フェイブナイト
「助かりましたぁ^^w」
フェイブの少女は立ち上がるやいなや、ソーシャル『喜ぶ』を使って、子供のようにきゃっきゃっと飛び回った。
キャラクターの真上に表示されている名前を見る。……punpun321という名前だ。なんだこりゃ? プンプンさんにーいち? マジでキレる3秒前とかいう意味か?
「punpun321で~す^^v プンって読んでくださいね~☆」
プンはそういうと一人で拍手したり、一人で泣いたり、一人で笑い始めた。もちろん、これもソーシャルによるものだが。『褒める』、『悲哀』、『笑い』を使ったんだろう。
「いや、驚いたよ。まさかフェイブのネタ師がまだ全滅してなかっただなんて」
「プンはネタ師じゃありませんよお~;; 頑張ってレベルを上げていたのです! そしたら、まわりのモンスターさんがいっぱい寄ってきちゃって……」
どうやら、無闇にMOBの群れに突っ込んだ挙句、大量にリンクさせてしまったらしい。初心者によくありがちなミスだ。
「でも、助かりましたあ! 蘇生ありがとです^-^ゝ」
プンは再び、ソーシャル『踊る』で一回転してみせる。プンのシルバーの長い髪とワンピースの裾が優雅になびいて、銀色の妖精が草原に舞い降りたかのように錯覚する。
女フェイブはビジュアル面だけでいえば、女性キャラの中でもっとも人気が高い。
特に、カオス・クロニクルの女性キャラクターの装備は、露出が多く、ローブ系の装備などは下がミニスカートになっていて、スキルを使う瞬間カメラの角度を変えれば……見える。
女フェイブはエルフ並みの美しさを持ちながら、出ているとこはけっこう出ているのだ。
プンが装備しているのは、クエストでもらえる報酬アイテムの、グレードがかなり低いローブなのだが、白いワンピースのようになっていて、丈が膝上20CMくらいしかない。
それを纏ったプンが、さっきからやたらとオレの目の前で乱舞している。その度、危うい角度で聖域がこの不浄なる世界にさらされているのだが……後で注意してやるか。
とりあえず、このまま去ってしまってもよかったのだが、いくつか忠告でもしといてやる事にする。また村の前でラグ起こっても嫌だし、何度も『蘇生してください』なんて、ウィスが来たら鬱陶しい。
「オレはエルト。レベル44のビショップ……ヒーラーだ」
「プンはレベル12のフェイブナイトです! よろしくね、エルくん^^!」
ナイト……フェイブナイト……レアだ。とりわけ紙装甲のフェイブに一番ミスマッチな職業の組み合わせ。
敵の攻撃を一手に引き受けるナイトは、パーティー狩りではとても重要な職だ。ヘイトスキルを使って、敵のターゲットを自身に集中させれば、ヒーラーにとってもHP管理がしやすい。
高い防御力と、敵のターゲットを自身に向けさせるスキル。パーティーでは文字通り盾であり、壁なのだ。
それ故、どこのパーティーも必死にナイトを勧誘しようとするのだが、いかんせん数が少ない。敵のターゲットを集めるという事は、それだけ死亡率が高いということでもあるからだ。
カオス・クロニクルでは死亡すると経験値が減少する。それも、20分くらい狩りをしてようやく取り戻せるくらいの量だ。パーティープレイには困らないが、それ以上にリスクが大きいので敬遠されがちな職業である。
それに……フェイブナイトは不遇職かつ、不人気職のナンバーワンで、ナイト募集のパーティーでも、『それならローブを来たヒーラーのほうがマシ』だなんて、冷たく言われてしまう。
レベルが60になれば神スキルと呼ばれる『ヴァンガード』が使用できるのだが……そこまでマゾな奴はそうそういない。
こいつは、何でこんなマゾいのを選んだだろう……ふとプンを見ると、いつの間にかMOBの群れに突っ込んで、仲良く鬼ごっこに励んでいた。
しかも、さっきよりも数が多い。……あいつ、絶対何も考えずに外見と名前だけで選んだな。
「いや~~~~~~>< 助けて、エルくん;;」
チャットとキャラの操作が同時に出来ないらしい。急に立ち止まったプンはボコスカMOBに殴られて、悲鳴を上げて倒れた。その10秒後にさっきのセリフが流れたわけだが……。
それにしても……誰もこいつと組もうとは思わないだろうな。初心者で、不遇職で、プレイヤースキルもないし、何も考えてない、チャットも遅い。……オレもこれ以上関わるのはよそう。
初心者に関わるとロクな事がないのは、オレ自身がよく知っているはずだ。それは一年前、嫌と言うほど思い知っただろう?
