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学長のお願いとドライブ、そして千香の命令(平安神宮)パート2


☆☆☆☆☆☆『 クラと貴船神社 』☆☆☆☆☆☆☆


中西邸より、涌き出た “ 天女水 ” の逸話に、この様に書かれた。貴船神社 御祭神様よりの御言葉により、この地を知りえて 忘れ去られし昔の井戸より、新たに涌き出た霊泉水である…と。


クラは、歌の広場のあと、一週間の有休を千尋に申請した。

千尋は笑った。

「ゆ、有休??……一週間???

  ヤメ!お前が付いてあげなさい。

  貴船さんへの感謝もあるだろう!」


傍らのあやねに向かって、

「龍治を頭に! あやねはお父様、楓はお母様!

     頼むわ。」

すると

「姫、 オヤジ殿は、姫にお任せで!

前回の件の為、私の事 半年はダメです。信用不可です。ボケていても、用心してますよ。」

「ハハハハハ  分かった。 そうする。」


クラは、ヤメを連れ貴船神社に足を運んだ。

神社では、10日程前から、不可思議な事が起きていた。深夜0時を過ぎると本殿に光が灯った。

光源が判らぬ光が輝き出した。電球や蛍光灯の光ではなく、キラキラ輝いていた。

誰も、原因が判らず関係者間でのみの秘密であった。そんな所へ クラが現れた。


「神社関係者を集めなさい。 主が来たと!」


お札等の対応をしていた巫女は、突然の事で呆然。

すぐに、事務方に目配せして、クラの対応を任せた。


「どこの、どいつだ!コイツ頭おかしいんじゃないの?」  最初の巫女の一言。


関係者の休憩室に通された。

クラは、言われなくても上座に腰掛けた。


「突然に…? どちら様ですか?」

          と 事務方のおじさん。

おかしい人が現れたと連絡網で、直ぐに皆に知れ渡った。神主の代表二名が、急いで駆けつけて来た。


休憩室の中では、とんでもない光景が、広がっていた。クラに、付いてきたヤメが、大きなレジ袋2つに、コップ酒とツマミを詰め込み持って来ていた。

それを、手の空いていたおじさん達や、巫女も三人程無理やり連れてきて、酒盛りを始めていた。クラもヤメに呆れるが一緒に飲みだしていた。(クラもヤメも未成年者であるが、昔は15歳辺りには大人と見なされていた。それゆえ本人達は気にしなかった。)

そんな時に、神主達が入って来た。


「何ですか? これは……?」

クラが答えた。

「大神様より、現世に現れ出る許可が出た。

    祝いじゃ!! 先ず 飲め!!」


「あの~? あたま 大丈夫ですか?」

    神主は、訳が判らなかった。


「あのな~! 神を 試す気か!!

  お前を、何も使わず殺せば、納得するか?」


クラの右手、人差し指が神主に向くと、


“ ギャ-!! 何を…。  ナニを…。 ”


神主は、自分の首を両手で掴み、もがき苦しみ出した。徐々に、徐々に、身体が宙に浮き出した。

その場の皆は、言葉を失った。

慌てた巫女が、クラの前で土下座して、


「申し訳ございませんでした。

          お許し下さいませ!!」


結局、神社関係者全員 その場で、一斉に土下座を始めた。

クラは、回りを見渡し 見苦しく苦しがる神主を、解き放った。 1m程の高さから落ちた神主は、その場でアタフタと土下座して謝罪の言葉を繰り返した。


「も~、よい! 神殿から、出てこなかったからな……。この身体の少女は、虐められた揚げ句殺された。 可哀想でな…少女の願いは、母の心配だったので母を私が見ることにした。だから今回 一週間だけこの地に居る。

隣に居る奴は、ヤメと言う。

皆に判る名は、鞍馬の夜叉姫である。現世で友達になった。 面白いな! 千何百年と隣に居ても口も利かんかった。それが現世で、肉体を持ち、酒を酌み交わし 友人となった。

  皆も、一杯飲め!!

    私が、肉体を持った祝いじゃ!!」


「畏れながら、御名を お教え下さいませ。」


「ん~。太古…何十万年も昔だと思う。

時間の概念などない時代、大神様が この日の本を弓形に作り替えた頃には、この地に居った。

この地は特別じゃ!! 男と女、 陰と陽、 プラスとマイナス、 この地は、プラマイ ゼロ!!

