女の戦い
「じゃあ、ギルドの名前も決まったし、ギルド登録しに神殿へ行かないとな」
暁の空という名前を得て、ギルドは始動し始めたが、実際に登録を行っていないので、神殿で登録が必要だ。その上で、メンバー1人1人を勧誘しなければならない。
「登録が必要なんだね。知らなかったよ~。でもプン、どうすればいいかわかんない;;」
「じゃあ俺がついていってやるよ。幼稚園設立以来だけど、手順は覚えてるから大丈夫だぜ。ついてきな、プン」
「あい@@ヾ」
すぺりおるとプンは、登録のためにラグリアの神殿へと向った。
「登録が終わったら、ギルド設立祝いにギルドハントでもしてみるか」
「そうね。アタシのダンナも最近運動不足だし、ちょうどいいヨ」
「異論はない」
「ぬを。30分くらいなら、なんとか……ちょっとリアルが忙しくて@д@;」
「そうなのか……仕事?」
「うむ。実は、実家に戻ることになって、それに伴い地元に転勤するのだ。ちょっとしばらく、ログインする時間は減ってしまうが……気にするな! 瞳を閉じればみんなのヤマちゃんはそこにいる!」
「じゃあ絶対、目を閉じない」
「今日はダンナと一緒に徹夜しちゃおっかなー♪」
「ヤマモト、お前のせいで睡眠不足になったら訴えるからな」
「ぬを。何この扱い(°д°)」
目を閉じたらそこにヤマモトがいるだなんて、怖すぎる。ホラーだ。
「おっと、そうだ。グラム。掲示板に謝罪板を作って、そこに今回の件と今までの行動の謝罪を載せておくんだ。荒れるかもしれないけど、必要なことだと思う。決意表明でもあるからな」
「わかった」
プンのギルド登録と、グラムの謝罪板の掲載。二つが終えるまでに多少は時間がある。この間にコーヒーのお代わりをしにいこう。
「少し離席するよ。飲み物取ってくるだけだから、すぐ戻る」
「あい~いてらっさい」
「いてら」
「ぼくちん、コーラがいいお! ゼロカロリーでお願いね」
「そんな物はない」
愛用のマグカップを持って自室を出る。すると、示し合わせたようにチャイムが鳴った。
『ごめんください~~!』
女の子の声が玄関のドアの向こうから消えてきた。家の玄関は吹き抜けになっていて、2階から1階の玄関が見下ろせる。玄関を見下ろせる位置まで私は移動して、そっと覗き込んだ。
母が慌てて飛び出して、ドアを開けたところだった。そして、ドアの向こう側の女の子を家へと招きいれた。
時刻はすでに夜の10時だ。こんな時間に何で女の子が……?
彼女の姿を遠目から観察してみる。セミロングの髪の下には幼くて可愛らしい顔。その大きな瞳に男が見つめられたら、イチコロだろう。ピンク色のシフォンワンピースに身を包んだ小さな体は、まるで小動物のようだ。
一言で言えば可愛い。女の私から見てもそう思う。しかし、どこか小悪魔的な雰囲気を持っていて、油断できない相手……といったところか。
「あらあら、こんな時間にわざわざ……本当にごめんなさいね」
「いえ。大事な物だろうと思って……あの、潤くんのお姉様ですか?」
「あらやだ! こんなオバサンにお姉さまだなんて……潤の母の歩美です」
母はものすごくお世辞に弱い。頬に手を当て、唇が嬉しさのあまり歪んでいる。すでにあの子のペースだ。
「失礼しました、ごめんなさい。その、あまりに若くてお綺麗だったから……」
うわあ。見え透いてる。しかしそこは我が母、相羽 歩美で、完全に真に受けて上機嫌であった。
「確か……お電話をくれた渡辺 愛紗ちゃんね? ちょっと待ってて、潤を呼んでくるから。潤ーー! とっても可愛いガールフレンドが来てるわよー!」
「やだ。おばさま、とっても可愛いだなんて……」
母はリビングのほうに消えて行く。1人残された愛紗は少し赤くなって照れていた。
そして、すぐにリビングから潤がやってきた。
その途端に愛紗の体が硬直して、緊張のためか、唇をきゅっと締めている。
「あ! 愛紗ちゃん! こんばんは! ごめんね、ぼくハンカチ忘れて帰っちゃったんだね。わざわざありがとう……それ、お姉ちゃんから誕生日にもらった大切な物なんだ。よかった……」
「潤くんが困ってるんじゃないかと思って……えへへ。飛んできちゃった♪」
愛紗は手を後ろでに組んで、少し前かがみになった。男ならばこれはクリティカルヒットだろう。実際、潤の頬が赤く上気しているのがここからでも解る。
まさか潤は……あの子のことが? まさか、まさか……あの愛紗という子を……?
