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0日目 名古屋 家の鍵とeSIMの行方

まずは初フライト前夜のエピソード、いうなれば「エピソード0」です。

暗雲漂うとはこのことです。

「で、そのeSIMってどこにあるのよ」


「バッカだな、君は。もうあるんだよ、ええと、その、つまりスマホの中に」

私はため息をつき、スマホをいったんベッドの上に置いた。


「へえ、そうなの。なるほど、フーン」

妻は自分のバックパックから今夜分のパジャマや下着を取り出しつつ、ベッドサイドに置いて生返事を返す。

「じゃあ、今はあなたが持ってるのね。よくわかったわ」

先ほどから妻に海外旅行用のeSIMについて数十分解説していたのだが、挙句の答えはこれだ。


仕方なくまた最初から説明しようとして妻に向き直った。

「違うって。ホント、バッカだな」


妻が無言でバックパックを置き、正面に座って私をギロリと睨んだ。目が据わっている。

「あなた、私に馬鹿って二回言ったわね」


しまった。言い過ぎた。私は慌ててスマホの画面を見せる。

「と、ところでほら、ほら。今夜は日本で食べる最後の夕食だよ。ね、ね。何が食べたい?」

スマホにはここ「セントレア」のレストラン一覧が表示されている。


妻は私の顔とスマホの画面を交互に睨む。器用なものだ。

「それで、私がごまかされるとでも…あらあら、ほうほう…まあ、素敵♡」

何やかんや言いつつ、チョロくごまかされた妻は食事に出かけるために財布を取り出そうとバッグをゴソゴソ探り…それから顔をあげた。

「あら、うん?えっと」


「妙な顔をしている。どうした?」


「変な顔はあなたよ。鍵がないわ」


「顔の造作の話をしてるわけじゃなくてだな、え?…鍵って…?」


「家の鍵よ」


「ええええ?どこで?」

そう言うと妻が私を非難の目で見る。何でだ。落としたの君じゃん。


「家を出てタクシーに乗って空港行のバスに乗って、空港へ着くまでよ。つまり家からここまでのどこかよ。ああん?文句ある?」


あまりの言葉に私はつい大声になった。

「そ、それじゃ何処で落としたのか、全然、ぜーんぜん、わかんないじゃん!ホントバッカだなあ」


妻はいきなり持っていたバッグを私の脳天に叩きつける。


「ぐっ」


それから彼女はまるで変なミュージカルのようにベッドに立ち上がって歌い始めた。

「♪SIM(シ~ム)ない(ま~ち)を歩いてみぃた~い~、ど~こか(とおぉ)くに(か~ぎ)はあるのぉ?」(『遠くへ行きたい』)


まだ出発もしていないのに妻が壊れた。






2025年 9月30日 名古屋


私たち夫婦は1年間の準備の後、この日ついに20年越しの夢である世界一周旅行に旅立った。

…出発したんだが、スタートは何だか少し残念な感じなのだった。


記念すべき出発の地は中部国際空港「セントレア」である。自宅からタクシーと空港行きバスを乗り継いでここまでやってきた。最初のフライトは翌日午前の10時過ぎだったが、遅刻が怖くて前泊することにした。私も妻も小心なのだ。朝8時に空港にいる自信はない。

隣接のホテルにチェックインして、まず空港内にある大浴場を利用する。それから空港のレストランで夕食を取る予定だ。すでに旅を満喫している私たちではあった。


で、夕食前に荷物の整理をしていての会話がこのeSIMと家の鍵の紛失についてだった。

結局、家の鍵は後ほどマンションの管理人さんから連絡があり、無事に預かってもらうことができたので安心してください。誰に言ってるのか。


食事は妻とひつまぶしか親子丼かでもめたりしたが、結局私が競り負けて親子丼を食べることになった。これで2か月ほど日本食は食べ収め…と思いきや、海外のどの国にも、そうウユニ塩湖にも和食のレストランはあった。質はともかく。


こんな感じで出発前夜は落ち着かない雰囲気で更けていくのであるのである。



…この旅の準備を始めた一年前から出発前夜の自分の心境を何度も予想していた。きっとものすごくウキウキで舞い上がっているだろうと思ってたんだけど、現実ではどちらかというと何故か憂鬱で行きたくなくなっている自分がいた。何故かはわからぬ。私はトラベルブルーだった笑






<Tips①>「eSIM」

 

これまでの海外旅行では基本的にモバイルルーターを空港でレンタルして利用していました。今回は長い旅だし、荷物は少しでも少ない方がいいし…ということで情報を収集すると、モバイルルーターどころか、物理SIMももう古い!ということを知りました。つまりeSIMを採用したのです。私たちは特に他社との比較をすることもなく「Airalo」を使用しましたが、大変使いやすくてよかったです。


eSIMはたいがいまず目的地の国を指定します。今回私たちは世界各地10数か国に滞在しますが、その場合「ヨーロッパ」とか「南米」とか地域で指定することもできます。また世界のだいたいの地域がカバーできる「Global」というカテゴリーもあり、私はこれを35ドルで購入しました。容量は5GB、60日間有効でしたが、当然容量不足で旅の途中に追加で10GBほど買い足しました。この操作も簡単でした。


正直言って、これから海外旅行に行く場合、eSIM以外の選択肢は思い浮かびません。一択です。




ところで最初の目的地モルディブはGlobalのカテゴリに含まれておらず、そのくせ1か国単体で購入するとものすごく高くて、どういうことやねん!と憤りました。

でもよく考えたらモルディブは1島1リゾート…ずっとホテルの敷地内にいることになるし、ようするにそのホテルのwifiですべて完結するので、そもそもSIMが必要ないのでした。






読んでいただきありがとうございます。不定期になってしまうかもしれませんが、毎週一話くらいを目標に投稿したいと思っています。ぜひぜひ盛り上がってくるまでお付き合いいただければと。盛り上がらなかったらそれはそれでお許しを。

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