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千紫万紅  作者: リゾット
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4/42

僕と義妹とパエリアと ~ベタな話~

9/9 追記:杉村が生徒会長という記述を削除しました。大人は嘘つきではないのです、間違いを犯すだけなのです……。

3.

適当に着替えて、僕は家を出た。

とりあえず凛々恵が行きそうな場所を順に追ってみることにする。

まず昼食を買うと言うことで第一候補に挙がるのが、コンビニだ。

凛々恵がこの街に来てまだ二週間程度。そう遠くまでは行かないだろうから、近場で買うと考えるのが普通だろう。

まず家から一番近いコンビニに辿りつく。

外から中を見てみるが、姿は見当たらない。凛々恵の外見は目立つから、いれば分かるはず。

ここにはいないと判断して、次に行く。

とにかく片っ端から探してみるしかないのだが、

「キツいな……」

三軒ほどコンビニを回ったところで、自分が途方も無いことをしているような気がした。

人手がいる。

そこで僕は、友人に協力を要請することにした。

携帯電話を取り出し、友人の電話番号を呼び出す。

友人はすぐに出た。

『おう。俺だ』

「杉村か。今、暇?」

相手の名は、杉村恭一(すぎむらきょういち)。

僕の友人である。悪友、と言ったほうが適切かもしれないけど。

『ああ。近所のガキ共とちょっくら草野球やってたけど、さっき終わったからよ』

「そっか、ならちょうど良い。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」

『何だ? お前の義理の妹が中々帰ってこなくて心配だから探しに出てみたものの一人では到底無理そうだから俺の力を借りたいとでも言うんじゃねえだろうな』

僕の周りはエスパーだらけだな……。

説明する手間が省けていいんだけど。

『ったく、いいよな義理の妹。俺も欲しいぜ義理の妹。お前は自分がどんだけラッキーボーイなのか自覚してねえだろうけどな、リアル義妹なんて世界遺産級だぞお前。文化遺産として保護すべき存在だよ』