ゼロ場の磁場、有り得ぬ土地である。

人は生きれば、大半がマイナスの負を背負う。だから この地でゼロに戻す。

ゼロに戻して、最初からやり直せ!…と言う事。

プラスの人間のプラスは、取らぬから安心せよ。

名前だが…ない! 必要なかった。この地の名で呼ばれたかな? 人が着けた名は……忘れた。

大神様から “ クラ ” と呼ばれてる。」


「御指導など 御願い出来ましょうか?」


「私は、舞いが好きじゃ! 巫女舞いをやろう。

ヤメ! お前もどうじゃ? お前は剣舞か?」

すると、ヤメは、

「鞍馬でやらず、貴船でやるのも 面白いね。

魔を祓う “ 剣舞 ” 見せようか?」


「神主よ! 明日から私は、日に2.3回舞う事にしよう。 ヤメは、気分次第、 居る時は、2回は やるだろう。」

ヤメは、茶目っ気たっぷりに、

「折角 クラが居るんだから四季の詩とか作って貰ったら、書道の腕は、相当なもんだよ。和紙を用意して書いて貰ったら…?」

クラは、そんな言葉を聞かぬ振りして、

「ヤメ!千尋殿の作ってくれた、巫女の衣装があったろ~。今から取りに行って来て! 未成年者の飲酒運転に成るので気をつけて!」


ヤメは、笑顔で頷くと立ち上がり両手で指パッチン。 すると、一瞬で姿が消えた。

回りは、唯 唯 呆然。

そんな なかで オズオズと神主の一人が、


「畏れながら、鞍馬の夜叉姫様とは……?」


「鞍馬の妹だ。力は私と同等。今回は、私の用心棒であり付き人じゃ!! ハハハハハ。

奴が、言っておった四季の詩か? 半紙と筆があるか? 一杯飲んでいるが書いてみるか!!」


酔った勢いで、皆の見ている前 草書ですらすらと書き出した。書き慣れた筆遣いから書かれる文字は、光り輝き、踊り出さんが如く生き生きとしていた。回りは、再び驚愕した。上手すぎる。美しすぎる。人の粋を超えている。神と言わざるおえぬと。

翌日、早朝よりクラは動き出した。

巫女姿で、代表神主三名を連れ、忘れ去られた祈祷をして回った。12箇所、これが六芒星と六曜を合わせた結界でありユダヤ教と神道を合わせた最強の結界であった。(夢の中の事とはいえ ほんまかいな~?)


クラによって、朝、昼、夕、と奉納の舞が本殿において執り行われた。全てが撮影されており一般にも見て貰う事が出来た。私の奥さんは、特等席で見ることができ大喜びであった。

そして、それは それは美しい舞姿であった。片手に四季の花、片手に鈴、そしてクラの口より鈴の様な心地よい言葉で祝詞が唱えられた。

私の奥さんは、クラの舞う姿を見て、自然と頬を涙が伝うのを感じていた。心の奥底より沸き上がる感動が涙となっていた。

多くの人々に、感動を与え日に日に、神社に足を運ぶ人々が増え続けた。


空いた時間 クラは、神殿より参拝者を眺めていた。すると、三人の若い女性の参拝者が目に止まった。 ガンであれ、血管障害であれ、脳障害であれ…三人共末期に近かった。

クルマで、入れる所まで来て、無理して休み休み歩き参拝に来ていた。両脇を両親であろう2人が寄り添っていた。男性は、娘の生きた思い出を目に焼き付け様と、口は真一文字に閉じていた。喋れば泣き出しそうで、気を張っているのがわかった。

寄り添う人達の優しさが痛々しく感じた。

クラは、彼女等の人生をビデオテープを巻き戻す様に見て救いの手を差し延べる事にした。(クラは、巫女姿であった。)


「ちょっと 宜しいですか? 参拝は、病気の為ですか?」

一人の参拝者は、ちょっと考えて、

「京都で、生まれ育って、貴船様に一度も来て居ませんでした。生きて居る内に、感謝を申し上げたくて…。 病気は、…もお…手遅れです。」


「御祭神様に、頼まれましてね! 三人共

    本殿に 来て貰えますか?」


「頼まれた…?  ナニをですか?」


「お宅達の 病気治癒ですよ!」


「えッ!!治りますか?」


「ここまで来たら、神様に 全てを委ねなさい。

  橋渡しして上げる。治ったら寄附宜しくね。」


「詐欺じゃ無いですよね?」


「治らなかったら詐欺かな? ハハハハハ

    貴船の神を 信じなさい!!」


回りで、この遣り取りを聞いていた人達が、騒ぎ出した。 静かに、スマホで撮影する者まで現れた。

三人に 付き添って来た人達も怒る者、驚く者、泣き出す者、 様々であった。

本殿に着くと神主の祈祷が終わった所であった。次の人達を止めて、三人と介添人を入れ座らせた。

巫女が、神主に命令するという、可笑しな景色が、そこにあった。 そのうち、一番年長の神主が、呼ばれ 巫女に恭しく頭を下げ、指示を受けていた。


神主が、神殿に向かい三人の名を上げ、お祓いの祝詞を上げ、大声で、活を入れるが如く、三人に向かい


「びょ-ま!! た  い  さ--ん!!!」


神主が、九字を切る様に正三角形を二つ重ね六芒星を空中に気合いと共に書くと一人ひとりに頭上から被せていった。そして、神殿の横の席に座った。静けさを破り鈴が鳴り響きクラが神殿に一礼して祝詞を呟き出し鈴のリズムが、代わり出すと、くるりと三人に向かい歩きだした、三人の前に立つとそれぞれに向かい、鈴を鳴らしながら空中になにやら、カタカナの様な文字を書いた。書かれた文字が空中で、光り出した。目の前の光る文字に驚き固まる三人。

