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みんなで晩御飯

 とにもかくにも、シャドウナイトを討ち、ぴゅあの仇はとれた(トドメは持っていかれたが)。


「潤。仇はなんとか取ったぜ。さ、狩りの続きだ続き。俺がお前を一人前に育ててやるからな!」


「ありがとうございます、渡辺さん。でも……ぼく、そろそろ帰らないと……」


「ん?」


 俺はリビングの壁にかけられた時計に目をやった。時刻は午後の5時を回ったところだった。まずいな、そろそろ晩飯の支度にかからないといけない時間だ。


「なあ、潤。今日晩飯食っていかないか?」


「渡辺さんのお宅で……ですか? でも、ご迷惑じゃ……」


「いいよ、そんなの。どうせ俺と愛紗の二人だけのわびしい食事なんだ。潤がいてくれたら、飯もうまくなる。やっぱ食事は人数多いほうがいいよな」


 潤は、少しうつむいて考える。しばらくして、ゆっくりと顔をあげるとやわらかい笑顔を浮かべて答えた。


「じゃあ、お言葉に甘えます。家に電話してきますね」


「ああ」


 潤は携帯を取り出して、リビングから出て行くと電話をかけ、そこでなにやら、母親と二三やりとりをしてすぐに戻ってきた。


「お母さんに電話してきました。渡辺さんにちゃんとお礼を言うようにって、やかましく言われちゃいました。その、晩御飯、ごちそうになります」


「おう。さて、今日は何にするかなー」


「ぼく、お手伝いしますよ」


「お、そっか。助かるわ。それじゃ――」


「はい! お湯沸かしてきますね! やかんはどこですか??」


 潤ははりきって立ち上がると、台所に向って歩き出した。


「おい! どこいくんだよ、潤」


「え? お湯沸かそうと思って……カップラーメンの買い置きはどこですか? ぼく、ラベル剥がして封をするの得意なんです」


 えっへん。潤が小さな胸をそらして誇らしげに目を閉じた。


「潤……俺をなめてるな。バカにするなよ。これでも主夫歴4年なんだ。ちゃんと材料ぶった切って、炒めて煮込んで揚げたりできるんだぜ? ちょうどいい。お前、何が食べたいんだ? 俺が何でも作ってやる」


 潤は一瞬ポカンとして、虚空を数秒見つめた後、おもむろに口を開いた。


「じゃあ、エスカルゴのブルゴーニュ風と、セルヴェル・ド・ヴォーのムニエルが食べたいです」


「え、エスカ……セルヴェ……ムニエル?」


 何だ? 一体それは何なんだ。エスカルゴはかろうじて解る。ムニエルもなんとなく。けれど……セルヴェル・ド・ヴォーって何だ? 何の魔法の呪文だ。MPでも消費するのか!?


