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 一瞬の迷いが命取りになる。たった一度のミスが原因で全てが台無しだ。そうならないように、ただただ最善を尽くす。


 秀麗な鎧を着込んだ金髪の若い男や、下着同然の派手なローブを着込んだ銀髪の若い女、2メートル近い体躯をした緑色の肌の大男。彼らの命を守ることが、ここでのオレの役目。


 目の前で火花が散る。薄暗い洞窟の中で、戦いが始まった。ロックアントと呼ばれるモンスターの討伐……それが今回の仕事だ。


 近隣の村人を襲う悩みのタネで、これを数体討伐すれば、村長からたんまりお礼がもらえるというわけ。


 アントの巣と呼ばれる洞窟は、入り口が人一人入るのがやっとだった。中に入ると迷路のように入り組んでいて、一度はぐれると死体で再会……なんてことになりかねない。


 今回組んだのはオレを含め4人。鎧の若い男が、シュレン。エロいねーちゃんがマリアベル。大男がパックン。そしてオレ……エルト。


 入り組んだ迷路を進むこと数分。大きな空間に出た。その直後だ。所々の穴という穴からアント……バケモノアリが湧いてくる。


 シュレンが切り込む。盾を持つ左半身を前に出し、右手の剣で襲い掛かってきたアリの前足を切り落とした。さらに、そこを畳み掛けてきた別のアリの攻撃を左の盾でガード。


 しかし、次の瞬間そのアリは自分の頭を失っていた。パックンが左右の手に握った鉄のハンマーで背後から飛び掛り、頭を叩き潰したのだ。返り血にも似た粘液を顔に受け、パックンは笑う。シュレンのほうも、鎧を緑色の何かで汚していた。


 横穴から沸いて出たアリに、マリアベルが火属性の中級魔法『ブレイズアロー』の詠唱を始める。マリアベルの足元に六芒星の魔方陣が発現し、彼女の掌からバスケットボールほどの大きさの火炎球が3つ放たれ、アリを焼き尽くす。


 ブレイズアローを受けたアリは、耳障りな『ギギギ』という音を立て、灰となって大地に還った。


 今日初めて組んだ彼らだが、チームワークは即席にしても、うまくまとまっている。……久しぶりに、いい仕事ができるかもしれない。


「3匹来た! スリを頼む」


「わかった」


 オレの出番らしい。オレには彼らの様に、強固な盾も無ければ、一撃必殺の技もないし、圧倒的な火力を持っているわけでもない。やれることはただ一つだ。


 彼らのサポート。


 対象の意識を数秒間奪うことのできる催眠魔法『スリープ』の魔法を使う。オレの足元にもマリアベルと同様の六芒星の魔方陣が発現する。


 白い霧がアリ共を包み込み、意識を奪うことに成功。その間にシュレンの体力を回復するべく治癒魔法『ヒールライト』を唱える。


 シュレンの体は白い光の柱に包まれ、傷付き、血がにじんでいた皮膚が即座に修復された。


「よし、あと一息で目標数達成だ」


 このチームのリーダーである、シュレンの掛け声で士気があがった。パックンもマリアベルも、やる気をたぎらせている。オレはそれを後ろから冷静な目で観察していた。


 ヒーラーであるオレまで熱くなるわけにはいかない。状況の変化を見極め、敵との適切な距離を保ちつつ、味方に絶妙なタイミングでアシストを入れる。生命線であるオレが無闇に前に出るわけにはいかないのだ。


 それがヒーラー。


 シュレン達の活躍もあり、程なくして予定数の討伐が終わった。


 討伐が終わったオレ達は、村に帰還すべくオレを中心に集まった。帰還魔法『リターン』を発動させる。発動と同時、一瞬視界が暗転し、景色がのどかな山村の風景へと様変わりした。


「おつかれ~、またよろ~」


「おつですー」


「おちゅ」


 オレ以外のメンバーはそういい残し、パーティーを解散すると、村長の家へと報酬……クエストアイテムとお金を受け取りに行った。


 『またよろしく』。ディスプレイにそう表示された文字。あとはエンターキーを押すだけ。たったそれだけの事を、一瞬躊躇(ためら)った。


 夕闇が空を支配しつつある午後5時。窓辺にまで闇の魔の手が伸び、室内は真っ黒だ。


 学習机の上に設置したノートパソコンのディスプレイ……。そこには、青い髪の少年が映し出されている。


 先ほどまで、動かしていたキャラクター……エルト。


 エルトはまるで、プレイヤーと同じ様に面白くなさそうな顔をして、鋭い視線で空を見つめていた。そういう顔に設定したのは自分だが。


 しばらくエルトと同じ様に天井を見上げる。そして、キーボードを6回叩いた。メッセージウィンドウには何も表示されていない。BackSpaceで消したからだ。


 もう誰とも関わりたくない。彼らともこれっきりだ。ソロのほうが気が楽でいいし、時間に縛られずに済む。


 足を引っ張るのも嫌だし、引っ張られるのはもっと嫌だ。一匹狼でいい。 


 再び視線を天井に向け、イスの背もたれに全体重を預けると、大きく伸びをする。


 席を立ち、パソコンの電源を入れっぱなしにしたまま、自室から出ると下の階へと降りていった。まるで……ゲームからも逃げているみたいでなんだか嫌な気分になった。

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