隣の渡辺くん
ゲームに戻ると、すでに皆が目の前にいた。それぞれの用事が終わったらしい。
「ただいま」
「おかー^^」
5人から一斉に向けられた『お帰りなさい』の言葉。
懐かしい。そうだ。これがギルドなんだ……まだ勧誘されてないけど。
「エルくんで最後だねー、それじゃ勧誘スイッチ、オン><b」
プンの掛け声でゲーム画面の下部に、『punpun321があなたをギルド:暁の空に勧誘しました。加入しますか?』のメッセージと、『はい』と『いいえ』の選択肢が表示された。
迷わずに『はい』を選択する。
これで、オレも暁の空のギルドメンバーとなった。
ギルドに加入すれば、ギルドレベルに応じてギルドスキルが適用されたり、ギルドメンバー専用のアジトが使用できるようになる。
とはいっても、まだ設立したばかりでギルドレベルは1。スキルがなければ、アジトを持つこともできない。けれど……『繋がり』ができた。
さっそくプンがギルドチャットを使ってヘタな挨拶を始める。
「えーー、本日は晴天なりマイクのテスト中@@ あーあー」
「プン。とりあえず、マイクとかないし、ヤマモトも時間なさそうだから余計なモノは省いてくれ」
成り行きでプンがギルドマスターになったが、果たしてこれでよかったのだろうか……不安しかない。
「エルくん冷たい;; それじゃあ、気を取り直して……オメデトウございまーすq(^▽^)p 暁の空、本日開店でーす!」
「それじゃパチンコ屋だ」
「そういや俺、昨日北○の拳で確変して大当たりでてウッハウッハだったぜ? 帰りにミナミで盛大に飲んで帰ったな」
すぺりおるの口からミナミという単語が出た。父の転勤の都合で、大阪にも行った事がある。
確か、ミナミは難波のことだ。ちなみに梅田がキタというらしい。ということは、すぺりおるは大阪在住なのか。
「ぬを。すぺりおるたん。大阪の人……儲かりまっか? わては毎日、お好み焼きをおかずにご飯食べとるし、納豆好かんわー。やっぱたこ焼きがものごっつう好きやねん!」
「あ? お前今、大阪バカにしただろ? 大阪の人間はな、他県民のヘタな関西弁聞くとイラっとするんだよ。ちなみに俺は納豆大好きだし、毎日お好み焼き食ったりしねえよ! それとな、そんなベタベタな関西弁しゃべる奴はいねーぞ」
「ぬを。な、なんですと……それは新事実(°д°)」
「でも、すぺりおるさんって、標準語でチャットしてるわよねー? 何でなの?」
ケルの質問も確かに気になる。何ですぺりおるは関西弁ではなく標準語なのだろうか?
「そりゃ、あんま感じよくないだろ? 文字だけで関西弁使ってみな。ちょっと怖いぜ? 相手の顔や声のトーンがわからないとヘンに警戒されちまうよ」
「へーそんなもんか」
「納得」
オレとグラムはそれに納得する。
「;;」
「あれ? どうかしたかプン?」
「プンの挨拶がーーー><」
「ああ。忘れてた、続きをどうぞ」
「えー毎度お世話になっております、あなたの町のスーパー。激安王国、暁の空が本日よりオープン致しました(^▽^)σσ」
「もういいよ。さっさとギルドハントにいこう」
「えーーーー>< せっかく考えたのにぃ」
「オレ達、いつからスーパーになった? 売り物はヤマモトくらいしかないぞ」
「ぬを。ぼくちん売り物(°д°); ぼくちん、心に傷ありで、説明書もないし、中古だからそんなに高くは……」
「お前はゲームソフトか」
失礼だけど、クソゲーな予感がする。そっこうバグりそうだ。
「プン、挨拶って……こういうのくらいしか知らなくて。。」
今、プンのリアルが非常に気になった。よっぽどの箱入りなのだろうか……。相当ずれた感性の持ち主であることは痛感していたが。
「ま、そんなわけでみんなこれからもよろしくな。ギルドって言っても、そんな肩肘張る必要は無いし、何か気になる事があったらオレに言ってくれ。みんなが心地よく過ごせるようなギルド運営を目指すから、至らない所も多々あるけど、暖かい目で見守って欲しい……という感じの挨拶をプンが言いたそうだったから、オレが代弁したぞ」
「そうだよ@@! まさにそれなのーー>< そこに激安ってつけると理想の挨拶です@@b」
なんで激安にこだわるんだろう?