腹の底からの気合いの声が出た。


「エイッ!!  エイッ!!  エイッ!!」


空中で光っていた文字が、砕け、スローモーションの様に光りのツブとなり女性達を包んだ。

その後、女性の頭上で鈴の音色が、女性の身を浄める様に鳴り響いた。

見た事も無い、不可思議な祈祷を見せられた参拝者、観光客、驚きのあまり声も出せなかった。

三人の女性は、目を閉じ身体の異変を感じていた。感動のあまり泣き出す者まで現れた。今までの、怠さ、息苦しさ、何も無い! 苦しさから快方。

その場で土下座して、クラに感謝、貴船の神様に感謝を伝えていた。

クラは、神主の労をねぎらい、三人の女性には、

「貴方達の生き方に優しさがあった。両親の教えでしょう。貴船の神は、“ 生きろ ” とお命じになった。貴船の神との縁は深い、御先祖からの…。

これから、たまに顔を出しなさい。

本日は、お疲れ様でした。」 クラは一礼をした。

10分も経たず、問い合わせが殺到。クラに依頼が殺到。収拾着かず、クラは、袴の裾をたくしあげ社務所へ逃げた。逃げる後ろ姿が滑稽で笑いながらヤメは見ていた。それが、藪蛇だった。ヤメの頭にテレパシーでクラから、 “ 後、頼む ” とバトンを渡された。


ヤメは、嵌められたと思った。仕方なく神主と相談して、剣の代わりに神主の持つ笏を使う事にした。

そして、祈祷依頼者10名を本殿に入れた。

ヤメは、皆に告げた。

「苦情や文句が有ったら、貴方達の願いは、神様に届きません。まっさらな心で、臨んで下さい。

祝詞の後、私が、学びました “ 破邪の剣 ” にて、皆様の魔を切り落とします。霊感ある人は、炎を見るかも知れませんが大丈夫です。それでは、始めます。」

神主が、祝詞を上げ10名の名と祈祷内容を読み上げ、恭しく神に御願いした。

笙の音色と共にヤメが現れた。右手に笏、左手に鈴、神殿に一礼すると向き直り、巫女舞いの様に優雅に舞い始めたが、何処か違和感があった。笏が剣ならば合うだろう。笏が、高々と上げられた所で、その姿勢のまま、5名の前に立ち、一人ひとりに、高く掲げた笏を下ろしながら、当人の胸辺りに笏で文字を書き、隣の人、隣の人と5名済ますと最初に書いた人に戻り、笏を振り下ろした。

      “ えぃ!! ”

クラと違い力強い気合ではないが、

   空気が揺れた。  炎が走った。

   神殿が、歪んで見えた。

10名済ますと、外から見ても本殿の中が、何か可笑しく見えた。空気が、揺れている。

水蒸気が、立ち上る様な不可思議な情景を残していた。泣き崩れる人までいた。


「これは、鞍馬秘伝の “ 魔切 ” です。

   病魔も 祓いました。

先程の様に、心乱しては なりません。それこそが、魔に隙を与えてしまいます。

貴船様との御縁を大切にして下さい。

 御多幸を お祈り申し上げます。」


ヤメは、皆に一礼をして去ろうとしたが、神主より  “ 次も 頼む ” と 縋り付かれた。

結局 あと30名の祈祷を済ましていた。その後、


「クラ!逃げんな! 私が 後 やらされたぞ!」


「ゴメン!面倒臭くなってね。明日 頑張る。」


「酒寄越せ! 飲むぞ!」


「お~! お~!  飲め!!」


その夜、TVニュースで、“ 貴船神社の奇跡の祈祷 ” と 話題を流していた。

祈祷を受け病気が完治した人々の声も流された。

“ 嘘か?誠か? 不治の病が完治? ” と


社務所の電話は、あれから、鳴り止まず。しかも全国から。


クラは、神主達に向かって、

「貴船に、縁のある人を まず優先して下さい。」


次の日の祈祷依頼は、通常では有り得ない200名越えになり、神主は、叱られるのではないかとビクビクしながら、クラに報告するも、縁ある者の救済として気にもしていなかった。

この地にて、自然をあるがままに愛した。

人々の願いも応援してきた。

それでも助けきれずに年月が流れ、無情の雨に、みずからの思いを重ね、祈祷の形として、今回は一人でも多く救いたいと願った。

そんな中で、友人となったヤメに甘えた。母に甘えるように、姉に甘えるように、そして、どちらが上でも、下でもなく姉妹の様な関係であった。どちらも、心ゆるせる仲で “ 無二の親友 ” の言葉通りである。

二人であれば、祈祷も倍以上出来るとヤメに甘えるクラであった。霊力フル稼動の二人。それこそ死に物狂いの一週間であったが、二人にとっては、楽しい日々で、酒浸りの日々であった。


クラは、二人の巫女を付き人とした。

霊力が多少なりと有り、信仰心の揺るがぬ二人であった。全てを、教え込むと言うより、叩き込んだ。

朝6:00~夜22:00までビッシリと 巫女舞いから、剣舞、新たな祝詞と、今の時代の若い娘が……回りの心配をよそに、二人は遣り通した。


天の配剤 ここにあり

  あるがままの  貴船の神

    人の心も  都の 水も

       あるがままに  浄めたり


貴船神社が、TV報道されクラの顔が出た事で、虐め傷害事件と関係される殺人事件を担当した刑事が、神社にやって来た。しかし素行が悪すぎた。


「最近、 羽振りがいいな…?

     何処から、お金が出ている?」


「巫女をやっては いけませんか?