「すまん、潤。庶民感覚で頼む……そんなフランス料理っぽいの、俺には無理だ」


 人間、できない事はできないというのは大事だ。


「じゃあ、カップラーメンで」


「それはだめええええ!」


「じゃあ、カレーがいいです」


「そうこなくっちゃな!」


 カレーは俺の得意料理だ。見てろよ、潤。絶対にギャフンと言わせてやるかな。いや、昭和のギャグ漫画じゃあるまいし、ギャフンとか言わないか。


「あれ? そういえば愛紗ちゃん……見ませんね」


「ああ。そういえば、そうだな。何だ、潤。愛紗の事が気に入ったか? なんなら持って帰っていいぞ。暴れるだろうから、冷凍便で送りつけてやる、ただし、着払いだ」


「いえ、その……ぼくは」


 潤は顔をうつむかせて、押し黙った。照れているのか、こいつめ。


「ちょっと、バカ翔! ごはんまだぁ!? 腹減った!」


 愛紗がいきなりリビングのドアを蹴り開けて入ってきた。その勢いに潤は飛び上がって、俺の後ろに隠れる。


「愛紗。リビングのドアは蹴るもんじゃないだろ。そんなに蹴りまくったら、足が格ゲーのヒロインみたいにムキムキになるぞ」


「うっさいな。まーだごはんの用意できてないのー? 何やってんのよ、もう」


「あ、あの……ぼくのせい……です」


 俺の背中から潤が出てきた瞬間、愛紗の体に電気が走ったかのように震えて、固まった。


「あ……潤くん、いたんだ。今のはあれだよ、そう。ダイエットなの! ドアを足で蹴るとね、美容にいいんだってー。ほ、ほんとだよ? ね、お兄ちゃん」


 誰がお兄ちゃんだ。このぶりっ子めが。


「そうなんだ……じゃあ、今度お姉ちゃんに教えてあげよう」


 教えるなよ、潤。


「潤くん、お姉さんがいるの? いいなあ……あたしも、こんな冴えないバカ兄貴より、優しいお姉ちゃんが欲しかったなあ」


「冴えないバカ兄貴かもしれないけど、渡辺さんはとってもいい人だよ! ぼくは渡辺さんみたいなお兄さんが欲しかったな……」


 冴えないバカ兄貴とか平然と言い放った潤。少し殴ってやろうかと思ったが、俺みたいな兄貴が欲しいなんて、いい事をいてくれたので、プラマイ0だ。


「潤くん。これが欲しいの? なら、持って帰ってもいいよ。暴れるだろうから、冷凍便で送ってあげるね。ただし、着払いだけど」


 どっかで聞いたセリフだな、おい。


 返す言葉に困っていた潤。とりあえず、晩飯の支度をせねばならない。


 俺は潤と愛紗に、リビングで待っているように指示して台所へと向った。冷蔵庫を開けて食材を確認する。


 カレーに必要な物は一通りそろっている……いや、肝心のカレールウがない。仕方がない。愛紗に買いに行かせるか。


「おい愛紗! ちょっとカレールウ買いに行ってきてくれ。どうせヒマだろ?」


「やだ。息をするのに忙しい」


 殴ってやろうか。


「あの、ぼくが行ってきます! ごちそうになるんだから、それぐらいは……」


「潤。悪いな。じゃあ、近くのコンビニまで行ってきてくれ。潤はいい子だから、お菓子も買ってきていいぞ、200円までな」


「はいはい! あたしも行きまーす! 潤くん1人じゃ場所わからないよね~。大丈夫、あたしが案内してあげるから、一緒にいこ! お菓子も500円までオッケーだよ!」


「あ、ありがとう、愛紗ちゃん」


 勝手にグレードアップさせてるんじゃない。まあ、潤もいるしいいか……。


 愛紗は嬉々として立ち上がると、潤の腕を引っ張ってリビングを出て行った。あいつの現金さにはあきれるしかない。


 それにしても、愛紗の奴、潤に対してすごい猛攻だな。あいつは肉食系だから、草食系の鑑のような潤はすぐに食われるぞ。


 いや……俺も、それくらいの積極さが相羽さんに必要か……。


 よし、ご飯食べたら、対相羽 真理奈専用挨拶Ver2を開発だ!


 俺はカレーの用意をして、潤たちの帰りを待ち続けた。あとはカレールウを入れるだけの状態まで作り、その間にポテトサラダをこしらえ、皿に盛り付けると潤たちが帰ってきた。


「ただいまー!」


「ただいま……です」


「帰ってきたらちゃんと手洗いうがいしろよ。愛紗、レシート出せ。後で家計簿つけるから」


 帰ってきた愛紗からレシートとカレールウを受け取り、最後の仕上げに入る。二人はリビングのテーブルに着席しており、行儀よくテレビのニュースを見ながら待っていた。


 米は朝の内に研いで、炊飯ジャーに入れて予約しておいたので、もう出来上がっている。


 俺はごはんを皿に盛り、その上にできあがったばかりのカレーをかける。それを三回繰り返して三人分。スプーンと三人分の皿をトレイに載せて、俺もリビングに向かい、食事の準備が整った。


「いただきます」


「いただきます!」


「いただきます……」


 俺たちは皆で手を合わせ、さっそくカレーに襲い掛かる。スプーンを黄金色に輝くルウにダイブさせ、ごはんとルウと少量の具を巻き込んでそれを口の中へ。


「おいしいです、渡辺さん! これ、どこのレトルトですか?」


「俺が作ったんだよ! ていうか、ルウ買いに行っただろ!」


「あ、そういえばそうでしたね。お菓子にばかり気を取られていました」


 とても中学3年生男子の発言とは思えない。


「それにしても、本当においしいですね。何かコツがあるんですか?」


「ああ。隠し味にこいつを少し入れてるんだ」


 俺はそう言って、テーブルの端にあったインスタントコーヒーの瓶を小指でつついた。


「コーヒーを……」


 潤は自分のカレーとコーヒーの瓶を見比べて、うなった。よほどショックだったらしい。


「あ、そうだ。バカ翔さー、昨日あたしのキャラでログインした?」


「ん? いや。俺はずっと椛してたぞ」


「おっかしいなあ……今日の朝、登校前にログインしたら『昨日ミロンでシャウトしたよね?』ってギルメンに聞かれたんだけど……」


「さあ、知らないなあ……てか、昨日はうちのボロPC調子悪くて強制終了しちまったし……」


「じゃあ、勘違いかな。誰かがあたしのヴェルカを(かた)ったのかー。誰よ、もう。斬魔にはあたしの装備とかマネされるし……」


 愛紗はぶつくさ言いながら、ポテトサラダをかきこんだ。

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