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珍しい奴からメールが来た。同じクラスだった岡崎だ。高校を卒業式して以来だった。
「人から聞いたんだけど、今東京で働いてる? オレもそっちで働くことになったから今度一度飯でも行こうぜ」
この明るくて自信に溢れて、自分が誘うことで相手がイヤな気持ちになるかもとかいうゴミみたいな考えを全く持たない奴だったなぁ、と思い出した。メールの文章が岡崎の声で再生される。案外覚えているものなんだな、と自分の記憶力に関心する。仕事のこととなるとニワトリ以下の脳みそをしているくせに。あー、こいつは幸せに生きてんだなって思った。久しぶりな感覚だ。会社の人間以外とコミュニケーションをとること自体が久しぶりだったから。
予定もないし、たまたま提示された日が休日だったので僕は約九年ぶりに岡崎と会うことに決めた。
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「とりあえず乾杯しよう」
なににだよと、心の中でツッコミを入れつつビールの入ったジョッキを当てる。当てた瞬間岡崎は笑顔だった。それが印象に残った。
「今どこで働いてんの?」
「○○株式会社ってとこ。パワハラが酷くて毎日五時から出社してよく終電を乗り過ごす生活をしていてるよ。当然サビ残のブラック」
と出来るだけ明るく暗い内容を話す。
「お前は?」
自虐気味な内容に岡崎が困ってしまうかもしれないと思い、間髪入れずに問いを出した。というか憐れまれるのは辛いのだ。大変そうだね、とか言われるのは嫌だ。こんな低スペックの自殺志願者といえど、見下されるとプライドが傷つく。プライドだけは人一倍に高い。まったく無駄なステ振りである。
「オレは○○株式会社だな」
……お、おお、すげぇ。同業者だったのか。しかも噂通りなら業界最大手超絶ホワイト企業だ。助け船を出して正解だったと自分を誉めてやる。少し動揺して手が震えたのを隠すためにグイッとビールを口まで運ぶ。
「もうずっとこっちで働くの?」
「いいや、三ヶ月だけだよ。それが終わったらまた地元に戻る」
地元で働けているのだから、休日も遊ぶ相手にも困らないだろう。自分はずっと一人でSNSに張り付き死にたいと連呼するだけ。なんなんだろうな一体。たぶん、僕が死んでもこの世界は何も変わらない。ただの一ミリも。
「それでさ、生活もだいたい安定してきたから、結婚しようと思うんだ」
「へー…」
自分は結婚どころか彼女もいないし、それどころか安月給で長く働けない会社で将来の不安を抱えているところだ。そもそも根本的に希死念慮は消えていないので、そっちの面でもある意味で不安を抱えている。早く自殺したいのに、出来ない。いつになったら死ねるのだろうか。
「よかったじゃん。相手どんな子?」
「地元の友達の紹介で仲良くなった子なんだけど、畑中恵って子。たぶん上野と中学一緒じゃね?」
あー、知ってる。てか知らないわけがない。学年のアイドル畑中さんだ。誰もが振り返る美人で、性格もとてもよい。そーか……。うん。ということはあの可愛い子とこいつは毎日イチャイチャしているのか。それでいつか子供も授かるのか。みんなが羨む人生ってところだな。いいな。
「知ってるよ。可愛いし、性格もいい子じゃん。よかったね」
「オレにはもったいないくらいだよ」
いや、お似合いだと思うぞ。ハイスペック同士。順調に子供産んで家族で幸せに過ごすんだろうな。その遺伝子をどうかこの世に残してくれ。たぶん、世の中のためになる。
「上野はどうなの? 付き合ってる子とかいないの?」
「いねーなぁ」
「そうなのか。上野いい奴なのにな」
そりゃ上辺だけだよ。実際はSNSで毎日死にたがってる異常者だ。そういえばこいつにSNSのアカウント教えてなかったな。もしも僕に好きな子が出来て、結婚出来ることになっても、きっと別れるだろうな。そんくらい僕は頭がおかしいから。僕は異常者で誰も幸せに出来ないどころか、関わったみんなを不幸にしてしまうから。だから、静かにこの世の端っこで死んだほうがいいんだ。自分は誰も愛することはないだろうけど、もし愛する人が出来たら、きっとそういう選択をする。自分で自分を不幸にしないと気がすまないんだ。そうすることで精神の安定をはかっている。矛盾しているのは、結局自分自身に甘いだけなんだ。知ってるけど、もうどうしようもないよ。
僕は本当にどうするのだろうか。
人生の違いを見せつけられ、どうしようもない無力感に襲われる。どうしてまともに生きれないのだろう。なんか泣きそうだ。幸せを見ないふりしてきた。そんなものはないのだと言い聞かせた。でもみんなは普通に恋人を作って仕事も頑張って生きていけるんだ。
どうして生きていけるんだろう。なにが違うんだろう。どこで間違えてしまったのだろう。小学生のときに間違えてしまったというのなら、それは余りにも酷じゃないか?そんな産まれて数年の子供に正しいルートを選べるはすがないじゃないか。
どうすれば笑って生きれた?
どうすれば普通に生きれた?
自分が異常者になるなんて小学生のとき考えやしなかった。普通に笑って生きれるのだと思ってた。なのに今はどうだろう。自分より苦しい人を見てまだマシだと比べている。真面目に生きて、普通に生きれないのは本当に質が悪い。どうせならクズになれれば、割り切れれば自分はゴミだから生涯一人で苦しんで死ぬのだと自覚出来ればまだ少しは生きやすいだろう。
でも実際はどうだ?
生きている意味はあるのか?
正常者たちの人生を目の当たりにして、それでも生きていけるのか?
周りから迫害され存在自体を否定され続け、危ない奴だと見捨てられ、信じなくなって、それでなんでそんな生き方をしているの?と訪ねられてもただただもうどうしようもないのだ。いつも頭に回る言葉は同じだ。
「もう疲れた。終わりたい」




