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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第三章 コリーンのイセッタ婆さん
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吸血鬼ディートリヒ②

 女王蜂の骸の前にまだやつはいた。

 やつは……ペンドラゴンの亡霊は剣を女王蜂の骸に突き刺していた。

「エミリア……あいつは何をやっている?」

「え?……んー、あれは……魔力を吸い出しているんでしょうか?」

「そうか、分かった。そろそろ降ろしてくれ、俺が合図するまで手出し無用で頼む」

「はい、タケゾーさんお願いします」

「ああ、少しの間待っててくれ」

 エミリアに降ろしてもらってからあいつの前に進み出た。

「よう、また会ったな」

 やつは剣を刺したままで振り返った。

「何をしに来た……?」

 驚いたことにコイツ……まともに喋ってやがる。

「ふんっ、お前の首をいただきにな」

 やつはゆっくりと剣を引き抜いた。

「このわしの……首が欲しいか……若造め」

「その細く鋭い剣、突きに特化した剣術と見受けるが……俺と仕合ってみないか」

「若造、貴様も剣士か?」

「ああ、東の果ての国ヒノモトの剣士だ」

 やつは顔まで覆っていた兜を脱ぎ捨てた。神経質そうな細面のひげ面が現われた。

「……ほう、お前がペンドラゴンの亡霊か」

 やつは後ろにいるエミリア達を睨んだ。

「それは魔法使いどもがそう呼んでいるのだろう……いいだろうヒノモトの剣士よ、相手をしてやろう。我が名はディートリヒ、またの名をグラフシュピース」

 こいつは驚いた、名乗りやがった。

「いいね……名乗ったか、ならばこちらも礼儀に応じよう。だがその前に聞きたいことがある」

「……なんだ?」

「お前さん、そこの蜂に咥えられてた時と今じゃあ随分と様子が違うんだが、どういうことだ?」

 やつはちらと女王蜂の骸を睨むとぽつりと語り始めた。

「目覚めたばかりで今がいつなのかわしには分からぬが……恐らく遠い昔にわしは魔法使いによって封印されてしまった。封印され深い眠りの中にあったのだが、いつの間にかあの蜂どもに捕われ魔力供給源として虜になっておったようだ。……それからずっと死なぬ程度に魔力を搾り取られておったのだ」

「なるほど、それで今は魔力を取り戻したってわけだ」

 やつは頷いた。イセッタ殿の話と一致する……てことはやつは吸血鬼ってことだ。

「お前さん……吸血鬼かい?」

 やつはにやりと笑った。その口元には牙が、はっきりと見てとれた。

「我が名はタケゾウ! 東の国ヒノモトの剣士なり!」

 俺が名乗るとやつは剣を素早く、鋭く振り下ろす。風切り音とともに細い刀身がしなる。そして胸の前で剣を掲げ、俺を差すように構えた。

 やつに応じ、俺は鯉口を切って構える。

「……どうした? 剣を抜かないのか?」

「こいつが俺流さ、いつでもいいぜ」

「……そうか、いざ!」

 やつはそう言って俺の隙を伺うように俺の左へ左へと回り込む。

 剣先は常に俺の目に向いていて間合いの計りにくい構えだ。だが剣先は必ず俺の急所に向かってくるに違いない。

 じりじりと間合いを測る勝負となった、なかなか仕掛けてこないならこっちからいくか。

 やつがあまりに回り込むものだから俺の軸足が左右入れ替わってしまった、入れ替わる刹那、俺は抜刀し、低く、斬り込んだ。

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