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千紫万紅  作者: リゾット
19/42

僕と会計と新歓期間と ~腐れ外道~

 一悶着あったが、昼休みの会議は無事終了した。ちなみに漫研とは後日改めて話し合いの場を持つということで収まった。

 そんなこんなで、あっという間に放課後である。

 今日から二週間は『新歓期間』であり、期間中は自由に体験入部などが出来る。各部活とも新入生獲得に必死になる時だ。

 そういうわけなので、放課後は生徒会役員も総出でパトロールをする。強引な新入生勧誘や、詐欺、拉致監禁といった違法行為を取り締まるのが目的だ。当然に人手がいるので、風紀委員会と合同で行う。期間中は『パトロール中』と書かれた腕章を腕に巻いて、違反者がいれば取り締まる。場合によってはイエローカードやレッドカードも出す。ちなみにカードを出すのは岩千鳥先輩のアイデアだ。イエローカードは警告で、二枚貰ったら部活に処罰が下るようになっている。イエローカードの枚数は部活単位で記録されており、期間中は累積する仕組みだ。

「さて、そいじゃあ行きますか、と」

「はいですの」

 僕は七竈とコンビを組んで、パトロールに出る。杉村はたずにゃん先輩の護衛に着いている。もう一人、書記の松風先輩は、まあ一人でも仕事をこなせるだろう。あの人凄いからな、いろいろと。

「毎年毎年、どこの部活も新入生獲得に必死ですのね」

 廊下を歩きながら、七竈は半ば呆れたように呟いた。漫研は必死に新歓活動をしていないから、不思議に映るのかもしれない。

「漫研はあんまり派手に勧誘やらないよな」

「うちは少数精鋭主義ですので。やる気のある子が自発的に集まってくれればそれでいいんですの」

 部活動を継続するには最低五人の部員が必要になる。そのくらいの人員が確保できていればいいというわけだ。

「部員が集まれば、その分部費も増えるだろうに」

「確かに部費は魅力的ですけれど。でも、皆でバイトをしてお金を稼いで費用に充てるのも、それはそれで楽しいです」

 基本的に部費の予算は毎年生徒会とクラブ評議会で会議を開いて行っている。昨年までの予算を元に、活動実績や人員の増加に応じて部費の増減を行うシステムだ。毎年荒れに荒れることでも有名だが。

「実績の出しづらい文科系部活は大変だよなあ。運動部は大会での成績があるけど、文科系だとそういうの無かったりするもんな」

「そのことについて不満を持つ部も多いようですが……。まあ、ろくに活動せず放課後をだらだら過ごしているような部には部費を上げなくてもいいんじゃないかって私は思いますの」

「厳しい意見だ……」

 運動部と文化部の不平等を是正するため、実績を積む機会の少ない文化部に関しては、学園祭への出展義務がある。一定の活動さえ行っていれば、部費はちゃんと貰えるし減らされない。そういう仕組みだ。

「部活動にどこまでの活動を求めるか、ってのは難しい問題だけどなあ……。部活って、思い出作りみたいな面もあるわけだし」

 皆が皆、部活動で輝かしい実績を作りたいわけではないだろう。スポーツにかなり力を入れている学校ならまだしも、うちは普通の公立校なわけだし。まあ、一応スポーツ推薦はあるけどね。一部の部活だけだ。

「それはさじ加減の問題になると思いますの。目標に向けて頑張っている部と、毎日を怠惰に過ごしている部との間に予算額の差が無かったら、それは不平等というものでしょう?」

 それじゃあ、頑張ってる側が報われない……そういう話か。

 実力至上主義はあまり好きじゃないけど、確かに、ある程度の区別は必要になってくる。

 ……何だか真面目な話しちゃったなあ。

 たまにはいいか、とも思うけど。まあ、他の話でも……。

「――あ、こらサッカー部! 教室内に立ち入っての勧誘は禁止ですのよ!」

 一年生の教室に入って勧誘をしようとしていたサッカー部の部員たちを見咎め、七竈は声を張り上げる。

 ちなみに何でサッカー部か分かったかと言うと、ユニフォームを着ていたからだ。アホすぎる。

「やべぇ、生徒会だ!」

「逃げろ!」

「しかもあの女、漫研の……!」

「ああ、どんな男でもあっという間に十八禁のホモ同人の題材にすることから、ついたあだ名が『衆道女』……!」

 全世界のシスターさんたちを敵に回すがごときネーミングであった。

「き、聞き捨てなりませんわっ! いくら私でも、『どんな男でも』というのは無理ですのっ! 割合的には七割くらい!」

 割かし高確率じゃねえか。。

「逃げろ! 顔を覚えられると同人誌に出演させられるぞ!」

「ウチの先輩はそれで彼女に振られたんだぜ……!」

 恐怖に青ざめたサッカー部の連中が、一目散に逃げていく。

 恐るべし七竈香子……。

「全く、もう……」

 七竈は憤慨しきりのご様子で、腰に手を当て、逃げゆくサッカー部員の背中を睨みつけている。

 彼らが同人誌のネタにされないことを僕は切に願うばかりだ。

 しかし、頼りになるなあカコちゃん。『ペンは剣より強し』というやつだな。意味が全然違うけど。

「……悠輔じゃないですか」

 と、七竈香子の恐ろしさに戦慄いていた僕の耳に届いたのは、可愛い可愛い義妹の声だった。

 見ると、教室の入り口から、金髪青眼の美少女が顔を覗かせている。

「凛々恵。ここ、お前のクラスだったのか」

「はい。一年C組です。教室の中にいれば、勧誘に遭わずに済むという話だったので、下校時刻までここにいようと思って……」

 部活動の通常活動時間――すなわち午後六時までが、勧誘のできる時間帯だ。それ以降は生徒は下校しなければならず、届出を出すことで残留が出来る、というのが校則だが、キリがないので、午後六時をタイムリミットに定めているわけだ。

