第5章 文章を書き始め、心熱く。
次の日、僕は早速noteにアカウント登録をした。
Gmailやらパスワードやらを設定していく。
そして、アカウント名まで辿り着いた。
僕はしばらく考えた。
本名をそのまま入れるのも抵抗があるし、かと言ってネーミングセンスがあるわけでもない…
僕は、このnoteを始める意味を考えた。
千聖が言ってくれた「パパの学んだことをたくさんの人に教えてみなよ!」
これは、僕の本心だ。
千聖が代弁してくれていた。
僕の学びで、言葉で行動して、人生を変えて欲しい。
僕がそうだったから。
学び、言葉、動く…
言葉で、動く…?
僕はパッとひらめいた。
「そうだ!『言葉で動く』にしよう!僕が投稿した言葉で行動して人生を変えて欲しいって願いを込めて!」
僕はアカウント名を入力して、無事にnoteを開設した。
早速、初めての投稿記事を作り始めた。
とりあえずジャンルは自己啓発にしよう。
ターゲットは、20代か30代かな…
そんな考えを巡らせながら、僕は文章を書いていった。
「出来た…」
やっとの想いで書き終わった記事を読み返した。
僕は自分の下手くそな文章に驚愕した。
でも、それ以上に新しい一歩を踏み出したことに感動した。
早速投稿した。
僕は、投稿完了を確認し、スマホを右ポケットにしまった。
少しぼーっとする。
頭が少しだけ熱い。
普段これほど頭を使ってないから、脳がびっくりしてるのかな。
そんな気さえも思う。
(悪くない。むしろ、楽しいかも)
そんな想いを抱いた初投稿だった。
僕はそれから、職場で学んだことを話すのとnoteで文章を投稿する二重生活を開始した。
僕は昔から一つのことをずっと続けるのが得意だった。
一度ハマった音楽があれば、平気で3ヶ月くらいずっと聴き続けられるし、(飽きたなぁ)と思っても「必ず意味がある」と信じて続けていた。
だから、noteも毎日投稿するようにした。
これが、ものすごく楽しくて、ものすごく大変だった。
僕は、無名の人が投稿すると、情報の信憑性に欠けると思い、引用を使うことにした。
この引用を探したり入力するのに多くの時間が割かれ、投稿する文章の執筆に遅れが生じたりもした。
noteを始めた時から、仕事の休憩時間に、スマホゲームやYouTubeを観るのをやめた。
そんな時間がないほど、毎日投稿はハードルが高かった。
でも、楽しかった。
これだけの苦労が生じたからこそ、毎日一つの記事を投稿した時の達成感は格別だった。
その喜びが、ゲームやYouTubeよりも勝っていた。
僕は、読書するのと同時に、noteで投稿するネタも考えるようになった。
パッと思い浮かんだのは、脳科学や論語、リーダーとしての心構えなど、僕が普段から千聖や職場の人達に話している内容だ。
それを忘れないように、ニーモシネの小さなメモ帳にメモしていった。
このネタ作りも楽しかった。
平凡なネタや、振り返った時にクスッて笑ってしまうものもあるけど、僕の宝物のようだった。
何よりメモにすることで、今まで自分が学んできたことがこんなにあったんだと驚きと感動を隠せずにはいられなかった。
書いては書いて。
そして、また書いて。
僕は、みるみる文章の世界に浸っていった。
「店長、次はどうしましょう?」
僕は、事務所の洗面台で手を洗っていた。
後ろから話しかけられて、僕は急に思考と蛇口を捻った。
濡れた手を、黒いスラックスの右後ろポケットに入っていたオロビアンコの青いタオルで拭き取る。
僕は、手が濡れていないことを確認し、右後ろポケットにオロビアンコのタオルを畳んで戻した。
「そうだな…じゃあ浅田さんには、鼻炎薬の棚替えをしてもらおうかな」
スラッとした体型で、ポニーテールがよく似合う浅田さんは、今年の4月から僕の店舗に異動してきた入社2年目の女性だ。
まだ22歳で若く、整った小さな顔。
指示を忘れたり話を聞いてなかったりと、少し天然なとこがあるけど、それがお客様にも従業員にも好印象だった。
物静かな木俣くんとは対照的な性格の浅田さんに、僕は色々指導していった。
入社してから3年までの間が社会人生活を支える基盤になることを知っていたし、何より学んだことを人のために使うことこそ、論語の精神であり僕の根底だった。
僕は、鼻炎薬の棚替えが終わった浅田さんから確認指示を受け、棚割り表と浅田さんが実施した棚替え箇所を交互に見る。
窓際に鼻炎薬の棚があり、日差しが僕の顔に当たる。目を背けようとしても、浅田さんの今後の成長のために、目が離せない。
僕は、この太陽の光を未来への眼差しと捉えた。
「うん。ちゃんと棚替え出来てるよ!」
僕は笑顔で、浅田さんから受け取った棚割り表に花丸を書いて手渡した。
