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ファーストキャラクター

 晩御飯をあらかた平らげると、みんなでお茶を飲むことにした。


 愛紗にやらせるとムダに時間と材料を消費するので、俺がやることになった。自分に注がれたお茶を一口飲んで、潤が一息ついて言葉を漏らす。


「ごちそうさまでした。本当においしかったです、渡辺さんはきっといいお嫁さんになりますね」


「ならねーよ! お婿にいくんだ、俺は」


「嫁のもらうアテなんか無いくせに~? 彼女いない歴17年がドデカイ口叩き過ぎ。マジ笑える」


「うるせい。好きな女の子ならいるんだ、俺は絶対彼女のハートにLoveをクリティカルヒットさせる。見てろよ、愛紗。お前に義理の姉さんを紹介する日は近いぞ」


「はあ? 今年一番で大ウケ。だいたい、どんな(ひと)なのよ? バカ翔なんてこれっぽっちもいいトコないのに~」


 マジでむかつくよ、この妹。


「は。そうだな。いうなれば天使だ。エルフだ。お前と比べると月とカメレオン。豚に真珠だ。真の乙女とは彼女の事をいうんだよ、愛紗。爪のアカでもわけてもらって青汁に混ぜてかき込め。少しは体つきも女らしくなるぜ、きっと」


「この野郎……あたしが幼児体型の童顔だからってバカにしてる? これでもクラスの男子に崇め奉られてるんだから!」


 愛紗はない胸を頑張って張って反り返った。しかし、反り返りすぎてイスごと背後に倒れ、生意気にも女の子みたいなかわいい悲鳴をあげた。


「天罰だな。これに懲りたら、もっと兄を敬え。誰が晩飯作ってやってると思ってるんだ」


 渡辺家の家事は一応当番制ではあるが、愛紗は何かにつけて逃げ出す。結局炊事も掃除も洗濯も俺が受け持つ事になり、俺は自分の時間を持つのに苦労する。


 でもまあ、嫌いじゃないんだよな、家事って。


 それにこいつは手間のかかるバカな妹だけど、たった一人の妹だし……父親も仕事でほとんど顔を合わせることは無い。


 こいつにとって身近にいる家族は俺1人なんだ。だから、どんなワガママでも聞いてやるつもりだ。


 と、感慨にふけっていると、腹部に強烈な衝撃を受けた。


「くおら、愛紗! 痛いだろ!」


「何であんたを敬わないといけないのよ! バカ翔!」


 兄妹ゲンカ勃発。しかし、今日の俺には切り札がある。


「愛紗。潤の目の前でそんな乱暴なことしていいのかあ? 潤はこんな乱暴な女。嫌だよなあ?」


「ぐぅ~……」


 愛紗は牙をむき出しにした百獣の王から、爪を丸めた仔猫のように小さくなり、瞬時に大人しくなった。まるで、猛獣使いになった気分だ。これはいい。


「潤。これからも晩飯食いに来いよ。お前がいると我が家に平和が訪れる。お前は平和の使者だ。ピースメーカーだ。渡辺家はいつでもお前を歓迎するぜ」


「は、はあ」


 潤はあたふたしながら、俺と愛紗の顔を交互に見比べていた。


「あ! ぼく、そろそろ失礼します。あんまり遅くなるとお姉ちゃんが心配するから……」


「そっか。今日は楽しかったぜ、潤。また来いよ」


「はい! 本当に何から何まで……ありがとうございました、渡辺さん!」


「潤くん、また来てね! こないならこっちから潤くんの家に行っちゃうから! 今からでもいいけど」


 愛紗が潤の後を追おうとしたので、首根っこを捕まえて、リビングのソファにお座りさせた。本当にこいつならやりかねない。


「ちょっとぉ! 人の恋路を邪魔しないでよ! どういう了見よ!」


「うるさい。俺は犯罪者を家族に持ちたくないんだ。大人しくそこで転がってろ。俺は後片付けと風呂洗いがあるから、カオス・クロニクルやってていいぞ」


「ほんと!? バカ翔にしては気が利くね。明日はライトブレッドの雨でも降るんじゃないの?」


「降るか。このゲーム脳が」


 俺は愛紗をリビングに残し、後片付けに取り掛かった。



 *****



 オレがオレと言うようになったのは、いつからだったろうか。


 カイン、エルト……キャラクター画面には、二人の少年。だが、本来ならばここにもう1人少女がいた。


 ファーストキャラだった。エルフヒーラーの少女で名前はマリナ。


 マリナで冒険するようになって、色んな人から声をかけられた。ヒーラーということもあって、パーティーには引っ張りだこだ。


 その時のオレは私だった。マリナは、どこにいっても大事にされる。


 その当時は、そういうモノなんだとばかり思っていた。ギルドにも四方八方から声がかけられた。


 そしてある日狩りの最中、パーティーメンバーの1人にリアルを聞かれた。


 バカ正直だった私は、話してしまった。自分のことをベラベラと。


 そしてそれは、すぐに後悔に変わる。


 メール。ウィス。通常チャットまで……そのプレイヤーは私にしつこく付きまとった。……いわゆる粘着だ。


『マリナともっと仲良くなりたい』


 そこに他意はないんだろう。けれど、その下にある見え透いた欲望は感じることができる。


 疲れた。とても……もうやめてしまおうとも思った。


 けれど、やめるにしてもどうせ、リアルは暇が服を着て歩いてるような自分だ。友達もいないし、弟と遊ぼうにも弟は外では人気者で、可愛がられて家にいない。


 仕方がない。


 結局続ける事にしたけど、どうせならば新しいことを始めたい。そう思って、カインを作った。


 カインは男の子だ。カインでログインした瞬間、私はオレになった。いわゆるロールだ。


 カインに接する態度は、マリナのそれとは全然違う。一人称も『オレ』なので、誰もが男と信じて疑わない。


 それがとてもおかしくて、面白かった。やがて、狩り友ができてそいつとしばらく一緒に狩りをすることになった。


 連子という名前で、寡黙な奴だった。


 カインと連子は、2人でメンバーを募集して、色んな所へ行って冒険した。その過程で色んな奴に知り合った。


 やがてそれが固定メンバーとなり、カインと連子を含め6人。その6人で共有する時間が長く続いた。


 しかしある時、狩り中だったオレ達は、たった一人のPKに全滅させられた。それが悔しくて……6人でやり返してやるんだと意気込んだ。


 それが、ギルドの……灰色の狼の始まりだ。


 そして、カインとしてこれからも在り続けようと思った瞬間であり、マリナを削除した瞬間でもある。


 エルトもそう。カインとしてゲームを続けるのを諦め、未練がましく別のキャラで細々とプレイするつもりだった。


 再びヒーラーを選んで……でも……カインは削除できなかった。重ねた思い出の数が多すぎて……いつか全部が夢だったんじゃないかと思えて……。


 それでも戻れなくて……カインは1年あまりの時を待ち続けた。


「エルくん^^ノ」


「プン。こんばんは。今日はどうしようか?」


 ローディングはとうの昔に終わっていた。気が付くと目の前にプンがいて、とたとたとやってきた。


 昨日の件は、早くも波紋を広げていた。


 カインの帰還……今もどこかで、それを待ち続けている人間がいる。でも、まだだ……あそこには、連子がいる。


 きっと、うまくまとめてくれているはず。オレにはプンがいる。


 まだ、その時じゃない。

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