二人の日常
朝、俺が目を覚ますとロッタはまだ丸くなって毛布にくるまっていた。かすかに寝息も聞こえている。
隣の馬車ではすでに火を起こし朝食の支度が始められている。
ここは街道脇にある皆が野宿に利用する広場で、所々に石で囲んだ竈が作られ焚き火の跡がある。昨夜はここで野宿をした。
周りには同じように旅をする荷馬車や行商人がやはり野宿をしている。まだぐっすり眠っているのか主の姿が見えない馬車もある。
俺は大きく伸びをして、大欠伸をひとつ。寝ぼけ眼をこすりながら起き出して、火を起こしておくかと昨夜の残りの薪を小刀で毛羽立たせる。
ロッタが起きる前に湯を沸かして茶でも煎れておいてやろう。
「おはようございます、どちらへ行かれるんで?」
話しかけてきたのは隣の荷馬車の主だった。
「おはようございます……ああ、ええと……スツーカという街へ向かうのだが……」
俺が答えるとにこやかに笑った。
「おお、スツーカですか、私はそのスツーカから来たのですよ」
「俺はコリーンという街を出てここまで来たんだ」
「おお、そうですか私はコリーンに仕入れに向かうところなのですよ」
「ほう? ……仕入れ?」
「ええ、私はしがない行商人でしてね……スツーカではゾブリンゲンで仕入れた短剣を売ったのですが……なんでも戦支度の最中らしく、もっと欲しいと言われたので武器や防具を仕入れたいのです」
なるほど、俺に話しかけたのはコリーンの情報が欲しいというわけか。
「コリーンでは魔法学校の魔獣討伐が終わったばかりだが……」
俺も参加していた……とは言わない方がいいだろうな。
「ほう! ……あの恒例のやつですな!」
主の声が大きかったのか、俺たちの会話がうるさ過ぎたのかロッタが目を覚ました。
「……んん……なんじゃ、もう起きておったのか……」
そう言ってロッタは大きな欠伸をした。
「おや、奥様もお目覚めですか……おはようございます」
「……お……おくさっ……!!!」
「いやいやご主人、某は縁あって護衛しておるだけで……そのような仲ではござらん」
「そうですか、なるほど……では異国の騎士様というわけですな」
そう言って主は笑った。
「それでは騎士様、貴重な情報をありがとうございました、私はすぐに出発することにします」
俺は手を振って応えロッタを見た。
「おはようロッタ、今湯を沸かしてるところだ、すぐに茶を淹れてやるぞ」
寝ぼけているのかじとりと俺を睨んでいる。
「おはようタケゾウ、今日も儂の護衛をたのむぞ……」
「ん? おお、まかせろ」
ロッタは無言で毛布を畳み始めた。
俺も寝床を片付けてからロッタに茶を淹れて、まずは一緒に一服した。
この時期、日中は少し暑くなるが朝は涼しく気持ちよい。
「……ふう……どれ、朝餉の支度をしてやろうか……」
そう言ってロッタは鍋を出して焚き火の火加減を調節しはじめる。
「いつもすまんな……しかしロッタの料理は美味いからな、俺が代わってやっても悪い気がしてな……」
ロッタは笑った。
「そうじゃな……では時々練習してみるか?」
「ははは、そうだな、それもいいかもしれんな」
ロッタは保存用の固いパンを蒸して昨夜の残りものの干し肉とチーズを乗せただけの朝餉を支度してくれた。
簡単に作るがいつものごとく美味い。
「そういえばさっきの男だが……」
「行商人のか?」
「そうだ、その行商人が言っていたのだがスツーカは今、戦支度をしているそうだ」
「んん?……この時期にか……?」
「やはりこの時期はおかしいか?」
ヒノモトでもそうだが農繁期に出征はあまりやらない。農作物を荒らしては領土を奪ったところですぐに飢饉になってしまうからだ。通常は収穫が終わってからだ。
「とはいえスツーカは年中戦支度しているような場所でもあるからのう……様子を見ながら行ってみるしかなかろう」
と、この時にはまさか巻き込まれるとは思わず気楽に考えていた。




