出会いとターニングポイントなネタ師の初心者
カオス・クロニクル。純国産MMOである。サービス開始から8年……日本のMMOの黎明期を生き続けたゲームだ。
美麗なグラフィックと6つの種族と8つの職業。プレイヤー同士が戦うPVPシステム。
当時のMMO業界に新風を巻き起こし、最盛期はサーバーが混雑しすぎて臨時サーバーメンテナンスが週に2,3度あった。
それから7年経った今は……サーバーも統合され最盛期の見る影もない。それまで月額制だった課金システムも、基本無料になり、プレイヤーの数は一時的に増えた。
育成も大幅に楽になり、新規プレイヤーが増加したのだが、それも一時のこと。無料になった事で、低年齢層のプレイヤーも増加した。
彼らの中にはモラルに欠ける者も少なくなかった。それが古参プレイヤーとの軋轢を生むのにそう時間はかからなかった。
現金でゲーム内通貨を購入するリアルマネートレード……RMTや、ゲーム内のキャラをプレイヤーの変わりに育成する、育成代行が蔓延り、それに手を染める新規プレイヤーも後を絶たない。
そんな新規プレイヤー達がいわゆる『害プレイヤー』になって、面白半分にPVPを初心者や低レベルプレイヤーにしかけ、低レベル帯の狩り場は一時、害と古参プレイヤーの死体が転がる戦場となった。
それから1年。害プレイヤーの多くは飽きてしまったのか、姿を見せる事はなくなり狩り場は以前の姿を取り戻した。
MOBだけのフィールド。静か過ぎるダンジョン。入場制限無しにいつでも入れるインスタントダンジョン。
それが、元の平和なカオス・クロニクルの姿だ。
ゲームに戻ってきたオレは、空を見上げながらふと思い出していた。CGで描かれた青空には雲の塊がゆっくりと現実世界さながらのように流れている。
時刻は午後9時。外は真っ暗だが、カオス・クロニクルの世界では昼間だ。日曜の夜。普通ならば、回線が込み合ってラグが多くなる時間帯なのだが、依然快適である。
パーティーマッチの画面を開く。まばらだが、いくつかパーティーメンバーを募集しているパーティーがあるらしい。ご苦労なことだ。
とりわけ、ヒーラーが不足しているのか、ヒラ様募集中のコメントがよく目に付く。すると、案の定だ。
「”どもっすー。今ヒマしてません? よかったら悪魔の森にでも行きませんか??”」
「”どうも。他のパーティーに誘われちゃったんでまた今度お願いします”」
「”りょーかーい^^”」
ご苦労な連中からたくさんのウィス……プレイヤー間同士で会話するウィスパーモードでラブコールが飛んでくる。そのすべてを同じ理由で断って、うんざりしながらパーティーマッチ画面を閉じた。
興味本位で開くべきじゃなかったな。
インベントリを開いて、所持品の確認をする。すると、MPポーションが切れていたので買出しにいくことにした。念の為、自分の倉庫を覗いてみたがストックがなかった。
シュレン達とクエを受けた村『オルティアの村』を出て、街道を一人行く。川沿いの道を歩いて、草原を走る。ここまでの道のりで、他のプレイヤーとすれ違う事はなかった。
当然か。いまさらこんな死に掛けのゲーム……新規で一から始める物好きはまずいない。この当たりは低レベル帯ゾーンだから、プレイヤーよりもNPCの数が多いんだろう。
……快適だな。そう考えていると小高い丘の上に出て、目的地が見えてきた。
『ハリの村』……通称、初心者村だ。カオス・クロニクルを始めたプレイヤーはこの村からスタートする。
基本的なチュートリアルを兼ねたクエストを受け、レベル15程度で外の世界にようやく繰り出せるわけだ。
ハリの村は、基本的にすべての物品が低価格だ。初心者が買いやすいように値段が設定されていて、他の村に比べ2割ほど安い。
オレは、消耗品は週に一度ここに買いに来て、倉庫にぶち込んでおくようにしている。他にも何か切らしている物はあったかな? とそう考えていたときだ。
珍しい。村の前で、ラグが起こった。
ラグの原因は目の前……それを見てオレは声をあげそうになった。
恐ろしい数のMOBが渦巻いていた。50くらいだろうか? それらが村から少し離れた平原でぐるぐると竜巻のようにうねっている。
大量に集めて範囲スキルをブチ込むまとめ狩りだろうか? それとも、初心者を対象にしたMPK?
どちらにせよ、関わるつもりは無い。無視して村の入り口に立った時。MOBの渦が突然散らばりだした。どうやら、渦中のプレイヤーは戦闘不能になったらしい。
いったいどこのアホだと思って、そこに近づいた。
珍しい。素直にそう思う。そして、納得した。
カオス・クロニクルには、6つの種族が存在する。ヒューマン。エルフ。ダークエルフ。ドワーフ。オーク。フェイブ。
ヒューマンや、エルフなどは他のMMOでも良く見かける種族だが、カオス・クロニクルにはオリジナルの種族が一つある。
それが、フェイブ。
フェイブは、古代人が神と戦う為に作り出した人造人間だ。ヒューマンの遺伝子を元に、エルフのビジュアル。ダークエルフの魔力。オークの力。ドワーフの器用さ。
それらを兼ね備えた戦う道具として、愚かな古代人が神様ごっこの果てに生み出した最終兵器の一つである。
白く美しい肌に、流れるような銀髪。宝石よりも美しく輝き、闇の中で不気味に光る赤い瞳。
ヒューマンの手足として、死すらも恐れない殺戮人形。ここまで語ればこの種族は最強なんじゃないか、とか考えてしまうが唯一にして最大の弱点がある。
寿命だ。所詮は古代人の神様ごっこ。凄まじいまでの戦闘力を持ち、死すらもおそれない彼らだが、その寿命はたったの20年。
というのが歴史的な設定で、ゲーム的な設定はというと防御が紙なのだ。
高い攻撃力、高い魔力、底を見せないMP。そして、あってもなくても同じ0に等しい防御力と、一撃食らえば即死レベルのHP。
6回目くらいのアップデートで追加された種族で、追加当時はチート性能で右を見ても左を見てもフェイブ、フェイブ、フェイブ。
そして次のアップでネタに早変わり。今も、野良のパーティーでフェイブを使って紛れ込むと、即追い出される。
ネタ師か、初心者か、よっぱどの熟練者でなければ使いこなすのは難しい。そう。
オレの目の前で倒れているのは、フェイブの少女だった。
「おい、大丈夫か?」
蘇生魔法くらいはかけてやろう。久しくお目にかかっていないフェイブだ。
案外、大量にMOBを引いたのも何かのネタだったのかもしれないな。
しかし、30秒立っても、1分立っても返事は無い。離席しているのかもしれない。そう思って、その場を離れかけたときだ。
「おんがいsmすっすしゅ」
「はあ?」
意味の分からない、初めて耳にする……いいや、初めて目にした言語だった。SMとか言ってるからやっぱネタ師か、こいつ。
「おねがいします」
どうやら、単なる打ち間違えだったらしい。
スキルアイコンから、蘇生魔法『リザレクション』を選び、フェイブの少女を蘇生する。
光の羽が上空から舞い降りて、少女は起き上がった。
それが、オレとこいつの出会いで、ターニングポイントだった。