 私の時給知りたければ 事務方に聞いて!」


「巫女……?  笑えるな!

    どうやって 殺したんだ?

     お金に なったのか…?」


「刑事が、いたいけな少女に因縁付けるの?

(まぁ~! 一人で悩ませるのもいいかもね!

大事な人から、居なくなるのも…面白い!)

    私は、17歳 喧嘩なら 買うよ!!」


「ホ~! 小娘のくせに……喧嘩を買うのか!!」


「3日で 終わるよ!

 私が、何もしなくても……祟りは起こる。」


クラの本体の少女が、殺された事件であるが、クラが少女の肉体に入ったため、傷害事件となった。

クラは、少女の恨みを晴らす事にした。それは、一族皆殺しであった。

戦国時代の感覚が抜けず、それでいて、今の時代も熟知しており、尻尾を掴まれる事はなかった。それに、今の時代の刑罰が軽すぎると思っていた。それだけに、根っからの悪人を許せなかった。少女に対する虐めは、酷いものであった。サンドバック代わりに、殴られ肋骨十数ヵ所折られ内蔵に食い込んでいた。顔は腫れ上り そこには元の顔など判らなくなっていた。止めは、バットのフルスイングによる内臓破裂である。少女は上半身 裸で血だるまの死体となっていた。

クラが、少女の肉体に入り致命傷の部分を治し自然治癒出来る状態にしていた。本体の魂は、この世の地獄を嘆きあの世への導きをクラに頼んだ。クラは、魂の傷を癒し優しき光りを持って導いた。


クラは、思っていた。

笑って人を殴れる奴は、神か悪魔である。

神でない人間だからこそ悪魔であり、悪魔を生んだ両親は やはり悪魔と決めた。生ぬるい考えは、そこには全く無かった。

意外と、その厳しい考えは他者に対してのみであり、自分に於いては適用外である。

“神こそ正義” 逸れこそが “神の身勝手” なり。


刑事は、クラが暴力を受けても知らん顔、そして血も涙も無い犯人に 罰を与えた者を犯罪者とするとは………“ 悪が栄える国作り ” である。


刑事達は、クラが大人しい事を良いことに、直接 高圧的に、ケンカ腰に話したのが不味かった。

クラ直属のグループが動き出した。ヤメが、スキップをしてたので、陣頭指揮を取っていたらしい。

二人の刑事の家族に対し静かに、音もなく、祟りが襲った。交通事故があり、ガス爆発があった。

刑事の両親は、山の奥へ消えたそうだ。

3日目、2人はクラに会いに来た。クラは会わず言伝てを巫女に頼んだ。


「今日という日を 楽しんで下さい。」


2人の刑事は、貴船神社本宮前で呆然として、立ち尽くしていた。

突然、家族を失っても真実味がなく、葬式すら他人任せであった。その上、今日にも自分の寿命が尽きると言われている。

なにがなんだか、判らぬまま今ここに居る。

自分だけでも死にたく無かった。

なんとか出来るのは、彼女だけだろう……そう思ったからここに来た。

彼女の言伝ては、さりげなく 助ける気が無いと言っていた。心が、底知れぬ恐怖に押しツブされそうになった。身体が、震えだし、寒くなり、膝の力が無くなり、ふらっとした時、景色が歪んでた。

膝から落ちると、後ろに倒れた。

見える筈の青空が、回りから少しずつ、カメラのレンズの絞りを絞るように、霞がかかり黒ずみ出した。意識はあるが、何も見えず、身体も動かず、口も利けない。

病院に運ばれた。医師の声も、看護師の声も、ハッキリ聞こえた。症状を伝えたくても、口が動かない。

恐怖が始まった。 「瞳孔が開いてる。」

  「脈が弱すぎる。」  「息してるか?」

 「心電図 異常か?」  「生きてるか?」


意識があるのに、肉体は死人であった。


神を怒らせると本当に恐い。(因みに、一番の短気は千尋、二番手はクラ! 千香の場合は気分次第)

霊力の二番手にクラが居る。



ある日のショッピングセンターで、

(エロムスメ全開100%のクラ)

私の左腕を千尋がつかみ、クラは、私の背広の裾を持ち、私の後ろを邪魔臭くチョロチョロ付いてくる。

あやねとヤメは家内にベッタリ!


あどけない顔で、私を見上げて、舌足らずの声で、


“オヤジ様、 アイス買って!!”

  (ヂクジョ~! カワイイ!! 

      真っ正直な老人が、また 騙された。)


“う~ん!! 何でも買っちゃう!!” と

              言ったところで、

  

  千尋に、お尻をひっぱたかれた。

  家内に、頭を はたかれた。

(痛みを堪える 純真な爺 60歳 う~ん!イタイ)



      















◇◇◇◇学長のお願いとドライブ、

    そして千香の命令(平安神宮)

             パート2◇◇◇◇


千尋が京都へ来て2日目の朝

ホテルで、豪勢な朝食を千香を筆頭に皆で食べた。千香は、雅の仕事をマキ達に任せ、千尋を無理矢理、引っ張って大学事務棟へ行った。

すると、学長と博物館の佐伯主任が玄関口で待っていた。あやねは、学長達オッサンが、遊園地に連れていってもらえる子供の様に期待に胸を膨らませたウキウキ顔を呆れて見ていた。

