ユハとケルナ①
ユハは俺を農園に案内した。ケルナの守る東門に近い傾斜地にある段々畑だ。そこには見たことの無い草が植えられていた。
「これはなんだ?」
俺が尋ねるとユハは
「棉花だ」
と答えた。棉花は羊のなる木とも呼ばれ上質な綿が採れる、綿の繊維で糸を紡ぎそれを編むことで木綿と呼ばれる布が出来る。これがとんでもなく肌触りがよく、俺がケルナの家で借りた毛布は表面をこの木綿でくるんでいたのだそうだ。
確かに肌触りはよく最高に寝心地も良かった。
この棉花の栽培でこの山の上にあるスツーカの街は潤っているのだった。
俺はユハとその手下の男達と一緒になってこの畑に生える雑草をむしっていった。
ふと見ると棉花に小さな花が付いていた。
「おっ花が咲いてるな」
俺がそう言うとユハがのぞき込んできた。
「おお本当だ、なんと可愛らしい花か。これはケルナにも見せてやらんと」
「……は?」
ここからは東門を守るケルナの姿が遠くに見える。ユハは立ち上がりケルナに向かい大声で叫んだ。
「おーーい、ケルナ! こっちへ来てみろ!」
こんな遠くから呼んだって聞こえるものか、と思いながら見ているとケルナはこっちに向いて大きく手を振ると駆け出した。
聞こえたのか……
ケルナはここの住人だ、俺たちと違ってこんな花など見飽きているいるだろうにあんなに勢いよく走ってこちらに向かっている。
ケルナの足は速い、あっという間にやって来た。
「ふうっ、ユハさん何か用ですか?」
「ケルナ、これを見てみろ、こんなに可愛らしい花が咲いている」
ユハは楽し気に花を指し示すが、こんな見慣れたものを差されてケルナはさぞ困惑することだろう、そう思って俺はケルナを見た。
しかし……だ。ケルナは手を叩き目を輝かせながらこう答えた。
「まあ素敵。もうそんな時期になるのね」
なんと出来た女だろうか。だが何となく気の毒な感じがしたので俺は気を利かせたつもりでこう言った。
「……ああ、すまんなケルナ。こんな花などお前さんたちは見慣れたものだろうに遠くからわざわざ呼び立ててしまって……」
するとケルナはきっと俺を見た。
「いいえタケゾウさん。ユハさんはこういう小さなことに喜びを見出せる人なのです。そういう感性にケルナも触れることが出来て嬉しいですっ」
「…………ああ………………そう……」
俺には他に答える言葉が見つからなかった。
少しの間二人で花について会話が続き、ケルナは深くお辞儀をして持ち場である門へと戻っていった。
ユハとの作業はこの後も続いたが、珍しい蝶がいただの葉っぱが枯れているように見えるだの些細なことでもユハは何かあるとすぐにケルナを呼ぶ。そしてケルナも呼ばれる度に走ってやってきてはユハの話を聞き楽しそうに会話をしていく。
俺は……何を見せられているのだろうか。
そんな疑問がふとよぎった。