浅田さんはそれを大事そうに受け取る。
「ありがとうございます!細かい商品が多くて苦労しましたが、無事に出来て良かったです!」
屈託のない若さ故の笑顔。
僕は少し羨ましいと思った。
20代の時に、こんな笑顔をしていたら、どんな人生になっていたんだろうと想像した。
いや。
無駄な想像か。
今こうして千聖と結婚して佳くんが生まれてきたのも、本を読んでnoteで投稿しているのも、この店舗で店長をしているのも、全ては僕が積み上げてきたものだ。
そこに感謝しなきゃいけない。
過去を振り返っても、進むしかないのだから。
未来に向かって。
僕は、強くなった日差しに目を奪われた。
そして、僕の思考はそこで停止した。
浅田さんと一緒に事務所に戻り、作業内容の振り返りを研修ノートにまとめた後、僕はお昼休憩を取った。
最近千聖の料理が冷凍食品ばかりだ。
仕方がないことだ。
佳くんのお世話に加えて、家事までしてくれている。
文句を言ったらバチが当たるよな。
僕は、レンジで温めて終わったお弁当を事務所の長机に置き、ニチレイのミニハンバーグを箸で摘んで口に運んだ。
美味い。
ケチャップが掛かっていて、味が濃くなっている。箸の先に付いたケチャップを白米に付けて、口の中に掻きこんだ。
千聖には、いつも感謝している。
ご飯を作ってもらうこと。
佳くんを産んでくれて、お世話してくれること。
そして、僕をいつも応援してくれること。
全てがありがたかった。
そういえば、僕は本を読み始めてから『ありがとう』の言葉が増えていった。
偶然じゃなさそうだ。
少しずつではあるが、ありがとうの意味を理解しつつあった。
本のおかげなのかな。
それとも、僕が成長したのかな。
まぁ、どっちでもいいか。
僕はお弁当を食べ終わると、ロッカーにお弁当箱をしまい、オロビアンコのトートバッグを取り出した。
店舗入口から外へ出て、僕の青いMOVEの中へと入った。
左手の甲をサッと上に向ける。
ずっと自宅で眠っていた僕の若気の至りの象徴であるタグホイヤーのフォーミュラー1で時刻を確認した。
(後40分ある…)
僕はオロビアンコのトートバッグから、アウトプット大全を取り出した。
そして、付箋が貼ってあるページを開き、本に書き込んだ僕の汚い字をじっと眺めた。
(今日は脳科学についての記事を書こう)
僕は、スマホのメモ機能に、あらかじめ引用しておいた文章を確認した。
そして、その内容が際立つように、記事を書き始めた。
読むと書くでは使う能力が違う。
まるで、漢字の読み書きみたいに。
書く時、信じられないほどの力を使うことを知っていた。
だからこうして、周りに誰もいない空間の方が、気が散らなくて書くことに集中出来る。
僕は、一文字一文字を頭で考えてから紡ぎ出した。
この頃の僕は、とにかく起承転結を大事にしようと心掛けていた。
「1分で話せ」という本に、「PREPで話そう」と書いてあったからだ。
PREPとは、ビジネスシーンでよく使われるフレームワークで、論理的な説明を求めるシーンで、短く分かりやすく伝えることが出来る。
PがPoint「結論・主張」
RがReason「理由」
EがExample「具体例・根拠」
PがPoint「結論・要点の再確認」
このような順番で話すことであり、それぞれの英単語の頭文字を取って、PREPと呼ばれている。
だからまず、僕は結論から書いていった。
「結論!アウトプットは週に3回はするべし!」
次に、理由を書いていった。
「脳は週に3回使われたものを記憶する習性がある!」
科学的根拠で、海馬の説明も交えた。
その次に、例えだ。
「僕みたいにnoteで配信したり、本に感想を書いたりもOK!もちろん学んだことを職場の人達に話すのでもOK!」
最後に、結論だ。
「さぁ!週に3回のアウトプットで、行動を財産に変え、より良い未来へ!」
ざっくりまとめるとこんな感じだ。
僕は、これをより詳しく書き上げるために、休憩終了5分前まで車の中にいた。
集中して膝の上に置いたスマホに目を向け続けていると、背中が丸まってくる。
時にハンドルにおでこをぶつける時もあった。
書くのが楽しかった。
ただただ楽しかったんだ。
それだけの気持ちが仕草に現れていた。
たったそれだけのことだ。
「よし!!書けた!」
僕は、予め考えておいたハッシュタグを付け、投稿した。
運転席のドアを開けた時、僕は太陽の光が眩しく、僕は顔を左手で覆った。
そして、タグホイヤーのフォーミュラー1に目を向ける。
(やば…休憩終了前3分前だ……)
僕は、急いで事務所に走っていった。
「今はこの日々が楽しい」と思いながら。