「お前の願望は聞いてない! とにかく、探すの手伝ってくれよ。目立つ外見してるから、見れば分かるはずなんだ」

『確か金髪青眼の娘だったよな。……ったく外人属性もついてるとは、ハイスペックな義妹だよな。ますますお前が羨ま憎たらしいぜ』

「生まれも育ちも日本なんだけど、それでも外人属性と呼べるのか?」

『雄漂木は分かってねえな……。まあ、その辺の議論はまた今度にして、とにかくその子を探せばいいんだな』

「ああ」

杉村はやたらと広い情報網を持っている。

凛々恵の行動範囲はまだそう広くは無いはずだから、杉村の情報網で十二分にカバーできるはずなのだ。

『分かった。こっちでも探してみるぜ』

「悪いな」

『いいよ』

通話終了。

僕も良い友人を持ったものだ、と実感しつつ、捜索を再開する。

とりあえずコンビニ以外も視野に入れるべきだろう。スーパーとか、弁当屋とか。

選択肢はかなり多い。その中で凛々恵がどこを選ぶかなんて、到底分かるはずもない。

つくづく、僕は迂闊な奴だった。

「兄としては、失格だよな……」

これでもし凛々恵の身に何かあったら、僕はエリカさんに合わせる顔が無い。

寒気がした。

凛々恵のことを本気で心配している自分がいることに、今更ながら気づいた。

無事でいてほしい。

心の底から、そう願う。

大げさかもしれないけど、それでも心配なものは心配なのだ。



一向に、見つからない。

「くそ……」

街中のコンビニ、スーパー、弁当屋を走り回った気がする。

凛々恵は未だに見つからない。山桜桃からの連絡も無い。

いきなり走ったからふくらはぎが痛い。汗で服が肌に張り付くのも気持ち悪い。

でも、凛々恵はまだ見つかっていない。

だから、僕が立ち止まる理由は無い。

「ここにもいない、か……!」

何軒目かも分からないスーパーから出て、僕はまた走り出す。

こんなに走ったのは、久しぶりだ。

それから少し走って、駅前までやって来た。

平日の昼間ではあるけれど、春休みなので、そこそこ人は多い。

その駅前で、ふと、こんな会話が聞こえた。

「ねえ、アレ放っておいていいのかな?」

「馬鹿お前、下手な口出しして目つけられたら困るだろ」

「でもあの子外国人っぽかったよね。大丈夫かな……」

「しょうがないだろ……俺らじゃどうしようもない」

僕の横を通り過ぎて行った若者の会話だった。

嫌な予感がして、僕はその二人に聞いた。その子はどこにいるのか、と。

駅前の噴水広場だ、とのことだった。

すぐそこだ。僕は答えを聞くや否や、駆けだす。

そして辿りついた噴水広場で、僕は探し求めていたものを見つけた。

「凛々恵……!」

見間違うはずもない。

噴水の縁に座っている少女。

あの鮮やかな金髪は、紛れも無く凛々恵だ。

だが。

「ねえいいじゃん、俺らとご飯食べに行こうよ」

「おいしい日本料理の店、知ってるんだよ」

「どこの国から来たの? アメリカ?」

『いかにも』な感じのチンピラ三人に囲まれていた。

ベタすぎる……!

「いや、ベタとか言ってる場合じゃない」

凛々恵は三人のチンピラをあからさまに無視している。

その横には、ビニール袋が置かれていた。恐らく中身は、弁当。

恐らくさっさと立ち去りたいのだろうが、チンピラが凛々恵を囲むように立っているものだから、それも出来ないのだろう。

凛々恵は相変わらずの無表情。

けど、気のせいだろうか。どことなく、怯えているようにも見えなくもない。

都合のいい解釈、だろうか?

でも、もし本当に凛々恵が怯えてしまっているのなら。

僕には凛々恵を助ける義務があるだろうが。

僕は早足で凛々恵の元へと向かう。

「凛々恵!」

名前を、呼んだ。

そう言えば、ちゃんと名前を呼ぶのは、これが初めてかもしれない。

僕が声を上げると、凛々恵とチンピラがこっちを向いた。

「探したぞ」

「…………!」

凛々恵の表情が、驚きに揺らいだ。

そういう顔も、するんだな。

「おいおい、何、お前」

チンピラの一人が、ずい、と僕の前に立ちはだかる。

対する僕は走り過ぎて足が覚束ないような体たらく。情けない、と我ながら思う。

「今俺ら、この子と一緒に遊びに行こうって話してるんだけど、邪魔しないでくれる?」

「……どけ」

「あ?」

「そこを、どけ」

絶え絶えな息を整えながら、僕は言った。

畜生、格好悪いな。

でも、退くわけにはいかない。

「うるせえな。何だよお前。この娘の彼氏?」

「僕は……」

一瞬躊躇って、凛々恵を見る。

怖いのか。不安なのか。心配なのか。表情からは分からないけれど、きっと嫌な思いはしているんだろうな。

「その子は僕の、妹だ。だから、手を出すな」

はっきりと、言った。

別に僕のことを兄と認めてくれなくてもいい。

それでも凛々恵は、僕の家族であることに変わりは無いのだから。

「ぷっ。妹って……! つくならもうちょいマシな嘘つけや」

チンピラたちが笑いだす。

そりゃそうか。凛々恵の日本人離れした外見を見れば、僕の妹だなんて言ったって信じられないわな。

そもそも、血が繋がって無いわけだし。

でも、僕の妹だ。

そういうことに、なってるんだよ。

放っておける訳、無いだろうが。

「凛々恵は僕の妹だ……! 文句あるか!」

「……ウザッ。いーかげんにしないと、痛い目見るぞ、お前」

暴力に訴えるつもりか、凄みを利かせてくるチンピラ。

喧嘩したら、勝てないだろうなあ。

けど、それがどうした?

