僕と会計と新歓期間と ~腐れ女子~
あっという間に昼休み。
昼休みは、生徒会の会議があるため、生徒会室で話しつつの昼食となる。
「山桜桃、今日、僕生徒会あるから」
いつもは一緒に昼食を食べている山桜桃に断りを入れておく。
割とよくあることなので、山桜桃も「そう」とだけ言って、教室を出て行ってしまった。他にも弁当を食べる相手はいるというわけだ。
僕はエリカさんお手製の弁当を取り出すと、教室を後にする。
同じ生徒会役員の杉村も一緒だ。
「今日は新入生歓迎会の話し合いだったよな」
「そ。あと部活動の勧誘について」
例年、新入生欲しさに過激な勧誘活動を行う部が後を絶たないので、生徒会としても扱いに苦慮しているところなのだ。
風紀委員会と協力して取り締まりを強化していくことが既に決まっているが、どれだけ成果があることか。
「つうか、生徒会も新入りがいないといけないんだよな」
生徒会執行部メンバーのうち、二年生は僕・杉村、そして七竈の三人。
執行部は会長・副会長・書記・会計・庶務から成るので、最低あと二人は新メンバーがいなくてはならない。
大体それは一年生だが、別に一年生でなければならない決まりはない。ただ、後年のことを考えれば、ここで一年生に経験を積ませておく方が好都合だろう。
恐らく岩千鳥先輩もその辺を考えているはず。
「どんな新入生が入るのかなあ」
「……まあ、たずにゃん先輩が作り上げてきたモノを引き継いでいけるような生徒会にしなくちゃならねえのは確かだろうな」
確かに。この一年、たずにゃ……岩千鳥先輩が生徒会長として作ったもの、変えたものを、僕らは引き継いでいかなければならない。
それはきっと大変なことで、だから新しく入ってくるメンバーにも相応の覚悟と能力が求められることになりそうだ。
「つーか、勧誘かあ。去年も大変だったよなあアレ」
この学校の勧誘の熾烈さを既に目撃している杉村が、うんざりしたように言った。
実際、昨日の入学式の時もそれはまあ大変だったのだ。僕も久々に杉村の本気を見た。
「毎年の恒例行事らしいけどな。新入生歓迎会で弓道部がウィリアム・テルごっこして校長のカツラを射止めたのは笑ったよな」
「笑い事じゃねえだろ。あの後校長胃潰瘍で入院したんだから。それよかバイク部が校庭にサーキット作って『二輪ゴーカートごっこ』やってたのが印象的だけどな。二輪の時点でカートじゃねえじゃん」
「ああ、レースごっこやってたんだけど途中からガチになってバナナの皮投げ合ってたアレか。スリップしたバイクが飛んできたのは危なかったよなあ」
「最終的に首位独走だったバイクが校長のヅラでスリップしてノーゲームになったんだよな」
というか大丈夫かこの学校。
そんなこんなで生徒会室に到着。中に入ってみると、既に二人ほど先に来ていた。
一人は、部屋の最奥部に陣取る我らが生徒会長、たずにゃんもとい岩千鳥携先輩だ。今日もかわいい。
ぺろぺろしたい。
「おーい雄漂木君やい? 何か煩悩漏れてない?」
「まさか。紳士オブ紳士と呼ばれたこの僕が」
携先輩は呆れたような笑みを浮かべた。かわいい。
「こんにちはですの、お二人さん」
そんな僕らに明るく挨拶をしてくるのは、向かって右手の奥に座る女生徒だ。黒く長い髪をツーサイドアップの形に纏めており、柔和そうな笑みを浮かべている。彼女の席には『会計』と書かれた立て札が置かれている。
彼女こそ、生徒会執行部会計、七竈香子である。ちなみによく名前を「きょうこ」とか「かこ」とか読み間違えがちだが、「かおるこ」であるので注意が必要だ。
「ようカコちゃん」
「御機嫌よう杉村さん。今日も雄漂木さんと仲がよろしいようで結構ですわ」
杉村は、七竈の向かい――『副会長』という立て札が置かれた机に着席。僕はその隣――『庶務』と書かれた立て札の席に着く。
「七竈、そういえば漫研の方でも部長やるんだっけ。あ、会長っていうのかな」
「ええ、そうなんですの。生徒会の方の業務もありますし、お断りしようかとも思いましたけれど、結局就任する運びに。次の夏コミが終わったら三年の先輩方も引退なので、その後で」
ウチの漫画研究会は結構本格的で、校内でも月一で会誌を発行し、そこそこの人気を博している。裏では怪しげな同人誌が流通しているという噂もあるが、はてさて。
同じことを考えていたのか、杉村が七竈に問う。
「ところでカコちゃん、次の新刊はどっちが攻めだ?」
「――勿論杉村さんですわ! 部内ではここ最近のマンネリ化を憂慮して敢えて雄漂木さんを攻めにしようかという案もあったのですけれど、しかしプロット段階で重大なロジックエラーを発見したので、結局はいつも通りの杉村×雄漂木本になる予定ですの! まあ私から言わせて頂ければ、雄漂木×杉村はやはり邪道で、王道を行くべきだという意見なのですけれど。王道が何故王道たるかということを考えれば妥当な結論なのですけれど、しかし創作者としては敢えて邪道を表現したいという衝動もあって当然のことであって――はっ」
「テメェやっぱり俺と雄漂木でBL本描いてやがったなあっ!?」
「マジかよっ!?」
都市伝説だと思ってたのに!
「なななななななな何のことだかさっぱりですわ」
嘘だろ、あそこから誤魔化せると思ってるのか……。
っていうか簡単にボロ出しすぎだろ。
「正月あたりから不穏な噂はあったが、マジだったとはな。もっと早くに確認しときゃよかった」
まあ、普通に与太話だって思っちゃうよなあ。
それにしても、大丈夫かこれ。今後の生徒会運営に影響するんじゃ。
「落ち着いて下さいの! 厳密に言えばお二人をモチーフにした架空のキャラクターであって、お二人本人を描いているわけじゃありませんわ」
「どう違うんだそれは……」
「全然違いますのっ! いいですか? 創作物として表現を行う際、モチーフというものはどうしたって必要になりますの。私たちにとって同人誌を作る際、必要なのは『仲の良い二人の男子』! そう、丁度お二人のような!」
ビシィ、と指差される僕と杉村。
「いいですか? 別にお二人そのものである必要はありませんの。必要なのは概念です。そしてその概念から着想したイメージを、ペンに乗せて表現する。それを人は創作と呼ぶのですわ! そもそも読み手側の勝手な解釈で表現に規制を加えることなどあってはならないのです! 最近はそれを理解しない大人が――」
「……盗人猛々しいというのは、こういうことを言うのか」
「まあ屁理屈だけど」
熱弁を振るう七竈を、僕と杉村は冷めた目線で見つめた。
こうなると彼女、話長いからなあ。弁当でも食うか。
「……たずにゃん先輩は、このこと知ってたのかよ?」
「うーん、あたしはあんまりそういうの興味ないからさ。まあ一冊貰ったけど」
「知ってるじゃねえか!」




