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さようなら、愛しき地球。旅が始まる。

挿絵(By みてみん)


【ヤコフ・ルナ】



その時が来た。


「ノア号指揮室より、アリスティデス教授、澤田ユイナ中尉。指揮室へお越しください。」――ノア号指揮室


「おはようございます、ヤコフ司令官。」――澤田ユイナ


「こちらアリスティデス。指揮室へ到着しました。」――アリスティデス


「全艦、発進準備完了。」――ノア号指揮室


何事もなく、すべてが順調に進むことを願っている。



【澤田ユイナ】


「AI『アルマ』、統合完了。」


「十隻の艦を率いる各中尉、聞こえますか。こちら澤田ユイナです。この旅立ちの瞬間をより美しいものにするため、一曲お届けします。」――澤田ユイナ


「アルニラム、そしてアルマ。全艦へ『甘い心』を、優しく穏やかな音色で届けてください。」――澤田ユイナ


「全艦および地上司令部との通信回線を接続中。」


100%


『甘い心』の旋律が、ノア艦隊と地上基地の隅々まで静かに響き渡る。



【アリスティデス】


「ミンタカ、アコードを統合。」――アリスティデス


「アコード起動。地球から月、火星、木星、土星、天王星を経由し、海王星へ向かう最適航路を策定します。」――アコード


「各中継地点を考慮し、航路座標を計算中。」――アコード


「航路座標を全艦および地上司令部へ送信します。」――アコード


「送信完了。全艦、受信を確認しました。」――アコード



【ヤコフ・ルナ】


別れの時が来た。


「AI『ガラン』、起動。」――ヤコフ・ルナ


「ガラン、推進器を準備し、全システムを点検せよ。」――ヤコフ・ルナ


「全システム点検完了。異常なし。」


「推進器、準備完了。」――ガラン


「全艦、および地上司令部へ。我々は発進準備を完了した。」――ヤコフ・ルナ


「ガラン、カウントダウン開始。」――ヤコフ・ルナ


「カウントダウンを開始します。」――ガラン


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【アリスティデス】


宇宙は、ただ進む場所ではない。


そこには無数の変数が存在している。


重力、回転、質量、空間の揺らぎ。


その全てが一つの流れを作り出している

「アコード、SNC航法へ移行。推進システムではなく、宇宙変数を利用する」


「了解しました、教授。SNC接続完了。周辺重力場、天体運動、空間変数の解析を開始します」


私はモニターに映る数値を見つめた。


以前の宇宙航行は、力で進むものだった。


燃料を燃やし、推進力を生み出し、空間を切り開く。


しかし、これからの航海は違う。


宇宙そのものが持つ力を理解し、その流れに乗る。


「解析完了しました、教授。地球・月系の重力流を利用した航路を形成します」


「変数を調整。速度10万km/h。航路維持」


「可能です。重力補正システム稼働中。月までの到達時間、約3時間です」


3時間。


かつて人類が数日を必要とした距離を、今は宇宙の変数を利用して進む。


私は静かに前方の月を見た。


これは速度の勝利ではない。


宇宙を理解した結果なのだ。



【ヤコフ・ルナ】


「SNCシステムそのものが、宇宙船内に人工重力を生み出していることに驚いているのかい?」


私は信じられない気持ちで表示されるデータを見つめていた。


以前の宇宙船は、推進力によって宇宙を進んでいた。


しかし、この船は違う。


宇宙の力そのものを利用し、航路を維持している。


ユイナ


「そうね。以前は宇宙に打ち勝とうとしていたけど、今はその利点を活かしているのよ」

その言葉を聞いた瞬間、アリスティデス教授が静かに口を開いた。


アリスティデス


「でも、気になる変数が一つあるんだ」


教授は何を指しているんだ?


私は彼の視線の先にある地球を見た。


「教授、驚かないでください」


アリスティデスは淡々と続けた。


「生命とは、特定の条件によって生み出される変数に他ならない」


「第一、太陽の周りを公転する地球の速度」


「第二、地球を安定させ続ける衛星」


「第三、生命が存在するための正確な場所」


ユイナ


「わかりました。でも、どの変数が気になっているのですか?」


アリスティデス


「最初の変数です」


教授は地球のデータを表示した。


「もし、その惑星の自転速度が異なっていたら。速すぎても、遅すぎても、生命の時間は変化します」


「一日の長さ、環境の変化、生物が適応する速度。それらは全て影響を受ける可能性がある」


私はその言葉を聞きながら、改めて地球を見つめた。


宇宙船を動かす変数。


生命を生み出す変数。


どちらも、同じ宇宙の法則の中に存在しているのだ。



【アリスティデス】


「アリスティデス先生、では、宗教と科学、どちらが正しいのでしょうか?」――ユイナ


「どちらも絶対的に正しいわけではない。どちらも人類が世界を理解しようとして生み出したものだ。宗教は物語を通して存在の意味を語り、科学は観測とデータによって宇宙の仕組みを説明する。しかし、そのどちらも宇宙そのものではない。」――アリスティデス