学長は、大きなレジ袋二つにあふれでるくらいのお菓子を持っていた。

佐伯主任は、大きなレジ袋ひとつに、缶コーヒーから女子の喜びそうな飲み物を集めて、入れていた。千尋は、レジ袋を貰うと千香の声援を背にクルマに乗り込んだ。あやねは、千香に会釈して続いた。学長の笑顔が、今まで見たことが無い程で、助手席に乗った。佐伯主任が、運転手だった。ルートは、二人で昨夜決めていたみたい。あやねは、すぐに缶コーヒーを飲み出しており千尋に、お菓子を催促していた。

クルマは、南下していた。

千尋は、すぐにお菓子を食べ飽き、あやねの肩を枕にウトウト、お眠の時間。

寝飽きて…ふと気づくと左手に田んぼや畑、右手に丘?山? 何かの施設もある。

飛鳥寺を一望出来る所へと、(山と丘の定義は知らない。)

川を渡って小高い丘に上った。丘より見える飛鳥寺を撮影……この時、念写においてドローンで撮影するように、空中から目標物に対してあらゆる方向よりの念写に挑戦した。

飛鳥寺を中心に、上空からの景色に幾つかの建造物から一般人の建物( 建物と言える物ではなく粗末な雨風を凌ぐだけの小屋 ) もあった。

渡って来た川を、またドローンのように川下から川上ヘ飛鳥時代の景色は、学長や佐伯を驚愕させた。

デジカメの映像は、50枚を超えどれもが、二人にとって宝物であった。

ウキウキ、ワクワクが止まらぬ大人二人。

クルマは、丘を下り飛鳥寺へ、橋を渡りきった所で、 “ちょっと! 止まって!!” と千尋

“待ってて!!” 千尋は、クルマを降り後方へ駆けて行った。

後方で、パチリ、パチリ、と何かを撮っていた。

10枚以上撮ると、鼻歌まじり帰って来た。


「学長! ものすごく、きれいよ!!」


カメラを渡し 映像を見てもらった。

それは、豪族の娘さんの行列であった。娘さんは、輿に乗っているが、その姿は今の時代に現れても、可笑しくない程カラフルな洋装だった。

機織りも、染色技術も、あやふやな時代で、薄手のカラフルな衣装……大陸からの輸入品であろう。護衛兵士は10名程、時代劇で見る衣装より、汚れて くすんだベージュの麻の様な、生地の上下、着るものが有るだけ、まともなのだろう。

槍のような物を持つ者、背丈程の棒を持つ者、まともな着物を着た者二名は、刀を腰にぶら下げていた。それだけに、輿に乗る娘さんは、別格であった。蘇我一族の身内であろう。飛鳥寺へ参拝であろう。

念写の写真の中に、千数百年前の景色があった。この少女の名も歴史に埋もれ分からないだろう。しかし、生きた証しとして、この写真に写っていた。

いい歳をした、二人のオヤジが恥ずかしげもなく、手を取り合って喜んでいた。


「学長! これは いったい?」

    「とんでもない物が 撮れましたね!」


この遣り取りが、今日一日何度も、何度も……。


飛鳥寺の東側駐車場に、クルマを止めると千尋は、カメラを持って本堂の方へ歩き出したが、突然に左手南門へ駆け出した。門の手前で、誰かと立ち話をしている様に見えた。

あやねは、学長達に 

“ 行かない方がいいよ。行くと怒られる。”

続けて 

“ 身分が 違う!! ”

学長も佐伯も、意味が分からなかった。


千尋は、ニコニコしながら写真を五枚撮り、最後は、自分とのツーショットをパチリ。

軽く会釈して、学長のところへ戻って来た。


「学長! 欲しかった人の写真よ!!」

「あの~? 誰でしょうか?」

「お札になった人よ。霊感が恐ろしく強い!

 未来を見通せた人。人と言うより神様でしょうね。凄く優しい方よ」

「なぜ…? ここに…?」


「馬子だって…! なんちゅう名前?

   笑っちゃうね! 会いに来たそうよ。」


「一緒の…写真は…?」


「ダメだって! 丁寧に断わられた。

ひとつ教えてくれた。一族皆殺しにはなっていないって、日の本で、初めて “しのび” を組織して、使った人だから二方向に分けて、孫達が落ち延びたそうよ。戦国大名として、その2家が現れ明治まで、そして現代まで続いているって!!」


「しのびって!! あの忍者ですか?」


「大陸より、カンフーの原型が入って来た。伝えた渡来人達、兵士、職人、を纏めて “しのび” の組織を作った。

全国の情報が欲しかった。連絡網よ!!

日本人と馴染めない人達が、山に住み着き独立した “しのび” の村が出来た。彼方此方の村を

聖徳太子が纏めた。 “しのび”は、表に出せず裏とした。連中の表の顔が、大工だったり、石工だったり、木工職人だったり、その時の恩を忘れず、現代でも、その子孫達の多くが太子様を祀っている訳よ。」


「馬子さんとの お二人の写真…ダメでしょうか?」


「神を相手にケンカになるよ。恐い!怖い!