 また、基本的に部活動の勧誘は、各クラスの教室内では出来ない決まりになっている。いわば安全地帯。廊下で勧誘をする分には問題ないため、廊下で声を張り上げて宣伝活動をする部もあるが、教室にいる限りは声をかけられたり執拗に付き纏われたりはしない。

 ……改めて思うけど、部活に無駄な力入りすぎじゃないか、この学校。

「悠輔は……生徒会の活動ですか」

「そ。パトロールだよ。さっきみたいな連中を取り締まるの」

「そうですか……頑張ってください。ところで、そちらは……」

 凛々恵の視線が、僕の隣の七竈に向く。

 丁度いいや。紹介しておこう。

「ああ、紹介するよ。こちら、生徒会会計の七竈香子さん。七竈、この子、僕の妹で凛々恵」

「はじめまして、雄漂木凛々恵と申します。悠輔がいつもお世話になっています」

「これはご丁寧に。七竈香子と申しますの。悠輔さんにはいつもオカズに……お世話になっています」

「今何を言おうとしたこの腐れ外道」

「こ、言葉の綾ですのよ」

 あからさまに視線を逸らす七竈。駄目だ、腐ってやがる。

「あのう、不躾かもしれませんが、確かお二人は義理の兄妹なのでしたよね?」

「ん、まあな。親の再婚でな。まあ本物の兄妹よりも深い関係にあると自負しているけど」

「そんなことはありません」

 ぴしゃり、と凛々恵に言われて、僕は少し凹む。

 ううむ、二人の心の距離は着実に近付いていっているはずなんだけどなあ。

「凛々恵さんは、そのう、とても綺麗ですわね。スタイルもいいし……」

「あ、ありがとうございます」

 いきなり褒められて、凛々恵は顔を赤らめる。

 まあ僕の自慢の妹だからな。

 足とか結構細いけど、出るところは出ていて実に女性的なのだ。

「……血の繋がらない兄妹。冴えない兄と美少女な妹。……使えるかもしれませんわね」

「? 七竈、何呟いてんの?」

「いえいえ、何でもありませんのよ?」

 不穏だな……。

「ところで、凛々恵さんは何か部活には入りませんの?」

 あからさまな話題転換だったが、僕も興味のあるところなので見逃した。

 凛々恵って、中学では何やってたんだっけか。

「ええと、中学校では帰宅部だったので……」

「え、そうなの?」

「はい。家事などをしていましたので」

 そういえば、凛々恵は母子家庭で育ったのだった。

 今でこそ結婚して専業主婦だが、エリカさんは女手一つで凛々恵を育ててきたのだ。そして自分を養うために日夜働く母親の助けになるため、凛々恵は部活に入らず、家で家事などをこなしていたというわけか。

「ええ話や……」

「いきなり何を涙ぐんでますの……?」

 隣で七竈が引いてるけど気にしない。

「それじゃあ凛々恵、高校では部活に入ってみたらどうだよ」

「確かに、そうですわね。学生生活を楽しむ上でとても有意義だと思いますの」

「部活、ですか……」

 今なら放課後早くに帰って家事をする必要もないわけだし、部活に入る時間もある。

 凛々恵には、もっと高校生活を楽しんで欲しい。心からそう思う。

「何か興味ある部活とか、ないのか?」

「そ、そうですね……やはり日本の伝統的な文化に触れてみたいです」

 まるで外国から来た留学生みたいな言い方だが、彼女、日本生まれの日本育ちである。

「――なるほど。つまり漫画ですわね! ようこそ漫研へ!」

「ちょっと待たんかいお前」

 少数精鋭でいいとか言ってたじゃん。やる気のある子が集まればいいとか何とか。

 何だかんだ言って、新入部員は欲しいんだな、こいつも……。

「漫研、ですか……。ええと、でも、すいません。私、漫画は全然読んだことがないのですが」

「そ、そうですの……それは残念……。まあ、興味を持ったら見学にいらして下さいの。お茶くらいはお出ししますのよ」

 漫研の部室って漫画が一杯あるから、たまーに漫画喫茶代わりに利用させてもらっている。その代わりに、漫研の新作のモニターをさせられているのだが。まあギブアンドテイクというやつだ。

 と、そこで僕はいいアイデアを閃いた。我ながら冴えている。

「凛々恵。弓道部はどうだ?」

「弓道、ですか。確かに……いいですね。興味があります。それに、確か山桜桃さんも弓道部でしたよね」

「そうそう」

 凛々恵が新入部員として来れば、山桜桃も喜ぶだろう。

 これであいつに恩を売れるというものだ。ふふふ。

 それに、凛々恵としても知っている人間がいる方が入っていきやすいだろうし。

「私、弓道部へ行ってみたいです」

「よし。じゃあ、弓道場まで案内するよ」

「え? でも、仕事中なんじゃ……」

「パトロールついでに、さ。いいよな、七竈」

 七竈は頷いた。ただしその表情は、あまり優れているとはいえない。

「弓道部……あの女のいる部ですの……」

 ぼそっと呟いた言葉を、僕は聞き流した。

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