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ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)  作者: 手頃羊
4話:少女純愛応援歌
25/67

その7・Mental care

[クロノ]

また目が覚める。

覚めたはずだが目の前が暗い。

目隠しをされてるわけではない。

自分の体くらいは見える。

起き上がって周りを見る。

クロノ「何もない…?」

どこかの空間的な何かか…

クロノ「誰かいるか?」

久しぶりに聞いたように感じる自分の声が響かない。

クロノ「あれ、俺喋れてる?自分の喉は一回壊れたはずだが…あれ、勝手に声に出てる?なんで?」

心の中でだけ呟いたはずの言葉が勝手に口から出てくる。

女「あらあら、ぐっすりお眠りね。」

クロノ「聞いたことある声?」

後ろを振り返ると、そこには女性がいた。

背中に骨格しかないような紫色の羽に、妖艶な見た目。

クロノ「懐かしい顔だなぁ…サキュバスさんよ。」

この人は知ってる。

ミランダ・ル・スティフィールというサキュバスだ。

ミランダ「ふふっ、覚えてたのね。」

クロノ「忘れたくても忘れられるわけないだろ?ちょくちょく襲われかけてるんだから。もちろん下的な意味で。」

ミランダ「やだ、ひどいわねぇ。」

クロノ「なんか俺の心の中が勝手に暴露されちゃってるんだけどどういうこと?」

ミランダ「簡単よ。ここは貴方の夢の中なの。」

クロノ「夢の中?ここが?」

ミランダ「そう。サキュバスは人の夢の中に入る魔法が使えるのよ。知らなかった?」

クロノ「俺の知ってるサキュバスもそんな感じだよ。」

ミランダ「へぇ〜。あっちのサキュバスとは仲良くなれそうね。」

クロノ「架空の存在だけどな。」

ミランダ「あら、残念。」

クロノ「で、なんで俺は夢の中に?」

ミランダ「私が招待したのよ。あなた、すっごくうなされてたのよ?色々あって精神的にきちゃってたのね。」

クロノ「精神的にね…か。まぁ、変な薬飲まされたり…あ、そうだ。俺喉が溶ける薬飲んだはずなのにいつの間にか治ってて…っていうかえっと…」

ミランダ「落ち着きなさい。ある程度話は聞いたわ。まずは今の状況を聞きなさい。あなたが寝ている現実が今、どうなってるか教えてあげるから。」

クロノ「あぁ…落ちつくか…よし…落ち着こう…OK…」

ミランダ「まずあなたが何故喋れているかだけど、あなた自身は喋っているわけではないわ。あなたの心が喋っているのよ。ここは夢の中。精神や心が反映される場所。どう隠そうとしても、あなたがあなたの心を代弁してしまうの。」

クロノ「なーるへそ。夢ってのは恐ろしいな。ってかそうなるんなら、俺の心って今どうなってんのさ?自分の心が反映されるんだろ?自分でも分かるくらい落ち着けてないんだからここまで静かな夢じゃないとは思うんだが。」

ミランダ「あぁ、それは私がちょっといじってるの。サキュバスは夢の中に入れる。それは、夢を操るということも意味してるわ。夢に入れるだけじゃなくて、夢を私の思い通りに見せることもできるの。うるさい場所じゃあゆっくりお話できないでしょ?だからちょっと書き換えさせてもらったの。」

クロノ「つまり、この暗闇の向こうは…」

ミランダ「見てみたい?内臓まみれで脳漿まみれで剣まみれで色んな表情のあなたが貫かれてて。10個20個なんてものじゃないわよ?そんなのが所狭しとばら撒かれてるの。見たい?」

