歳月
本当に久しぶりの投稿です。
大変お待たせしました。
あれから四年も経ってます。
キエリがゼノの家に来てから四年の年月が経った。
キエリは、たくさんの荷物を詰めて、家の一番奥の扉のノブに手をかけたところにゼノに呼び止められた。
「キエリ、今日も行くの?」
ゼノが不安そうに頬杖をついてキエリを見る。
「大丈夫。わたしの刺繍したハンカチけっこう好評なんだから。やっぱり、鱗粉を混ぜた糸を使ってるからかな?」
「もぅ、そうじゃなくて‥‥」
「人間と吸血鬼には気をつけろって言うんでしょ? わかってるよ。わたしのことを狙っている人がいることも、そうじゃなくてもわたしの正体を知ったら利用しようとする人がいることも‥‥」
「だから、髪の毛も黒く染めたし、名前も名乗らない! それでいいでしょ?」
キエリは、銀色の綺麗な髪を植物で黒く染め、肩までの髪を後ろでくくっている。
ゼノはそれでも不安を拭い切れないでいるようで、むすっと頬を膨らませている。
(ときどきゼノって子供みたいだなぁ‥‥そうだ!)
「お土産買ってくるから! 王都にしかないお菓子屋さんラムールのシフォンケーキでどう?」
「それはズルいわ! アタクシそれに目がないもの」
「ふふっ、じゃっ、行ってきまーす」
キエリは、ノブをくるくると回して扉を開けた。
扉の先は裏路地が現われて、キエリはフードを一応被ってその裏路地に踏み出した。
扉を閉めると扉は透明になって見えなくなってしまった。
「よし、今日はいい場所を借りられたから、たくさん売るぞぉ」
キエリは、稼ぎがでることへの期待でにっこりと笑顔になった。最近どうしてか噂を聞いたといって買いに来る人が多い。
詳しく聞いてみると、どうやら、キエリが刺繍したハンカチを好きな人に贈ると恋が叶うだとか、腰痛や肩こりが治っただとか、博打で大勝したとか、とにかく幸運が舞い降りるという噂ができていた。
キエリは、そんなの偶然ですよと売るときには断りを入れておくが買う人はその期待を捨てられないようだ。
(んー、本当に噂みたいなことが起こったのかな? 嘘はつけないから噂ですよとは言ってるけど、商売するのだったら噂でものっかったほうがいいのかな?)
(それか、もしかしてわたしの鱗粉を混ぜたから? きらきらしてて綺麗だから試しにやってみたけど‥‥やめたほうがいいかな? でも、ゼノに頼りっぱなしになってる分、自分でお金は稼ぎたいし‥‥)
キエリは、考え事をしながら借りた区画にじゅうたんを敷き、売り物の準備をした。
準備ができると早速、フードをとって呼び込みを始めた。
「いらっしゃいませ。お花の刺繍が入ったハンカチはいかがですか? ご自分用にも贈り物にも最適ですよ!」
「あら、今日はここで売ってるのね! 今度は旦那用に一つ貰えるかしら?」
「ありがとうございます!」
キエリは愛想のいい笑顔で接客する。
いい噂が流れていることもさることながら、キエリの刺繍は商品として素晴らしいものであるし、美人が接客するというのもあって、すぐに人だかりができた。
(たくさん作ってきたけど、この調子だとすぐ売り切れちゃうな)
「すみません。これください」
「はい!」
「‥‥‥うそ?‥‥‥キエリ?」
キエリは名前を呼ばれて驚いて、商品を買おうとした女性の顔を見る。
彼女は、麦色の髪の毛をきれいに編んでまとめている、少し肌の焼けた綺麗な女性だった。
女性は、なぜだかキエリの顔を見て今にも泣きそうな苦しそうな顔をして、すがるように詰め寄ってきた。
「キエリ? キエリだよね? 絶対そうだよ!」
知らない女性に名前を知られていることに困惑した。
(まさか、聖騎士の人? わたしを聖騎士が探しているって言ってたけど、こんなとこで捕まるわけにはいかない。人間に掴まったら、何されるかわかったもんじゃないって、ゼノも言ってたし‥‥)
「誰かと勘違いなさっているのではないですか? わたしはキエリなんて名前じゃないですよ」
キエリは、心の中の動揺を消してにこりと笑顔で否定した。
「‥‥‥‥」
女性は黙り込んでキエリの顔をじっと見つめる。
見つめられると、何故かキエリの胸の奥がぐっと苦しく締め付けられてくる。
「そう、ですね‥‥すみません、あたしの大事な友だちにとてもあなたが似ていて‥‥そんなわけないのに‥‥」
「商売のお邪魔して申し訳ありませんでした。あの、これいただけますか? マーガレットの刺繍が入ったハンカチ‥‥」
「いえ、いいんですよ。お買い上げありがとうございます。ご自分用ですか?」
「いえ、贈り物に」
ハンカチを贈り物用の包みに入れて、ハンカチを渡した。
女性は、大切そうにその包みを持って、他の客をかき分けて立ち去った。
キエリは、その女性が見えなくなるまでその姿を目で追っていた。
(あの人、大事なお友達に似ている? でも、わたしの名前? どういうこと?)