「さて、それじゃ最初のギルドハントだ……どこに行くかな?」
その日、たった30分だけだったけど、久しぶりに楽しい狩ができた。
グラムは装備がないので、エルトの装備を貸してあげて、豚肉500gのみを操作することになった。当分3PCは封印するらしい。
ヤマモト、ケル、すぺりおる、グラム、そしてプン。
暁の空は小さいけど、仲良しで、楽しいギルドだ。そんな中に自分がいる。もう味わえないと思っていた、ギルドチャットでの楽しい会話も、ギルメン同士の挨拶も……再び、楽しむことができた。
暁の空はこれからも続いていくだろう。プンがそこにいる限り……。
初めてのギルドハントを終えて、ログアウトした。
PCの電源を落として、入浴。その後、新しい学校の教科書を開いて予習をしておく。
すでに時刻は午前1時。もう日付は変わっている。寝よう。
パジャマ姿でベッドに潜り込むと、私は目を閉じた。
『瞳を閉じればみんなのヤマちゃんはそこにいる!』
……寝れない。瞳を閉じたら本当にヤマモトが浮かび上がってきた。あいつめ……今度あったらお仕置きだ。
結局、寝付けたのは午前3時になってからで、4時間程度しか寝れなかった。
ちなみに、夢の中でヤマモトに追いかけられた。悪夢だ。あいつめ……今度あったらPK寸前までHPを削ってやる。
眠い目をこすりながら、ベッドを抜け出し、制服に着替えを始める。着替えを終えて、洗面所に行くと先客がいた。
「潤、おはよう。歯磨き終わったらどいて~」
「お姉ちゃん、おはよう。わ! ちょっと待って! ぼくまだ終わってないのに~」
「いいからどくの! 私のほうが手間かかるんだから」
「もう。しょうがないなあ。強引なんだから」
潤を無理矢理どかせてそこに陣取る。もろもろの準備を終えて、鏡の向こうには学校で見かける優等生、相羽 真理奈……いつも通りの私がそこにいた。
「完成……!」
その後、潤と一緒に朝ごはんを食べて、一緒に家を出る。潤の通う中学校とは反対方向なので、家を出た時点でお別れだ。
「じゃあね、お姉ちゃん。いってきまーす」
「ちょっと待った! あんた、ハンカチは? ティッシュは? ボタン掛け違えてるし! 寝癖直ってないじゃない!」
「あ……ほんとだ」
手間のかかる弟だ。色々と修正をして、潤を学校に向けて出撃させると、その背中が曲がり角から消えるまで見守り続けた。
ふう、これで私も登校できる。
学校までは、歩いて10分くらいの距離で、近くて助かる。
8時に出ても余裕があるなんて、すごく快適な環境だ。
ふと、目の前に少年の大きな背中があった。この人は……そう、隣の席の……渡辺くんだったような気がする。
朝出会うと、何故かヘンなポーズを決めて挨拶を繰り出してくるので、いい加減うんざりしていた。
どうしよう。眠いのに朝からあのテンションに付いていけない。
……そういえば、この人もカオス・クロニクルをプレイしているんだっけ。始めた時期も椛と一緒だったし、昨日、もみじまんじゅうをくれたから一瞬、リアルの椛かと勘違いしたけど……。
椛はこんなひょうきんな人じゃないし、きっと思い違いだ。うん、きっとそうだ。
渡辺くんには悪いけど、迂回して気付かれないように学校に入ろう。
私は、足音を殺してこっそりと渡辺くんの横をすり抜けた。
そして、その日。渡辺くんはホームルームを遅刻して、先生に怒られた。




