スツーカの朝③
ケルナは前傾して低く構える。
その表情だけでなく雰囲気が少し変わった。何かをやる気なのだろう。俺はケルナに合わせ低めに剣を構える。
ケルナは正面から間合いを詰めてくる。やるぞ、と欺瞞の動きを見せるが今度は反応を見せない。よほど慎重に俺を見ているようだ。そうしている間に俺の間合いへと入ってきた。
手首を狙い小さく左へ薙ぎ、すぐに返して右に振り払う。
ケルナは小さくさばいて刃をかわすと俺の剣を拳で抑えたままで体を捻り一気に肉迫してくる。
俺の顔のすぐ前にケルナの背中があった。
「……おいおい」
これはやばいことになった、俺は危機を感じて退くがケルナは足を軸に回転するようにして追ってくる。
ケルナは体の回転に合わせ裏拳でタケゾウの頭を狙うが、これはかわされる。しかし続けて肘鉄から下段蹴りと攻撃は続く。
ケルナが足をタケゾウの両足の間に差し込んでくるのでタケゾウは思うように動けず、ケルナに肉迫されたまま防戦一方となる。
こんな戦い方があるとはな、こんなに肉迫されちゃあ剣を振るう事も出来ねえ。距離を取ろうにも足を差し込まれてて思うように動けねえ、下手に動けばもつれて転んじまう。
執拗につきまとうケルナの攻撃を裁きながらケルナの拳を剣の柄と肘で絡め取り、俺はケルナを投げ飛ばした。
転がるケルナを追い、止めとばかり剣を振り下ろす。
ケルナは地面を転がり俺の剣をかわす、上体を起こし、驚いたことに今度は手刀と拳で刃をさばいて俺の連打をかわす。肘か手首を討って終わらせたいのだがなかなかに粘る。
なかなかに楽しませてくれる、なんて思った次の瞬間、木刀の刀身が砕け散った。
「……なっ!?」
ケルナが左右両方から挟み込むように拳を打ち込み砕いたのだ。同時に渾身の拳が放たれた。
俺はまさに紙一重にかわす。それでも顔が半分無くなるかと錯覚させる凄まじさだ。
だがこれが好機、俺はすかさず懐へと滑り込み、根元に僅か残った刃をケルナの首元に突き付けた。
ケルナはゆっくりと目を閉じた。
「…………参りました」
ケルナに突き付けた木刀を外し、立ち上がると殺気を感じた。俺は素早く一歩退くとケルナとの間に割って入るように男が降ってきた。男はすぐに俺に殴りかかってくる。
ケルナに比べると大振りで予測のしやすい動きの上に遅い。俺は拳を避け蹴りを避けると木刀の柄で男のデコを小突く。
「あたっ!」
まだ殴りかかってくるのでこれも避けてデコを突く。
「あたっ! またデコを……」
まだ抵抗しようとするので俺は続けてデコや肩を小突いてやる。やがて戦意を失いケルナの前で尻もちをついた。
「いってえぇ……」
男は俺に小突かれたデコや肩をさすりながら起き上がる。
「ちょっとブチナ! なにやってるの?」
「姉ちゃんの敵討ちに決まってんだろ」
「お姉ちゃんが敵わないのにブチナが勝てるわけないでしょ」
ブチナは口を尖らせそっぽを向いてしまう。
俺は面食らいながらケルナに訊ねる。
「ええと……ねえちゃん……?」
ケルナは慌てて頭を下げた。
「あっ、ごめんなさいタケゾウさん、弟のブチナです。失礼な子ですみません」
とくに怒ってるわけじゃないしな俺は笑って答える。
「構わん構わん、男の子は元気な方がいい。それにしても随分齢の離れた弟なんだな」
「……え? 2つしか違いませんよ?」
…………なんだと?
「おい、ボウズ」
俺が問うとブチナは背筋を正し俺に向いた。
「はいっ! なんですか?」
「お前の齢はいくつだ?」
「はいっ! 15歳です!」
ということはケルナは17歳……なんてことだ、エミリアと同じ齢じゃないか。
俺は思わずケルナを見つめた。言われてみればたしかに肌艶はいい。
タケゾウの不躾な視線を感じ、もじもじと恥じらいながらケルナは言った。
「あ……あの、なんでしょうか?」
俺は慌てて視線を外した。
「ああ……すまなかった、あまりにも……その……ケルナが大人びていたものでな……」