「お姉さん、これ下さい!」
「あっ、はい!」
キエリは、心に引っかかるものを感じながらも早く売るだけ売って、店じまいしてしまうことにした。
マーガレットは、先ほど買ったハンカチを持って足早に待ち合わせ場所の広場に向かった。
すでに噴水の前には約束していた人物が待っていた。
「ソルダ、ごめん! 待ったか?」
マーガレットが小走りして、ソルダの前に来るとソルダはにこりと優しくマーガレットに微笑みかける。
ソルダは、四年前よりもずっと背が伸びてマーガレットを通り越してしまっている。
幼い雰囲気の顔は変わらないが声変わりもして、ずっと大人になっていた。
「いいえ、今来たばかりですよ」
「そ、そっか‥‥」
「何かありました?」
少し表情の暗いマーガレットに気付いて、ソルダが心配そうに声をかけた。
マーガレットは、なるべく明るく振舞おうとしていたのだが、ソルダにはわかってしまうのだと思ったら苦笑いがでた。
「実はさ、キエリにすっごく似てる人がいて‥‥でも、そんなわけないのに、キエリは妖精で人間じゃないのに」
マーガレットの表情がどんどん暗くなる。
四年経った今でも、あの時別々に分かれてしまった後悔がずっとマーガレットを蝕んでいる。
「髪もさ、銀じゃなくて黒髪だったんだけど‥‥なんていうかな、雰囲気とそれに声だって、顔立ちだって。キエリそのものだったから‥‥でも、あり得ないよな」
ソルダは、厳しい顔でその話を聞いた後、穏やかな笑みに戻りマーガレットの手を握った。
マーガレットはどきりとして焦っているのが一目瞭然なほど表面にでている。
「わかりました。そしたら一緒に調べてみましょう。もしかしたらがあるかもしれませんからね」
「ほ、本当か! でも、いいのか?」
自分のわがままだと思っているのか、申し訳なさそうに眉が寄る。
「いいに決まっているじゃないですか。もし、キエリさんだったら、それは喜ばしいことです。それに‥‥」
ソルダは、愛おしそうにマーガレットの頬に手を添えて、かるく額に口づけた。
「俺は、早く好きな人の心からの笑顔が見たいです」
マーガレットは、顔が真っ赤になって、口づけされたところに手をあてて、口をはくはくさせている。
「あ、う、あぁ! きゅ、急にされたらびっくりする!」
「駄目ですか?」
「だ、めじゃないけど‥‥」
マーガレットの頬は恥ずかしさで売れたリンゴのように赤い。
ソルダは、それがまた愛おしくて頬にまた口づけしようとしたが、さすがに手で口を塞がれ止められた。
「やっ、やっぱ人前ではダメ!」
しかしソルダは塞いできた手の手首を持って手のひらに口づけた後、「わかりました」と言って了承した。
マーガレットとソルダが恋仲になってしばらくたつが依然としてマーガレットはソルダの愛情表現にたじたじだった。
そもそも、ソルダに告白された時は何かの冗談かと思っていたがキエリが居なくなった後、傍で優しい言葉をかけてくれたし、離れた時は手紙でマーガレットを励まし続けてくれた彼にマーガレットも惹かれていった。
「ほんと、ソルダは変わってるよ。なんであたしを選んだかなぁ‥‥」
「マーガレットさんが可愛らしいからですかね」
ぽつりと呟いた独り言くらいのつもりだったが、しっかりと聞き取ったソルダが素早く返答した。
その答えにまたマーガレットがどぎまぎして、頬を赤らめた。
しかし、こんな甘いやり取りをしている時ではないとやっと思い出した。
「そうだ! ソルダが協力してくれるんならもう一回今からあの子に話しを聞きに行かなきゃ! あと、はいこれプレゼント!」
ソルダに渡したのは買ったばかりのハンカチだ。
「よし! 今すぐ行こう!」
贈り物を受け取ってじーんと感動しているソルダの手を引いて、ハンカチを買った売り場に急いで戻った。
ゆっくり投稿になります。




