼まれ、それからずっとそのままにしているのだ。
その時ふと隣で眠っていたアルカナのまつ毛が震えた気がした。だが、それは勘違いではなかったようだ。
「......んうっ.........」
「「「アルカナ!」」」
「ふぇ?!な、何?ってみんなどうしたの?!」
思わず叫んでしまった私達の声に驚き飛び起きたアルカナだったが、私達はいつものアルカナに戻っていることに安堵した。
だが、隣でもう一人眠っている子がいるのを思い出し、私達は急いで口をつぐんだ。
「アルカナ、今日あったこと覚えてる?」
フレインが小さな声でアルカナに問う。
「へっ?え、ええっと、依頼を受けて荷馬車を追いかけて、男の子を助け出して、黒いナイフで指を少し切っちゃって.........えっとその後って.........」
その先を覚えていないことに安堵する。誰もあんなことをした記憶を覚えていたら、辛いだろうから。
だが、何が起きたかは説明しなければならない。それじゃ無いとここから先の話ができないからだ。
フレインがあの後起きたことを大雑把に説明していく。話が終わる頃アルカナは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「みんな......ごめん」
「そうじゃないわ。アルカナ。そういう時はありがとうって言ってください!」
そう言って笑ってみせると、アルカナも涙目になりながらも笑顔を返して、「ありがとう」と、口にした。
だが、私も言わないといけない事がある。元々私があんなことをしなければアルカナがああなることもなかったからだ。だけど私はこの子を助けられてよかったと思っている。
「...あの、みんな本当にありがとうございます。お陰でこの子も助けられてよかったです」
私は謝らなかった。アルカナにあんな偉そうなことを言っておいて自分がそうするわけにはいかないから。
「うん」
「おう」
「そうだね」
そんな私を仲間として大切にしてくれる。私は出会ったのがみんなで良かったと心からそう思った。
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