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千紫万紅  作者: リゾット
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私と部活と学校生活と ~全裸系茶道部~

 千利休でも茶碗を投げつけるレベルの暴挙ではないでしょうか。

 茶室で全裸って。

 全裸であるにも関わらずビシッと正座を決めている擬宝珠先輩はある意味大物なのかもしれません。流石部長。貫禄があります。

 とはいえ流石に全裸では色々とよくないので、先輩方には最低限下着だけでも着けていただきました。

 で、机を囲んで正座です。

「ユスラがパンツを忘れちゃったのデス! Hahaha!」

 フリージア先輩が快活に笑いながら言いますが、笑い事じゃないですね、それ。

 パンツを忘れたって。

「うふふ。つまり私はノーパンで今日一日を乗り切ったというわけよ。尊敬していいのよ?」

 私も山吹さんも開いた口が塞がりません。

 我々はひょっとしてとんでもない部活に入ってしまったのではないかという懸念が浮上します。きっと山吹さんも同じようなことを思っているのではないでしょうか。

 ちなみに今、結局山桜桃さんは下がないので全裸のままです。そういえばこの人は露出狂の気があるんでした。

「…………」

「え、何ですか先輩。体操着でも何でも穿いたらどうかって? スカートの下にパンツ以外のものを穿くのは私のポリシーに反するので」

 擬宝珠先輩の無言から、山桜桃さんは言いたいことを察して、それに対する返答までしてみせました。

 傍から見ると一人でしゃべっているようにしか見えませんが……。

 あと、敬語を使っている山桜桃さんというのも、どこか新鮮ですね。

「だから、今日はnudist clubなのデス!」

 結局、まったく理由の説明になっていませんが……。

 どうやったらノーパンから全裸茶会に繋がるというのでしょうか。因果関係が滅茶苦茶です。茶道部だけに。

 ……うまくはないですね。

「ワタシも、アメリカにいた頃はよくトップレスでビーチで遊んでたデス。何も恥ずかしいことはないデス」

「それは、アメリカだからじゃ……」

 ぼそっと山吹さんがツッコミます。おっしゃる通りですね。

 日本にはヌーディスト文化はありません。国によっては特定条件下で許すそうですけれど。

 海外では、トップレスで外を歩く女性というのも決して稀有な存在ではないそうで。「男が上半身裸なのはよくて女が駄目なのは差別だ!」という主張があるらしいです。まあ、男性とてどこでも上半身裸が許容されるわけではないですが、その主張自体には一理あると思います。

「…………」

「フムフム? ――ほら、ベニーも言ってるデス? 服を着ていようがいまいがそこに茶室がある限りWe are 茶道部デス!」

 新たな流派の幕開けかもしれませんね。

 古今東西、全裸で茶を点てる茶道部は存在しなかったでしょうから。

「でも流石に全裸は、そのう……公序良俗に反するというか」

 流石山吹さん。正論極まりないです。

「この茶室内は治外法権だからいいのよ、聖ちゃん」

 そしてそんな正論を暴論で押しつぶすのが山桜桃さんです。流石です。

 全裸で、そんないい姿勢で上から言われたら、もう何も言い返せませんね。

「さ、櫻井先輩は、恥ずかしくないんですか」

 視線を僅かにそらしつつ、山吹さんが問います。

「微塵も。この磨き上げられた肉体を衆目に晒すことに一片の躊躇もないわ」

 そう言ってポージングをキメる山桜桃さん。大物です。

 端整のとれたスタイルです、実際。ボンキュッボンというのはこういうことをいうのでしょう。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。女性の憧れのスタイルだと思います。