太子様がダメって言ったから言われた通りが安全」


「千尋ちゃん、教えて、神ってどういう意味?」


「人間の能力を遥かに超えているのよ。千数百年の時を超えて、今の私に話掛けて来るなんて……頭でなく、耳によ!! 今までで、マリアさんと空海さんぐらい。」


「千尋ちゃんは、会ったことあるの?」


「マリアさんは、アラブの方言がキツイ。使われてない単語ばかりで解らんかった。だから英語にして貰った。優しい おばさん…ん?…御姉さん!? 空海さんは、飲んべえ~! 気さくなおじさん、ざっくばらんで、面白い人。」


佐伯は、東門辺りの千尋の立ち位置を、チェックしながら四方に向け念写を頼んだ。

今では無くなった大塔や回りの建物が、綺麗に写し出されていた。それから、大塔のみの念写も頼み、その画像を興奮しながら確認した。

大塔の、建築中の念写を頼むと、多くの職人達がそこにいた。


「日本人の大工さんですか?」 と佐伯が聞くと、


「朝鮮とか、大陸からの渡来人達、日本人には、これだけの建造物は、造れなかった。でも、この後みんな日本人になった。だから 日本人が建てた…でも、間違いではないよ。」


そんな時、あやねが話に入ってきて、

「ネ~!! 腹減った!!」


「まかして 下さい!」  即答の学長。

つづけて、

「鍋料理とか柿の葉寿司が、地元料理らしいです。 予約して有りますよ。」


千尋の頭は、料理一色。すぐにクルマに乗り込んだ。 そこから10分かからず、予約のお店に着くと学長達は、千尋達を置き去りにするかの様に、プリンターを抱えて店に入って行った。


予約名を告げ、すぐ料理を頼んだ。コンセントの依頼は、丁寧に、コンセントの側にイスを置き、そこへプリンターを置いた。

聖徳太子の写真を印刷すると大人二人またまた興奮。ウェイターまで巻き込んで、店内で大騒ぎ。

お店のオ-ナ-が、何事かと現れ、写真を見て驚愕し、飛鳥寺の昔の景色、聖徳太子の写真を焼き増ししてくれと土下座。当然、無料の食べ放題。

A4サイズの昔の飛鳥寺の写真、立派な大塔と立派な伽藍、古文書と変わらぬ…イヤ、映像として見ると想像以上の出来に、驚を隠せなかった。

千尋が、初めてドローンの様な上空からの写真を撮ったが、この辺り一面の写真が、五枚あった。

その事を、千尋に聞くと、


「聖徳太子の時代から、200年ごとの写真よ!」


学長も佐伯主任も 目がテン。

写真を、見比べる手が震えていた。戦国時代であろうか、城跡と呼ばれる処だろう…砦と屋敷が写っていた。何か解らぬ建物跡と呼ばれる場所に、遠くから写し出された屋敷があった。拡大すれば謎が少しは解けるだろう。

