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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第三章 コリーンのイセッタ婆さん
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コリーンのイセッタ婆さん⑩

 朝の放牧は俺の日課となっていた。

 そして草を食むフリューゲを眺めているとしばしばあの娘、エミリアがホウキに乗ってやってくる。

 講義の実習の合間を利用してこっそり抜け出してくる彼女は短い時間しか滞在することは出来ず、たわいのない話を少しの間交わして帰っていく。

 また木陰でぼんやりとフリューゲを眺めていると、今日もふわふわと空からエミリアが降りてきた。

「おはようございます、タケゾーさん」

「よう、おはよう」

 エミリアの服装がいつもと違う。魔法使いらしくない普通の町娘のような服を着て現われた。

「今日はきれいな服だな、どこかへお出かけか?」

 俺の問いにエミリアは首を傾げた。

「今日は日曜日ですよ、タケゾーさん」

「……日曜日?」

 エミリアはくすくすと笑った。

「学校はお休みです」

「ああ、そうなのか。俺には日曜日とか関係ないからな、すっかり忘れていた」

「タケゾーさん、今日はお出かけ出来ませんか?」

 そういえば今朝のロッタは出かけるのが遅かったな。俺がフリューゲの放牧に出る時にはまだ部屋にいたようだった。

 となると早めに帰ったほうが良さそうだな。

「そうだな、馬が落ち着いたら帰らねばいかんな」

 エミリアはつまらなそうに口をとがらせる。

「そ・れ・な・ら!」

 そう言うとエミリアは俺の横にすとんと腰を下ろした。……近いな。

「いつもよりたくさんお話をしましょう」

 少し強い口調でそう言うと膝を抱えて正面を睨むようにして固まった。

「お……おう」

 わずかに不機嫌に見えるエミリアに俺は質問を投げてみることにした。

「なあ、聞いてみるんだが……」

「なんですか?」

「俺のような剣士が魔法使いを守るにはどうするのがいいんだ?」

「魔法使いを……守る……ですか……?」

 エミリアは空を眺めるようにして何かを思案した。

「魔法使いは、普通に戦えば魔法の使えない人に負けることはありません。魔法を使う限りは相手よりもうんと有利なんです。ですが、例えば近い距離で大人数に囲まれてしまったとか魔法を行使した直後で次の魔法の発動まで隙があるとかだった場合、手練れの剣士や槍使いにはやられちゃう可能性もありますね」

「そういうものか」

「はい、それから魔法使いが戦場で徴用されるようになってから長いですから魔法を使えない人が魔法使いと戦うための方法も研究されてきましたし今ではそういう専門の傭兵もいるそうです。それが具体的にどのような方法なのか私は知りませんけど……でもイセッタ校長はこの街の自警団で魔導部隊の責任者やってますからそういうの詳しいと思いますよ」

「……なるほど」

 イセッタ殿にはまた話をうかがう機会を得たいところだな。もうひとつ質問しよう。

「では魔獣相手ではどうだ?」

「魔獣ですかぁ、そうだなあ……魔獣も魔法や魔力を行使できる以外は普通の獣と同じですから基本的には通常の物理攻撃で心臓を穿つとか頭を切り落とすとかで倒せますよ。……ただ…………あっ、そうだ!」

「なんだ?」

「魔獣のなかにはですね、ずる賢いというか嫌な習性のやつがいるんですよ」

「ずる賢いとは、厄介だな」

 エミリアは話を続けた。

「魔法使いは周辺を警戒する時に自分を中心にして魔力を波紋のように放つの。放たれた波紋は何かに触れると中心に向かって跳ね返ってくる、その跳ね返ってきた波紋の肌触りである程度はそれがどんなものか分かるのだけど……」

「だけど?」

 エミリアはふふっと笑った。

「なんとその波紋に反応しない魔獣がいるの、ずるいでしょ? そんなに強い魔獣じゃないんだけど大きな虫みたいなやつで気持ち悪いの」

 エミリアは肩をすくめてみせる。

「そうか、それはその虫みたいなやつだけなのか?」

「うーん、どうだろう? 私はそれしか知らないけど他にもいるとは聞いたことがないですね」

 これは、戻ったらイセッタ殿かロッタに聞いてみておくかな。

 いつの間にかフリューゲが俺の前に立っていた。お腹いっぱいだと訴えるように鼻を鳴らした。

「もういいのか? フリューゲ」

 そう訊ねるとフリューゲは鼻で俺の肩をつついた。

「分かった分かった、もう帰るか?」

 エミリアはすっくと立ち上がる。

「お馬さんが帰るんなら私ももう帰りますね」

「おう、今日はいろいろ教えてもらってありがとうな」

「いえいえどういたしまして」

 エミリアはホウキに腰をかけるとふわりと少しだけ浮きあがって止まった。

「今度ね、学校で魔獣討伐に行くの。私もその選抜隊に選ばれたんですよ」

「ほう、それはすごいな」

「タケゾーさん、私のこと、しっかり守ってくださいね」

 エミリアは高く高く舞い上がりながらそう言った。

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