いやいやいやいや! 潤は純粋で、人のいう事をなんでも信じてしまう子だ。きっと騙されているに違いない。
きっと、あの愛紗という子が潤にしつこく付きまとっているのだろう。
そして、潤を手玉にとって……強引に関係を迫り、潤を手懐け籍を入れる。……父と母を欺き、相羽家の長男の嫁として君臨し、この家を支配して……私は追い出される!?
させない。
そんなことは絶対させない。
この家は……潤は私が守る!
私は視線を愛紗に向けて、目には見えないヘイトをかけた。
「そうなんだ。でも……別に明日でもよかったのに」
「そうはいかないよ! 潤くんに会えるチャンスだったんだから!」
「え」
「今日はごめんね。ヘンなトコいっぱい見せて……」
「ううん。すごく楽しかった。あんなの初めてだったよ。まさか、あんなのが入るだなんて思わなかった」
初めて!? 潤、あんたその子と何をしたの!? 何が入ったっていうの!
私は気が遠くなった。すでに愛紗の罠に潤ははまってしまっているのだ。
「ああ……あれかあ。そうだよね。でも、すごくおいしかったでしょ? あたしもお兄ちゃんの作るカレー好きなんだ。お袋の味ってやつ?」
なんだ、カレーの話か。紛らわしいな。
「お兄ちゃん?」
「あ、ああああ! 今の絶対バカ翔には黙ってて! あいつ調子に乗るから! 絶対! まあ、その……あいつのことはいつも感謝してはいるんだよね。サンドバッグになってくれるし」
サンドバッグ……? 愛紗は実の兄をサンドバッグにしている凶暴な女のようだ。このままではいずれ潤は、彼女の暴力で……。
「うん。黙っておくね。あ、そうだ。お母さんが車で送ってあげるって言ってたから、外で少し待ってて」
「わかった。……ねえ、潤くん。また家に来てね! 今度はあたしと一緒に狩りしよう!」
「そうだね。ぼくも早くレベルを上げなきゃ。渡辺さんと同じギルドに入って、一緒に戦うんだ」
『潤ー! 車の準備できたから愛紗ちゃんを呼んでちょうだいー!』
「あ、もう準備できたみたい。それじゃ、またね愛紗ちゃん」
「うん! おやすみなさい、潤くん」
愛紗は潤に愛らしく笑って、手を振った。
潤もそれに応えて手を振る。
私はそれを見届けると、自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると、机のイスを引いてそこに飛び乗る。
……潤のほうもまんざらではない様子だった。あの愛紗という子も、本気で潤に恋をしているみたいだし。私が口を挟んだり、どうこう言う事では無い気がする。
というより、お似合いなのかもしれない。気弱な潤と、強気そうな愛紗。
普通なら、弟の恋を応援してやるのが、姉の務めだろうし……。
渡辺 愛紗か……。
私は、とりあえず皆を待たせてはいけないと思ったので、PCの前に戻りギルドマスターとなったプン達と、初めてのギルドハントに向うことにした。




