スツーカの朝④
野次馬たちは俺とケルナの決着を見て騒いでいる。俺たちの勝負で賭けをやっていたようだ。
やはりというか、やっぱり地元のケルナが人気だったらしく嘆き声が一際大きく聞こえてくるが俺にとってはどうでもいい話だ。
ケルナはとぼとぼと歩いて俺の近くへくると大きく溜息を吐いた。
「タケゾウさんお手間を取らせてすみませんでした、本当にありがとうございました」
「いやいや、なかなか楽しかったぞ」
「でも私……一度も攻撃を当てることすらできなくて……」
「しかしあの肉迫する攻撃は良かったぞ、俺は剣を振るう事も出来なかったし何より足を絡めて動きを封じるのもいい、あれをやられちゃたまらん」
ケルナは少し笑った。
「そうですか? でもあれはタケゾウさんが木刀だから出来るんですよ。手首を撲たれた時に、どうせ撲たれてもちょっと痛いだけなんだって思って……それで……」
と、話しているとロッタが俺の剣を持ってきてくれた。
「ほれ」と俺に剣を渡すとケルナを見た。
「この男の疾さは人外のものじゃ……まだまだ本気ではないようじゃが、それに肉迫出来るそなたもまた人外の疾さといって良かろう。まさに疾風じゃな」
「……まだ……本気じゃない…………?」
ケルナは愕然とした顔で俺を見た。俺は返答に困る……
「いやあ……何というか……馬鹿にしている訳じゃあないんだが……」
ケルナは頷いた。
「分かってます、手合わせをすればそれは分かります。私がタケゾウさんに及ばないというだけのことなんですね」
「ううむ……それもなあ……何というか、及ばないという訳じゃあないぞ、さっきも言ったがあの肉迫するやり方は良かった。ケルナは速さに自信があるのだろうが、その速さに頼った戦い方……という印象を受ける」
ケルナはきょとんと俺を見る。俺はもう少し詳しく話を続けた。
「つまりだな、速さの劣る相手と戦うならそれで十分勝てるだろうが自分と同等以上の速さを持った相手と戦うのであれはそうはいかない、ということだ」
ケルナは目を丸くしている。
「あ……ありがとうございますっ! 私、タケゾウさんよりも速くってばかり考えてました。そうですね、自分よりも速い相手とも戦えないといけませんね」
「まあ、そういうことだ」
ケルナはにこりと笑った。初対面の時の印象と違いケルナはとても真面目で自分の弱さについても真摯に受け止めることが出来る。これほどの強さを持ちながら驕ることもなく謙虚なのも好感が持てる。
何より周りから好かれていることがこの娘の良さを物語っている。
「あっ、そうだローテアウゼンさん」
ケルナは思い出したように手を叩いてロッタを呼んだ。
「お? なんじゃ」
「はい、この街にも魔法使いが三人いるのですがその中の一人がローテアウゼンさんのことを知っているそうで……」
「……ほう、儂のことをか?」
「はい、伝説の魔法使いなのだそうですね。是非お会いしたいと言っていました」
「うむ……まあ伝説というが随分昔の話じゃからの……」
「よろしければ今晩うちに呼んでもよろしいですか?」
「儂は構わんが」
ケルナは嬉しそうに手を叩いた。
「ではそう伝えておきますね」
そしてケルナは周りで騒いでいる野次馬に解散を促し、弟のブチナを叱責して持ち場へと帰らせた。
「それでは私も持ち場に戻ります。どうもありがとうございました」
最期まで礼儀正しくケルナは去っていった。おかげで俺は気持ちよく朝の運動を終えることが出来た。
「旦那ぁ、さすがだねえ。ケルナに勝てるやつなんざ旦那だけじゃねえのかい」
いきなり肩を組んできたのはユハだった。いつの間にか集まってきていたらしい。
「おお、あんたか。野良仕事じゃなかったのか」
ユハは気まずそうに笑った。
「へへへ、ケルナと旦那がやってるって聞いちゃじっとしてられなかったんで……」
俺は一日することもなかったんで、ユハと共に農作業を手伝うことにした。




