ここから始めよう
駆け込んできた優斗はフィーネの足下に跪いた。それに首を傾げて、「ユート殿下?」とその名を呼ぶ。
「俺を捨てないでくれ」
その言葉に「どうしてそうなったのですか?」と困惑しながら尋ねると、優斗は悲壮な顔で「両親にお前がやっていることは誘拐と変わりない。愛想を尽かされると叱られた」と言って俯いた。
その姿を見てフィーネは思わずクスリと笑う。
「ふふ、すみません。なんだか可愛らしくって」
しょんぼりと耳と尻尾を下げる犬に似ている。そんな風に思いながらフィーネは優斗と目を合わせた。
「わたくしは、貴方の隣に居りますわ。そう決めて共に和国へ来たのです」
まだそれが恋だとか愛だとかは分からないけれど、フィーネは優斗に絆されていた。
自分を助けようと駆けつけてくれて、大切に守ってくれる優斗の心は確かに伝わっている。
「改めて君の心を請いたい。俺の妻になって欲しい」
「もう貴方の妻ですわ」
けろりとそう言ったフィーネに困った顔で「そうではなく」と返した優斗にフィーネはクスクスと笑った。
「良いではありませんか。結んだこの縁から、二人でゆっくりと夫婦になりましょう」
「……そうだな。式まで時間もある。それに、これからはずっと一緒だ」
蕩けるような愛しげな瞳にはフィーネだけが映る。
二人が見つめ合い、その距離が近づこうとした時、「あねうえっ!!」と元気な声が襖がガラリと開いた。
「あにうえもいらしたのですね!」
小さなお客様はそう言って嬉しそうに笑い、優斗に飛びついた。
「北斗」
優斗の弟である北斗は困った顔の兄に「どうしたの?」と聞く。
北斗を抱き上げて、優斗は「フィーネは俺のお嫁さんだから、あんまり近づかないようにな」と嗜める。
「ははうえが、あねうえはおうちをはなれたばかりでさみしいから、たまに顔を見てきて!って言ってた」
小さな声で悔しそうに「母上…」と呟いた。そんな優斗に寄り添って、フィーネは手をその腕に添えた。
「その分、これからはユート様がこちらにいらしてくれるらしいですわ」
「ぼくもあにうえとあそぶ!」
瞳をキラキラと輝かせる北斗に優斗は頭が痛いというような顔をした。
「未来の予行演習とでも思っていてくださいまし」
「そうだな」
三人がいる場所に窓からの光が差し込む。
柔らかな光に照らされた主人夫婦を、ドロシーは眩しそうな顔で、けれど幸せそうに見つめて微笑んだ。
これで一旦完結とさせて頂きます。
また番外編や続きを書くことがあればお付き合い頂けますと嬉しく思います。
完全別設定になってるんですけど、クリス√はどうしてももっと平和な世界観で書きたくなったので別に小説ページを作って書いています。もし読んでくださる方がいましたら、そちらもよろしくお願いいたします。