大きな水の施設か? 公園か? 人工の川の様な物まであった。


学長より、平城京の大伽藍の撮影に於いて、


「千尋ちゃん、地図のここら辺! この辺り!」


千尋は、食事を取りながら上の空。

鍋は美味かったが、 千尋は、

「 本日 肉の気分 」 だった。

あやねは、千尋の気持ちを察し甘味を注文した。

それが届いた時、千尋は大喜びして、

    「気分は、 最高潮」


大伽藍の撮影に於いては、当時の人達も写り込んでいた。しかも、一般人や、商売人や、各階層の役人達、と……学長も佐伯も、跳び上がらんばかりに喜んだ。

上空よりの撮影は、20年ごとに五枚撮られ、面白い発見が有るのでは…と思われた。

石舞台などは、土が盛られた方墳であった。


学長達の楽しい一日は、アッという間に終わってしまった。



   ★学園からの手助け


ドライブの朝

あやねは、千尋の通う学園へ連絡を入れていた。

平安神宮での、歌の広場に千尋が出演するという報告。今回は、丸々二日有ったので、望月先生と和美、そして放送部の先輩三名をステージの応援にお願いした。


「 なに? 平安神宮で 歌うの…? 」


「えぇ! 各大学のアカペラ部が、出演しますので、千香さんの大学も呼ばれまして…。

前回 駅前で好評でしたので、千尋ちゃんをムリヤリ…。市の観光課も、いろいろ考えますね。」


「京都市が 絡んでいますか…?」


「まぁ~! 千香さんの会社も有名に成ってきてます。その為にお金の事は言わずに…千尋ちゃんを出演させるんです。」


「どうしますか?」


「ヤマハさんも、撮影スタッフを出しますから……。千尋ちゃんが、望月先生と和美さんと放送部の先輩三名をスタッフとして呼びたいと……宜しいですか?」


「明日 出発させますか?」


「実は、今日にでも来て貰えると…助かります。」


「承知しました。今から、本人達に連絡して確認取りますね。」


「三泊四日程で…! ウチの浜松のスタッフ二名付けますので、お金の事は全てスタッフに言って下さい! 親御さんへは 学長からお願いします。」


望月先生と和美さんは、大喜びで旅支度に自宅に戻った。 放送部三名は、部長と副部長二名が行きたくて強制的に参加して来た。


浜松駅で、一同集合して新幹線で一路京都へ。

和美は、あやねから

     “若くて カワイイ女の子の歌” と

聞いていた。

即座に、昔からのアイドルの歌を調べた。そして

あやねにメールで、“千尋に歌わせたい曲”を知らせた。あやねから千香へ、そしてアカペラ部長へ連絡が渡った。


ちなみに、今回は望月先生始め皆 同じスタイルであった。

サングラスの歌姫の薄手のスタッフジャンパー、背には“謎の歌姫” 黒地に、赤い文字が輝いていた。黒の上下のスタイル、黒のTシャツは、千尋の遊び心満載で、

   前には、“ 夢 ” の一字

   背には、“やる気満々”   そして

サングラスの歌姫のイラストが、ちりばめられていた。黒のキャップには、金色で“ 愛 ”と入っていた。

とにかく 目立っていた。浮いていた。目立ちたい十代であった。

付き添いのスタッフは、スーツ姿の女性二人 あやねの配下である。


京都駅よりメンバーは、タクシーで千香の通う大学ヘ向かった。

アカペラ部は、まともな練習スペースが無く、ブラスバンド部のスペースを借りていた。

それもコレモ、千尋見たさに学生が集まるだろうと大部屋を貸してくれていた。しかし見学者が予想以上に多過ぎて、警備員まで動員された。学長は、即座に劇場の方へ場所移動を指示した。

そんなドタバタの後、和美達が到着したのだった。スタッフジャンパーは、目立った、自分達は特別なんだと和美達は、胸を張った。

“高校生だからって、馬鹿にするな!!”

自信と自慢とプライドが和美達には有った。

そこには、ヤマハの社員さん達と苦労してステージを作って来た過去が有った。掛替えのない経験であり時間であった。

千尋は、スタッフジャンパーの黒装束の一団を見つけると急いで駆け寄った。


「チ-!! 今回は ありがとー!」


「和美! 悪いけど 手伝って!!

    先生!! 突然、スミマセン!」


「千尋さん! 大丈夫? 大変ね!

          無理しないでね!」


「今回、 着替えが 大変で!!

       先輩! お願いします。」


「楽しみに来たのよ。 ガンバレ!

  私、京都の大学に決めたのよ。

     ここの街の雰囲気 大好きよ!」


「姉が、生協の関係の “雅”て 会社やってるの。同じ学園卒だから、何か有ったら相談するといいよ!」


「じゃあ!紹介してね!」


「後で ホテルでね!

 和美!曲目の方、ありがとー! 助かった!

 アカペラのメンバー紹介するね。」


メンバーとの、顔合わせを済ませるとリハーサルを通しでやった。

アカペラメンバーは、さすが大人である、千尋を気持ち良く乗せて見事に歌いきった。

しかし、千尋の顔は、なぜか沈んでいた。原因を知るのは、皆がホテルに戻ってからである。



     ★その日の爺の一日


朝早く、家内と新幹線に乗った。

私の隣にヤメ、家内の隣にクラ、向かい合っていた。通路側に、龍治と楓、私達の前後の席と反対側三列は、ボディーガード達12名。

とんでもない人数、クラとヤメに確認するとあやねの指示だそうだ。

何でも、私が軽く見られるからだと言う。

身体は重くても、頭の軽い私なので、人数で誤魔化せとあやねの知恵。

千尋は、笑っていたと言う。私は笑えなかった。

ずいぶんである。

総勢18名。リ-ダ-はクラ、サブは龍治。

私の服装も替えられス-ツ姿である。髪形も変えられていた。千尋の着せ替え人形である。

賑やかな私のまわり、そして

“ 歌の広場 ” は、別の意味があった。


「平安神宮にて、神の神勅を 発す」


千尋しか出来ず、歌と歌の間に、“神勅”を入れる。 誰も解らず、知られず、騒がれず。


新幹線は、我々を乗せ 日の本の建て直しの時を知らせに、都に上がった。


「天上界の神々に指示、命令を平安神宮にて、

日の本すべての神と証せられる神々に知らされる。 これは連絡ではない。命令である。」


これは、千尋より私が、心の声で聞いたこと。

大変な時に 招かれたものである。

ヤメに確認するとクラと共に舞台に立つと言う。

“ 大丈夫か? ”  心配する私にヤメが、

「クラ殿の 縄張りですよ京都は!!」

クラは、家内の隣で 此方を見て “ニッコリ”

「今日は、千尋は どこに…?」

「学長と博物館の主任と共に、平城京跡に……と聞いております。」



    ★ 忘れられたジジィ ★

私は、ホテルに捨てられた。確かにホテル内いろいろなお店がある。だけど、昼前に捨てるのは、随分である。家内は、清水寺へお参りである。他も回って来るだろう。………随分である。


「オヤジ殿  どうしようか?」

「そばに、  ショップでも 無いかな?」

「ショップで なにするの?」

「ヤメの ファッションショーを見る。」


ヤメは、大喜び 急いで、ブランドショップを調べた。 同時に タクシーを手配。


ヤメは、山で育ち、そこは、男社会であった為

化粧も知らず、おしゃれも知らず、千数百年。

現世で、クラからも、あやねからも、止めは、千尋からも、女性の特権としてオシャレを楽しむ事は絶対正義であると教育を受けて絶対信条となった。しかし、先立つ物が無いので、私を利用する事にしたようだ。感覚は、あやねと同じタカリである。感情の中で私は、父親代わりであった。

