コリーンのイセッタ婆さん⑧
先輩の言は、真意は図りかねるもののなんともむずがゆく、俺はまんざらでもなかった。
「いいか、タケゾウ君、魔法使いとは孤独なのだ。わしやロズのように多くの武勇や二つ名を持つ者ほど強い孤独を持つことになる。武勇や二つ名を得るたび一時の称賛は得られるが同時に民衆の恐怖の対象となり真に寄り添える者は減っていき孤独という溝はさらに深くなる。タケゾウ君、それは剣士でも同じではないのか? それを知っている君ならロズを護り寄り添えることが出来ると信じている」
言われてみれば……確かにヒノモトで俺は孤独だった。仕合に勝ったとて得られるものは野次馬からの好気の視線と恐怖、そして新たなる刺客だった。
そうか、ロッタもまた同じような想いを体験して何百年もの年月を生きてきたのか。
「心得た、その教授を胸にロッタの護衛しかと勤め上げてみせよう」
ロッタを見ると真っ赤な顔で俺を見ている。
「どうした? ロッタ、顔が赤いようだが……」
ロッタは黙ったまま顔を伏せてしまった。いつものロッタらしくないが、いったいどうしたのか。
その様子を見た先輩は大きな声で笑った。
「ところで、イセッタ殿……聞きたいことがあるのだが……」
俺は気になっていたことについて質問をしてみることにした。
「なにかな? タケゾウ君」
「イセッタ殿はその……ロッタの先輩だと聞いているのだが、その……いくつほど先輩なのだろうか?」
「そんなことか……いくつってロズの里で同じ学校だったのだから二つ上になるが?」
「……ふたつ? それだけ?」
五百年以上生きてきていて二つ違いの先輩後輩……だと?
ロッタを見ると十七、八の娘のようであり、その実五百年以上生きてきた生ける伝説ともいえる魔法使い。で、イセッタ殿はその二つ上の先輩で見た目には六十から七十の元気な好々婆……
「それだけと言われても学校の先輩後輩といえばそんなものであろう?」
イセッタ殿は俺を見て首を傾げる。
「ま……魔法使いとは、己の価値観の小ささを思い知る存在のようだな……」
イセッタ殿はまた大きな声で笑った。
「タケゾウ君、君はほんとに面白いな」