「何度も言わせるなよ……その娘は僕の妹なんだよ。だから、ここから失せるのはお前らの方だ」

「……あっそ」

チンピラが拳を振りかぶる。

僕は顔面を殴られるのを覚悟した。

ぎゅっ、と目を閉じる。

しかし、いつまでたっても衝撃はやってこない。

恐る恐る目を開くと、チンピラの拳を受けとめる手が、僕の前にあった。

「おいおい、昼間っから喧嘩とは元気良いじゃねえか」

僕の前に立つ、大柄な男。

どっと安心感が湧いてきた。僕は自然とそいつの名を呟く。

「杉村……」

「よう雄漂木。助太刀に来たぜ」

本当に、僕は良い友人を持ったよな……。

心から実感する。

一方チンピラたちは、

「す、杉村ってまさか」

「おいヤベェよ、あの杉村だ、間違いねえ……!」

「じょ、冗談じゃねえ!」

三人とも恐れ戦いていた。

無理も無い。杉村恭一と言えば、中学時代『修羅』とか言われちゃうほどの不良で、その界隈では知らない奴がいないほどの強さを誇っていたのだから。

二次元にハマってからはなりを潜めているけど。

「ようお前ら。俺のマブダチの妹に手ぇ出すなんて良い度胸だぜ。そんなに元気有り余ってるんなら、いっちょ俺が相手してやろうじゃねえか」

「つ、謹んで遠慮させて頂きますっ!」

丁寧にお断りし、三人のチンピラは逃げ出していった。

めでたし、めでたし。

「……はあ」

一気に力が抜け、僕はその場にへなへなと座り込んでしまった。

本当に、情けない。

「大丈夫ですか……?」

そんな僕のところに駆けよって来てくれる凛々恵。

心配そうな表情を浮かべていた。

ああ、心配してくれてるのか。そう思ったら、何だかホッとした。

嫌われてるわけじゃ、ないらしい。

「よう……。怪我とか、ないか?」

「私は……平気です」

僕は何とか立ち上がって、噴水の縁に腰かける。

「杉村、ありがとう。助かったよ」

「なあに。気にすんな。たまたま通りがかっただけだからよ」

ニカッ、と笑みを浮かべる杉村。

僕の頼みを受けて、こいつも凛々恵を探してくれていたのだ。

その上助けてもらってしまって、何だか申し訳なくなってくる。

「ま、妹ちゃんが無事だったんならそれでよし。俺の役目は終わりだな」

僕と凛々恵に笑いかけ、杉村は踵を返す。

「杉村恭一はクールに去るぜ」などと言って、そのまま本当に去って行ってしまった。

僕と凛々恵の二人だけが取り残される。

「……あの人は、お友達ですか」

何か言うタイミングが掴めず黙りっぱなしになっていた凛々恵が問うてきた。

「ああ、僕の同級生だよ」

「そうですか……。お礼を言いそびれてしまいました」

「今度会った時に言えばいいよ」

そうですね、と凛々恵は頷いた。

表情はいつもの無表情。

「それにしても、本当、なにも無くて良かった」

僕は凛々恵に笑いかける。

危機一髪ではあったけど、無事で本当に良かった。

「……私を心配して探しに来てくれたのですか?」

「帰りが遅いな、って思ってさ。何かあったら大変だろ?」

「……すみません。ご心配をおかけしました。

 それと……助けてくれて、ありがとうございます」

凛々恵はこっちを向いて、頭を下げた。

助けたなんて……僕は殆ど何も出来なかったけど。

杉村がいなければ、あの三人を追い払えたかどうか。

「何か、格好悪いとこ見せちゃったけど……」

自嘲気味にそう言うと、凛々恵はふるふると首を横に振った。

「とても、格好良かったです」

真正面からそう言われると、何だか恥ずかしい。

顔が赤くなるのが分かった。

「……照れているのですね」

僕の顔を見て、凛々恵はほんの少し、口元を緩めた。

それは初めて見た、凛々恵の笑みだった。

僕は思わずその微笑に見とれてしまう。

本当に綺麗な子だと、改めて思った。

「……なあ、凛々恵」

「何ですか、悠輔」

そして初めて、僕の名前を呼んでくれた。

今までは一度だって僕の名前を呼ぶことなどなかっただけに、感慨深い。