 山桜桃さんはこのスタイルを維持するために様々な努力をしているそうですから、尊敬できます。だからといって裸を晒していい理由にはなりませんけれど。

「とは言え、流石に全裸というのは、いくら女性しかいないとはいえ、まずいのではないですか……」

 私は別に山桜桃さんの裸を眺めていることに抵抗はありませんが、山吹さんの顔が真っ赤なのが見ていて居た堪れないといいますか。

 女性同士の裸のお付き合いに馴れていないのでしょう。

「……そうね、じゃあ一応これを着ておくわ」

 山桜桃さんは下着ではなく、着物を直接着込むという手段に出ました。

 正式なものではなく、裾の丈を短くした花魁風着物です。新歓のときに着ていたものですね。きわどいミニスカートになっているので先生方から怒られたという噂ですが……。

「あら。ノーブラノーパンで着物というのも、これはこれでいいわね」

 何がいいのでしょうか。常人には理解できない感覚でした。

 しかし、改めて見ると、すごい格好です。胸元は開いてますし、丈が短いので太腿もほとんど隠れませんし。

 これを着て外を出歩くのは、かなり難易度が高い気が……。

「Oh! So cute! ワタシも着るデス!」

「…………」

 下着姿で正座していたフリージア先輩と擬宝珠先輩も、いそいそと花魁風着物を身に着けにかかります。

 この先輩方、本当にあれを着て新入生を勧誘していたんですね……。

 それは先生もお怒りでしょうとも。

「全員分用意してあるわ。もちろん、凛々恵ちゃんと聖ちゃんの分もあるわよ」

 正直に言えば有り難くない気遣いでした。隣で山吹さんが身を強ばらせたのがはっきりとわかります。

「わ、私も、着るんですか、それ……?」

「きっとよく似合うわよ?」

 満面の笑顔で山桜桃さんが言いました。いい笑顔です。光り輝いています。

 うう、と山吹さんがたじろいでいます。ここではっきりと「嫌です!」と拒否できないのは、彼女のいいところでもあり悪いところなのでしょうね。

 などと冷静に友人の人格分析をしている場合ではないですね。さてどうしたものでしょう。

 私は、室内でなら、あの着物を着ることもやぶさかではないです。流石にあれを着て学校内を歩けと言われたら這ってでも逃げ出しますけれど。

 しかしここで私がうんと言ってしまうと、山吹さんも着ざるを得ない状況になってしまいます。山吹さんが心から嫌がっているのであれば、それは避けたほうがいいでしょう。

 選択肢は二つ。山桜桃さんを説得するか、山吹さんを説得するか、です。

 難易度的には後者。人道的には前者が望ましいと言えるでしょうか。

「でも、やっぱり、恥ずかしいです……」

 顔を赤らめ俯く山吹さん。可愛いです。

 本人なりに葛藤したのでしょう。先輩の顔を立ててあの着物を着ようという意思もあったのでしょうが、しかし羞恥心が勝ったと。

「……そう。まあ、無理強いはできないわね」

 山桜桃さんは残念そうにそう言いました。

 意外と、あっさり退くのですね……。山桜桃さんの性格ならもっと強引に迫ってもおかしくはありませんでしたが。

 流石に入って一月も経っていない後輩に傍若無人を働くのは躊躇われたのでしょうか。

 その優しさを悠輔にも分けてあげればいいのではないかと思うのですが……。

「でも、いつか聖ちゃんがこれを着る日が来ると信じているわ」

「は、はあ……」

 まあ、ちょっと見てみたいですね。あの着物を来た山吹さん。

 あんな丈の短いもの、きっと身につけたこともないでしょうし。

「じゃあ、聖ちゃんにはこっちね」

 山桜桃さんはそう言って、バッグからあるものを取り出しました。

 それは、着物でした。

 桜色の生地が、この春という季節にはぴったりです。

「わあ、かわいい……」

 山吹さんも思わず感嘆の声を漏らします。

 そういえば、山吹さんは着物を着てみたいと言っていたのでした。

「家から持ってきたわ。これはあげるから、聖ちゃん用にするといいわね」

「え、ええっ。貰っちゃっていいんですか、こんな立派な着物……」

「いいのよ。そんなに高いものでもないし。お古で申し訳ないのだけれど」

 山桜桃さんの家、櫻井家は茶華道の名家だと聞いたことがあります。山桜桃さんのお祖母さんが特にすごい人で、山桜桃さん自身もそのお祖母さんから色々なことを習ったのだとか。

「Beautiful……! きっと、ヒジリに似合うデス! 着てみるといいデス!」

「…………」

「Hm? ……Ahh、ベニーもそう思うデス? でもそれは『言わぬがflower』ってやつデス」

 何の話なのでしょう。擬宝珠先輩の言葉はフリージア先輩と山桜桃さんにしか伝わらないのが厄介です。

「着付けはやってあげるから、着てみない?」

「はい! 是非!」

 山吹さんも喜色満面といった感じです。

 それにしても、山桜桃さんはすごい人です。最初は暴君みたいな人かと思いましたが、気遣いのできる、とてもいい先輩なのですね。

 茶道部に入ってよかった。心からそう思えます。

「それじゃあ、服を脱ぎましょうか?」

「えっ」

 山吹さんが固まりました。一方の山桜桃さんは変わらずいい笑顔です。

「だって、服を脱がなくては着物を着ることはできないでしょう? 至極当然のことよね? さあ、その邪魔なセーラー服を脱いでしまいましょうか」

「えっ、えっ、ちょ、その……」

「さあさあお着替えタイムよ? うふふ、怖くないわすぐ済むから」

 指をわきわきと動かしながら、じりじりと山吹さんににじり寄る山桜桃さん。

 楽しそうですね……。いい笑顔です。

「ああ、なるほど……」

 さっき、擬宝珠先輩が何を言おうとしたのか、分かった気がしました。

 大人しく花魁風の着物を着ておいたほうが、被害は少なくて済んだのではないか。

 多分、そういうことなのでしょう。あれはイミテーションなので、着物ほど面倒な手間がいらないのです。ですから山吹さんも自分で着ることが出来る。なので服をひん剥かれなくて済む、というわけですね。

 眼前で服を剥かれていく友人に、私はそっと黙祷を捧げました。

 助けてあげられなくて申し訳ない限りです。

 それにしても山吹さん、本当に胸、大きいですねえ……。


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