タケゾウと門番
俺たちはやっとスツーカのふもとにまでやってきた。
よく整備された道は馬車も走りやすく、フリューゲにとっても歩きやすいのだろう足音も軽快で歩く速さも速く安定していた。
道路脇に植え込まれた木々をロッタが凝視している。何かあるのだろうか……しまいには身を乗り出して凝視している。
「危ないぞ、そんなに珍しいものがあるのか?」
俺が問うと
「……んー、いや……何でもない」
そう言って御者台に座り直した。
昼を少し過ぎた頃、俺たちはスツーカに到着した。
関所では街に入るための手続きをしてから街の中央にある泉にひとまず馬車を止めてフリューゲに水を飲ませてやる。そしてロッタと二人街を歩いて今夜の宿を探すことにした。
スツーカはそれほど大きな街ではない。だが面積が小さく街の密度が高いために中心部は意外と賑やかに見える。
大通りを歩いていると突然に後ろから声をかけられた。
「おい、お前。その腰のモノはなんだ?」
ぶしつけな物言いに若干苛立ちながら振り向くと男……女? が、立っていた。
「なんだ? 俺に何かようかい?」
「腰のモノは何かと聞いている」
「おいおい、こんな所で抜いて見せろっていうんじゃないだろうな?」
「ここでは武器を所持して街を歩くことを禁止している。大人しくこちらに渡してもらおう」
胸が膨らんでいるのはこいつが女だからだろうな、胸に関してはロッタよりも立派なものだ。だがお世辞にも美人とは言い難く背丈は俺と変わらないかやや大きいかも知れない。自警団か何かだろうか。
俺は剣の柄をぐいっと上げて見せた。
「こいつかい? 大事なものだからな、渡すわけにはいかんな」
「では力づくで奪わせて貰うが」
「やってみ……なっ!?」
やつの拳が俺のすぐ眼前に迫っていた。疾い!
俺は打撃を受ける寸前で右へかわすが、すぐに次の打撃が迫る。なんという疾さか?
こりゃ本気を出さんとまずいぞ、俺は右手を剣の柄にかける。
「タケゾウ! いかんぞ」
ロッタが慌てて叫んだ。分かってる分かってる、こいつを傷つけるなと言うのだろう。
「大丈夫だ」
とりあえずそれだけ返事をしておいて少し本気を出さねばあの拳を貰ってしまいそうだ。
最初の攻撃を俺がかわすとやつは連打を放ってきた。
俺は連打をくぐり鞘に納めたまま剣を抜き、柄で空振った拳の肘を小突く。
やつは思わず苦痛の表情を浮かべて退いた。だがすぐにまた連打を浴びせてくる。今度は何発か俺の顔を掠める。おお、怖ええ。
連打の一発を鞘で受け拳を抑え込むようにして前に出て、奴の顔を鞘で突いた。が、おでこをこつんと突く程度に力加減はしておいた。
「どうした? 俺が抜いてれば今ので終わりだぜ?」
やつは悔しそうに俺の剣を振り払い、立ち上がった。
「どうした? ケルナ……えらく騒がしいじゃないか」
やつの後ろから大剣を背負った男が現れた。
「あっユハさん、この人たちがケルナの言うことを聞いてくれないんです」
大剣を背負った男は俺を凝視する。そしてその表情は見る見る変わっていった。
「あ……あ……ああ……そんな、まさか……あんたは……」
俺を指差し固まっている。どうしたんだ?
「俺だよ、覚えてないか?……ほら、ブルーノの近くであんたに助けてもらった盗賊だ」
ブルーノといえばロッタと出会った街だが……俺はしばし記憶を辿りこの男のことを思い出そうと努力をした。
「んー……お? ああ! あの時の!」
俺はやっと思い出した。ロッタと出会ったあの時、俺が用心棒をしていた行商人の馬車を襲ったやつらの頭だ。
「そうだ、あの時の……だ、思い出してくれたかい?」
「ええと、ユハさんのお知り合いなのですか?」
「ケルナ、前にも話しただろう。俺の命の恩人だ」
「まあ、そうだったのですか! ケルナよりも強い人って初めて見ました」
「なんだ、ケルナでもこの人には敵わなかったか」
「はい、物凄い速くて……悔しかったのですがユハさんの恩人の方なら仕方ないですね」
ケルナは打って変わってにこやかな表情でタケゾウに向き直った。
「ユハさんの恩人とは知らぬこととはいえ失礼をしました」
突然のことで俺も面食らうばかりだが
「まあ、それが仕事だからな……で、こいつは持っていてもいいのかい?」
俺を剣を見せた。
「はい、構いませんよ。どうぞお持ちになってください」
しかしこんな所であの野盗に会うとはな。
「お前さん、野盗からは足を洗ったんだな」
「あんたのおかげさあ……そしてここにいるケルナのおかげでもある、今はこの街でまっとうにやってる」
「そうかい、良かったじゃねえか」
「ところで、こんな時になんですけど山羊の煮込みを作ったのですが……今夜……あの、ケルナの家に食べにいらっしゃいませんか?」
ケルナは少しもじもじとしながらユハを誘った。
「ん?……おお! そうだな! あんたも来てくれ! 連れの魔法使いさんも遠慮はいらねえ、ケルナの料理は美味いんだ」
「えっ! ああ……皆さんもご一緒なのですね、大丈夫ですよ、いらっしゃってください」
ケルナはにこにこと笑った。
こうして俺たちのこの日の宿は決まった。