呼び捨てでも構わなかった。

「さっきはあんなこと言ったけどさ、いきなり兄妹になるのは、やっぱりちょっと厳しいよな。

 僕たち、会ってからまだ日が浅いし、お互いのことも殆ど知らないし。

 でも僕は、凛々恵と家族になりたいって思ってる。いきなりは無理でも、ちょっとずつ、分かりあっていきたいって思ってるんだ」

僕は、思っていることを包み隠さず、告げた。

偽らざる本音。

心からの言葉。

それをまっすぐ、凛々恵にぶつけた。

あとは凛々恵がどう応じるか、だ。

「……悠輔。私は悠輔に、謝らなければいけません」

凛々恵は真摯な表情で僕を見つめる。

「……今まで無愛想な態度を取ってしまったことを、謝らせて下さい。本当にすみませんでした」

そう言って、凛々恵は頭を下げた。

それもやはり、凛々恵の偽らざる本音なのだろう。

「言い訳になってしまいますが……私は小学校、中学校と女子校だったので、男の人と会話をしたことが殆ど無いんです……」

それは初耳だった。

しかしそれならば、山桜桃の言っていた『接し方が分からない』という言葉も納得だ。

今まで関わったことが殆どない『男』という存在に対し、接し方が分からず戸惑ってしまうのも無理はない。

「だからお母さんが再婚して、義理の兄が出来ると聞いた時、本当に、どうしたらいいか分からなくなってしまって。

 どう接したらいいのかまるで分からないまま一緒に住むことになってしまって、私、どうしたらいいか分からなくて……」

申し訳なさそうに俯く凛々恵。

「でも、それは仕方が無いことだと思うよ。本当、突然の話だったもんな」

凛々恵を責める気には全くなれない。

無理も無いことだと思うからだ。僕が凛々恵の立場でも、同じように思っただろうし。

「……でも、悠輔に失礼な態度を取ってしまったことは、謝らなければいけません」

「いいっていいって。気にしなくて。これからちょっとずつ仲良くなれれば、僕はそれでいいんだよ」

本当に、それだけなのだ。僕が望んでいるのは。

何だかんだ言っても、心の底で僕は、家族が増えるのを望んでいたのかもしれない。

「僕のこと、無理に兄だと思わなくてもいいよ。でも家族であることに変わりはないんだから、さ」

「……そう、ですか?」

時間をかけて、ゆっくりと、お互い分かりあっていけばいい。

焦ることなど、なにも無い。

「でも、僕たちは家族だから。だから変な遠慮とか気づかいは、無しにしよう」

「……そうですね。それがいいと思います」

変に遠慮してぎこちなくなってしまうのは、良くない。

家族なのだから、自然な関係であるべきだ。

「さ、帰ろうぜ。昼飯食べないとな。折角買ってきてくれたんだし」

「え、あ……」

僕は凛々恵が噴水の縁に置いたビニール袋を持つ。

その時、中身が見えた。

一番上にあったのは、

「パエリア……」

僕が作ろうと思っていたメニューだ。

僕は思わず、凛々恵の顔を見る。凛々恵は気まずそうに目を逸らした。

「……それが食べたかったのでしょう?」

「凛々恵……」

凛々恵はこれを探していて遅くなったのか……。

パエリアなんて、中々売ってないもんな……。

凛々恵は照れているのか、視線を僕の方に向けようとせず、手をもじもじさせている。

可愛いとこ、あるじゃん。

「照れてるのか?」

意地悪く、僕はそんなことを言ってみた。

さっきの意趣返しだ。

「て、照れていません。そんなことより、早く帰りましょう、悠輔」

「……そうだな。凛々恵」

僕は立ち上がり、凛々恵の側に立つ。

一緒に、家に帰る。

僕たちは、家族だから。



とりあえず第一話はこれで終了です。

コメディものが書きたいと悩み続けて一年。ようやく書きあげた『千紫万紅』、いかがでしょうか。

感想等お待ちしております。


これからも続いて行く予定ですので、よろしくお願いいたします。

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