クソ……思い出すだけで……腹が立つ。
「プン。お前、ギルドは?」
リザレクションをかけ、再び蘇ったプンにそう問いかける。
プンはまた一回転して、ワンピースの裾を危うく舞わせると、おもむろに派手な紋章の入ったマントを装備して、こちらに振り向いた。
「入ってるよー^^ これがプンの所属しているギルド『灰色の狼』のギルドマントなのだ>< どうだ、マイッタか@@w」
背中をこちらに向けて、プンはそう言った。
その小さな背中にくっ付いているマントの紋章を見て……マウスを握る人差し指が……一瞬停止する。
ギルドに加入したプレイヤーには、無償でギルドエンブレムが入ったマントが支給される。
プンの背中には猛々しい狼の顔がドット絵で描かれていた。
「お前……『灰色の狼』のメンバーなのか」
灰色の狼はオレがプレイするサーバーで最大手のギルドだ。ギルドメンバーは常に100人以上いて、エリアボス討伐を独占していたり、各職業ナンバーワンを決める『トーナメント』にその名を多く刻んでいる。
ギルメンは廃人ニート共がほとんだ。さっき組んだパックンも『灰色の狼』のギルメンだった。
「プン、それならギルメンに声掛けて育成手伝ってもらえよ。こんな所でソロなんかしてないでさ。手伝ってもらったほうがすぐに転職もできるぞ?」
後はギルメンさんに任せよう。元々、こいつに興味があったわけでもないし、そもそもオレは、初心者支援の優しいベテランプレイヤーなんかじゃない。
だが、プンはすぐに返事を返さない。
「……」
わざわざ沈黙をチャットにして表して、先をもったいぶってみせる。何が言いたいんだ、お前は?
キーボードの上に載せたFキーとJキーの上で、軽く指を動かし、苛立ちながら辛抱強く待つ。
「;;」
数秒間を置いて、プンが喋りだした。
「皆、忙しいから無理って言われた><; ギルメンなのに助けてくれないよーどうしよう、エルくん;;」
どうやら、ギルメンにも煙たがられているらしい。大手のギルドなんて、そんなものだ。勧誘するだけしといて、あとは放置。
あとは各自、自由にギルメンと仲良くやってくださいねー。とか言ってほっとかれる。周りにすぐに溶け込めるようならいいが、そうでなければ孤立してギルドに居場所は無い。
孤独なのだ……プンは。
狩り場に行っても誰もいないから、同じレベル帯の友人もできないし、ギルドでは初心者扱いされて、半分バカにされているんだろう。
かわいそうと言えばかわいそうだが……。ボランティアで友達ごっこなんてオレはごめんだ。
「ねえ、エルくん?」
プンがオレに疑問形で何かを問いかける。解っている。その先の言葉は。オレに超能力はないが、その先の言葉は解る。
だから。
その言葉が出る前に。
プンよりも早くキーボードを叩いて。
その言葉を紡ぎ出す。
「一人でも大丈夫な狩り場、教えて! プンがんばって狩りうまくなるから^^」
オレの言葉よりも早く、プンがオレの予想を裏切る言葉を紡いだ。
それでも、オレの心は変わらない。
すでにメッセージウィンドウには文字の羅列がセリフとなって、Enterを押されるのを今か今かと待っている。
キーボードを操作して、オレはオレの意思をプンに伝える。