心の中は、本当に綺麗である。さすが神様。


ヤメが気になっていたショップは、日本では、一般人に馴染みの無いブランドで、世界的に知られたショップがそばにあった。

ヤメは、あやねにすぐ報告し手配を任せ、私は、ヤメに手を引かれ その店舗に向かった。

店舗に入る時、ボディーガードが四名要ることに気付いた。

お店の方には、あやねから連絡が入っていたようで、スムーズに特別室へ案内された。

“最重要人物だから気を付けて欲しい。” と言われたらしい。


その重要人物の連れた女の子 ……その娘の身に付けているものは、すべてブランド物で、総額500万以上……まだ 十代の少女がである。


「オヤジ殿  なんでも いいですか?」


「なんも 着てないほうが 本当は好きだけど、

千尋が うるさいから!  そうだ!!

ミニスカート 着て 見せて!!」


「お礼に、赤い襦袢で ベッドに入ろうか?」


「止めて!!  奥さんに 殺される!!」


ヤメは、大笑いしてから スタッフへ声を掛けていた。

ヤメも、スタイルが良く何を着ても、似合っており 本人が、どのスタイルが好きなのか?

私も分からなかった。でも気にしない。

黒のジャケットに、黒のミニスカート 良く似合っていた。


「ヤメ! パンツ見えないか?

     見せてくれてもいいけど!!」


“ハハハ 見えません!  ザンネンね!”


「そ~か?  ザンネン!

    サングラス…いいね!

     ネックレスも…いいね!

  ブレスレット…可愛すぎないか?

          時計…それいいね!」


“靴……これどうですか?”


「ヒールのほうが いいと思うけど、

             はけるかい?」


“大丈夫! レディーです。

      ストッキング どうしよう?”


「ナマ足 大好き!

 見る!触る!味見! これ長生きの秘訣!」


ヤメの私に対する諦めの顔を、私は、気付かず

ウキウキとファッションショーを楽しんでいた。

普段着から余所行きと、オシャレに着込んで見せて、私を楽しませてくれた。

恐ろしい事に、値段は見せられなかった。それと、何を買ったのかも知らなかった。

ルンルン気分のヤメ、目尻の下がった私、同時に千尋からお小言が、私の頭にガンガン入って来たが聞き流す事にした。

自分が楽しいからいいのだ。次は、クラで楽しもうと私は、決意していた。


夜、ホテルロビーで、千尋が私に向かって走って来たので、両手を広げ 飛び込んで来た千尋を抱き締めた。……甘かった。

抱き締めたタイミングで、首の根元に 噛み付かれた。


「ブギャ----!!」


ブタが押し潰された様な オジ-の悲鳴は、ロビーに響き渡った。

家内と千香は呆然、そして大爆笑。ヤメは逃げた。千尋を引き離し、なだめるあやねの元で、

“ウ-ウ-” 唸っていた。 困ったもんだ。


千尋は、私に対し殴れない、蹴れない、だから、引っ掻くか噛み付くか…。

私が、ヤメのナマ足を“ナデナデ”……千尋のヤキモチのガマンの限度を振り切った。それゆえ、正常な意識が吹っ飛んだ。


あやねが、そっと私に、

“オヤジ殿!どうしましょう? 姫が狂った!”

私は、肩口を手で押さえ、狂った千尋を眺めた。

あやねが、千尋の腕を後ろから、押さえていたので千尋の正面で、顔を両手で挟んだまでは良いが、どうして良いか解らず悩む前に、この際だからと千尋に、キスをした。 ブチュ-と。

すると、千尋の全ての動きが燃料切れのように止まった。

私が、キスまでするとは 思わなかった ご主人思いのあやねが、今度は発狂。


“ええ加減にしろ!! エロオヤジ!!”


噛み付かれた肩口を、蹴飛ばされ後ろに飛ばされた。半分仰向けで、宙に浮いた状態の私を家内が、ハエ叩きでハエを撃ち落とす様に、私の頭を目一杯怨みを込めてはたいた。


「 ギャ~~~!!  イテ----!! 」


私の “目覚めのキス” で正気に返った千尋が目にしたのは、血を流しヒクヒクして、床に転がっている私。


「ギャ---!!  お父様~~~!!

       だ れ が や っ た?」


千尋が、鋭い目付きで怒鳴った。

      すると、皆が、千尋を指指した。

千尋は、確認するかの様に、あやねに目を向けると “ ウン、ウン ” と頷いた。

ばつが悪そうに、そそくさと私の介抱をしてくれた。

あやねは、蹴飛ばした事は内緒に、家内は、目一杯力を込めて、日頃の鬱憤を晴らした事は内緒であった。


千尋は、私を抱き締めて泣いてくれたが、

  家内も、千香も、あやねも、

「自業自得よ! エロオヤジが悪い!!」


救急車がすぐ来てくれたが、千尋とクラだけが付き添ってくれた。夕食には間に合ったが皆の見る目が罪人を見るようで、小心者の私は、針のむしろ状態で辛かった。

そっと、千尋のナマ足をテーブルの下でナデナデ長生きの秘訣である。ヘコまぬ 60歳。










    





   


















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