「それなら先生、私たちは神のような存在を信じるべきではないのですか?」――乗組員


「信じるのなら、人間の姿をした神ではなく、この宇宙を成り立たせる秩序そのものだ。恒星の重力、惑星の軌道、生命を支える絶妙な均衡……私は、それこそが『神』と呼ばれてきたものに最も近い存在だと考えている。」――アリスティデス


「どういう意味ですか?」――ルナ


「生命は偶然だけでは存在できない。太陽からの距離、地球の公転軌道、月がもたらす安定、そして宇宙を支配する法則。そのすべてが調和して初めて、私たちはここに存在している。私にとって『神』とは、宇宙そのものではなく、その宇宙を成り立たせている秩序と法則そのものなのだ。」――アリスティデス


(……)


人間は猿から進化したと言われているけれど……


(……)


もし、この宇宙に私たち以外の知的生命体が存在するとしたら……


(……)


そして、私たちが彼らに似せて創られた存在なのだとしたら……


(……)


そうだったなら、戦争なんて起こらなかったのかもしれない。


挿絵(By みてみん)



【ヤコフ・ルナ】


自分の考えに没頭している時の先生は、どこか恐ろしい。


(……)


「先生、月へ到着しました。」――乗組員


「ああ、了解した。ラプターチームに指示を出せ。熱センサー追跡システムの設置を開始する。」――アリスティデス



「ラプター部隊に防衛態勢へ移行するよう命じろ。」――アリスティデス


「ダ・シルヴァ中尉、部隊を率いて月面へ降下し、熱源探知レーダーの設置任務を開始せよ。」


挿絵(By みてみん)


[ソアナ]


「NOA、こちらは月面からの通信です。システムの設置が完了しました。帰還の命令を待機しています」。—ダ・シルヴァ中尉


「司令官、月面からダ・シルヴァ中尉からの通信を受信しました。システムの設置が完了し、帰還の準備が整ったとの報告です。


現在、帰還の命令を待機中です」。 —ソアナ、通信主任


「ソアナ、NOAへの帰還を命じろ」。ヤコフ・ルナ


「こちらソアナ。ラプター部隊、NOAへ帰還せよ」。 —ソアナ


「了解」。 —ダ・シルヴァ中尉


【ヤコフ・ルナ】


「先生、すべてのラプターが到着しました。」――ヤコフ・ルナ


「よし。それでは、火星までの座標を確定し、そこから小惑星帯を通過して木星へ向かう航路を設定しよう。」――アリスティデス


いつもそうだ。


(……)


この人には、驚かされる。


「アコード、月から火星を経由し、木星へ向かう航路を、すべての要素を計算した上で描き出してくれ。」――アリスティデス


「アリスティデス教授、現在、月、火星、木星の三天体が、おおよそ一直線上に位置しています。」――アコードAI


「この配置が維持される時間を計算してくれ。」――アリスティデス


「この配置が維持される時間は、およそ十時間です。」――アコードAI


「ルナ、他の船に、こちらの後方へ一直線に整列するよう伝えてくれ。PEMXを発射したら、最初の障害物への挑戦を開始する。」――アリスティデス


「了解しました、教授。」――ヤコフ・ルナ


「ユイマ、全乗組員に、磁気航法システム(SNM)による航行を開始すると伝えてくれ。小惑星帯を安全に通過するためには、暗闇の状態を維持する必要がある。」――アリスティデス


「全NOA TRへ。こちらヤコフ司令官です。NOAの後方に一列で整列し、各艦をSNMモードへ切り替えてください。」――ヤコフ・ルナ


「ヤコフ、全艦がNOAの後方に整列し、SNMモードへの切り替えを完了しました。」――AI


「アルマ、私の声を穏やかなトーンにして、みんなの鼓動を落ち着かせてくれ。」――ユイナ


「旅に向けた心への通信を開始します。通信を開始してください。」――AIアルマ


「皆さん、こんにちは。各自の居住区で、落ち着いて待機してください。これより、小惑星帯を横断する旅を始めます。」――ユイナ



【アリスティデス】


その時が来た。


(……)


もう、後戻りはできない。


「先生、きっとうまくいきますよ。」――ヤコフ


「うむ。」――ユイナはうなずき、静かにうつむいた。


「よし、ルナ。PEMX発射の命令を出せ。」――アリスティデス


「アリソン少尉が、小惑星帯に向けてPEMXを発射しました。」――ルナ


落ち着いている。


(……)


これは、成功する兆しだ。


「PEMX弾、小惑星帯へ発射。」――アリソン防衛副責任者


「アコード、すべての変数を分析し、計算を開始してくれ。」――アリスティデス


「了解しました、教授。」――AIアコード


「通路が開通しました。」


「私の計算によると、この通路が維持される時間は一時間です。」


「宇宙船の速度は1.5 SMN。時速15万キロに相当します。」


「磁気重力の影響により、速度が15パーセント低下します。」


「アコード、追加のパルススラスターで、その減速を相殺してくれ。」――アリスティデス


「追加パルススラスター、準備完了。」


「全艦に告ぐ。NOAからアリスティデス教授が指示する。速度を1.5 SMNに設定し、磁気効果による減速を相殺するため、追加パルススラスターを起動せよ。」


すべての照明が消えた。


(……)


全艦に、一つのメロディーが静かに流れ始めた。



挿絵(By みてみん)

























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