クロノ「それはそれで見てみたいけど絶対に見たくない。」

ミランダ「でしょう?後は…あなたは薬を飲んで喉を溶かされたけど、それの治療はまだ終わってないわ。今私が頑張ってるの。」

クロノ「あんたが?こらまた、またご迷惑おかけしちゃってんね。」

ミランダ「いえ、むしろ私が迷惑かけたのよ。私に責任があるの。」

クロノ「責任?そういえばレオが諸々ミランダから貰ったって言ってたが…」

ミランダ「えぇ。錠にロープに睡眠薬に魔力無効化薬。それと、あなたが飲んだシケィバの毒。」

クロノ「シケィバ?」

ミランダ「魔界にしかいない上に、魔界ですらなかなか見当たらない珍しい生き物よ。まぁ、モニカが個人的に飼ってるんだけど。」

モニカ、というのも自分の知り合いだ。

モニカ・カム・スティフィール。ミランダとは血の繋がった姉妹である。

魔界で現魔王の座についている。

以前色々あって協力して、前魔王を倒しもした。

ミランダ「それの毒をちょっともらったのがあったんだけど、レオにちょうだいって言われてね。」

クロノ「あげたんだ。」

ミランダ「私も何に使うのか聞いたのよ?あんな危険なもの、サキュバスだって拷問するくらいにしか使わないわ。」

クロノ「サキュバスも拷問するんだ。」

ミランダ「むしろしない生き物なんてこの世界にはいないって思っといた方がいいわよ?あなたがいた世界がどんな世界かは知らないけど、絶対にそっちより治安が悪いから。まぁ、私は別に誰かに拷問するつもりではないのよ。サキュバスは長命なの。これから先何百年と生きるんだから、色んなことを学んで脳を刺激していかないと退屈で死んじゃうの。」

クロノ「ほほーう。それで?」

ミランダ「その毒を何に使うのかは言わなかったの。ただ、すごく真面目な顔で言ってくるから変なことには使わないでしょうって思ってて。」

クロノ「それでか。」

ミランダ「本当にごめんなさい。こんなことになるとは思わなくて…。」

クロノ「いや、別に謝らなくていいよ。そんな使い方するなんて誰にも思わねぇし、それに、治してくれるんだろ?」

ミランダ「えぇ。絶対に治すわ。」

クロノ「なんかあんたに真面目な喋り方されると違和感ある。」

ミランダ「へぇ?」

クロノ「いや、なんていうか…そういう見た目ならしおらしい喋り方より、いつも余裕ぶってるような大人な喋り方の方が似合うなって。」

ミランダ「私のことそういう風に見てたの?」

クロノ「隠し事できないって恥ずかしいな。」

ミランダ「ふふふっ。さて、それであなたのとこの仲間があなたをマキノの研究所まで運んだわ?」

クロノ「仲間ってーと、カサンドか。リースに連れてったわけじゃないのか。」

ミランダ「レオもいたし、こっちの方がいいと思ったんでしょうね。今のあなたの体は研究所の客用の部屋のベッドの上よ。」

クロノ「レオは結局どうなった?」

ミランダ「レオはもう目が覚めてるわ。」

クロノ「研究所に来てから何日経ってんの?」

ミランダ「1週間よ。今日でちょうど7日目。」

クロノ「そんなに寝てるのか?その間ずっと俺の看病を?」

ミランダ「そうよ。でも、それでも償いするのには足りないわ。」

クロノ「償いってそんな…」

ミランダ「あなた、本心でそれ言ってるなら聖人っていうよりも病気よ?」

クロノ「そんなにか?」

ミランダ「そのうち死ぬわよ?あなた」

クロノ「う〜んでもなぁ…なんかこう…ほら…こう…あれじゃん?」

ミランダ「死にたいの?」

クロノ「そういうわけじゃないよ。死にたくないさ。でも実際…ねぇ?」

ミランダ「はぁ…レオはあの後泣きながら謝り続けてたわ。あなたやあなたのとこの女の子に酷いことしてしまったって。」

クロノ「カサンドって女の子って歳か…?」

ミランダ「私から見てよ。人間なんて殆ど子供みたいなものだわ。」

クロノ「なーるへそ。」

ミランダ「他に聞きたいことはあるかしら?」

クロノ「リースのみんなは?」

ミランダ「私はそこまで確認してないけど、とりあえずあなたのことは私がやるから待つように言っておいたわ。戻るまでいつも通り過ごすようにってね。」

クロノ「そうか。ありがとう。」

ミランダ「いいのよ。他には?」

クロノ「う〜ん、すぐには思いつかんな…。」

ミランダ「ならあたしとお話しない?どうせ暇でしょ?」

クロノ「話っつっても、俺は人に振れるような話題はもってないぞ?」

ミランダ「あなたそんなんじゃ女の子にモテないわよ?男はね、女の子を楽しませる話題が出せてようやく一人前なのよ?」

クロノ「別にいいだろ?今まであんまり人に好かれるような人生じゃなかったんだし、披露する場所も無かったんだよ。」

ミランダ「あら、意外。あっちの世界でも結構好かれてると思ったのに。」

クロノ「むしろイジメの嵐だよ。そこまで酷くは無かったけどな。酷くて俺のハサミがトイレの水が入ったバケツの中に捨てられてて錆びたくらいか?」

ミランダ「微妙にひどいことされるわね…」

クロノ「俺はむしろ相づちを打つ側なんだよ。なんかない?話題。」

ミランダ「女の子に話題振らせちゃダメよ?」

クロノ「女の子なんてこの空間にはいないだろ?」

ミランダ「ほほ〜う?」

クロノ「いや、本当は言うつもりは無かったんだぞ?だけどここが夢の中だからさ。」

ミランダ「ま、いいけど。それじゃあねぇ…好きな人はいるの?」

クロノ「いきなりゴッツイ質問だね〜。」

ミランダ「答えなさい。命令よ?」

クロノ「好きな人ね…好きな人……好きな人…」

ミランダ「まさかいないなんてわけないわよね…?」

クロノ「えーと…」

ミランダ「嘘でしょ?あなた…本気で言ってる?」

クロノ「まぁ、本気ってことなんじゃないの?」

ミランダ「あなたそれでも男の子⁉︎あの子と付き合いたいなーとか、あの子とイチャイチャしたいなーとか、あの子とウッフンしたいなーって思ったことないの⁉︎」

クロノ「いや、そりゃあるさ。俺だって男だしエロい妄想くらいするさ。」

ミランダ「あなた…恋愛と性欲は別のものって考えてるの…?」

クロノ「いやーどうせ好きになるなら本当に愛した人を好きになりたくならない?ってサキュバスに聞いても無駄だったり?」

ミランダ「あなたとはモノの考え方から違うようね…そりゃあ恋愛と性欲は同じものでもないし、清らかな恋がしたいなら別と考えるのは普通よ。でも、この二つは切っても切れない関係にあるの。好きになってデートして、そこまでは恋。結婚して幸せになる、これも恋。でも恋だけで子供はできないわ。」

クロノ「いや、生々しい話はキツイっす。」

ミランダ「あなたは本当に純粋なのね。」

クロノ「純粋っていうか、どちらかというと真っ黒だよ。ただ、女子と触れる機会が無かっただけさ。」

ミランダ「あら、ならここで私に触れてみる?」

クロノ「遠慮します。」

ミランダ「だからよ!男なら据え膳くらい食べなさいよ!」

クロノ「今の状況だとむしろ俺が生かされてる状況なんでは⁉︎」

ミランダ「あら、よく気づいたわね。」

クロノ「この周りの状況書き換えられるんだろ?なら俺の行動も全部あんたの思い通りになっちまうんだろ?」

ミランダ「そうね、私がチョイチョイ〜っとやれば今すぐよ?」

クロノ「でも遠慮します。」

ミランダ「やり方を知らないとか?」

クロノ「それも含めて。俺はもっと純粋に生きたいんだよ。ただ普通に恋をして、普通に触れ合って、普通にエロに憧れて、普通にやりたいことやって、普通に生きたいんだ。」

ミランダ「無欲ね〜。」

クロノ「性欲はあるのにな〜。」

ミランダ「せっかくかわいいのに。」

クロノ「そうか?」

ミランダ「ウブな男の子は好きよ?支配する側みたいな気持ちになれるもの。」

クロノ「悪いが、俺は支配する側が好きなんだ。」

ミランダ「厄介ね〜。さて、そろそろ私も帰ろうかな。」

クロノ「あれ?」

ミランダ「あなたの喉の傷は完治したわ。喋る感覚忘れかけてるかもしれないから、念入りに声を出す練習をしなさい。」

クロノ「忘れかけてるって…」

ミランダ「言ったでしょ?ここでのあなたは喋ってるわけではないの。ただ心の中を代弁してるだけ。喋るのとは感覚が違うのよ。」

クロノ「俺はいつ目を覚ますんだ?」

ミランダ「すぐに覚ますわ。それじゃ。あ、そうそう。モニカから伝言よ。いつになったら魔界に来るんだって。傷心旅行にでも行ってみたら?」

ミランダの姿が霧のように消える。

クロノ「傷心旅行…ね。」

辺りの黒い背景が空の方から剥がれていく。

外は赤く染まっていたが、内臓も剣も、それに貫かれている俺の顔も無い。

クロノ「ミランダなりに俺のメンタルケアしてくれてたってことか。色んなのに支えられてんな〜。」

だんだんと眠気がしてきた。

クロノ「目でも覚めるのか?眠くなってんのに目を覚ますとはこれいかに…」

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