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【本編完結】巻き戻ったら、間違えてモブのメイドに憑依しました   作者: てんきどう
番外編

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氷の華は春の花を夢見る

久しぶりの投稿です。よろしくお願いします。



「……暖かいわ。なんて素敵な魔力量なの」

「母上。いい加減にロージィから離れてください」

「いいじゃないの、ケチね」


 リヒトと前王妃クリスティア様は、私を挟んで言い合いをしている。


「彼女は私の婚約者です。母上の侍女ではありません!」

「そうよね。私の義理の娘になるの。私と毎日お茶会をいたしましょう。そして、もう少し親しくなれたら一緒に入浴いたしましょう!」


 (……なぜお風呂?)

 私は引き攣りそうな頬を、淑女の微笑みで制した。


「母上! ロージィをいい加減に私に返してください」

「いやよ!」


 リヒトとクリスティア様が私を引っ張りあって、喧嘩を始めました。

 どうしたらいいの!? 誰か助けて!


 離宮の応接室がビキビキと見る間に凍りつき、風が吹き荒れて、ダイヤモンドのように光るものが煌めいて落ちてきました。

 私は強い火の魔力があるので大丈夫ですが、侍女達は部屋の外へ避難しはじめました。

 氷華の姫君と言われる美しいクリスティア様。

 彼女は、前王妃にしてリヒトのお母様。

 彼女は今、私の手を握りしめて震えている。


 リヒトが申し訳なさそうに言った。


「母上は重度の冷え性なんです」 


 ……私は、お義母様にご挨拶に伺っただけなのに、どうしてこうなってるのー!?




★★★★★





 その美しさで、氷華の姫君と言われたクリスティア。

 しかし、彼女は氷の魔力が強すぎて、水の公爵家に春が来ないと忌み嫌われていた。

 

 そして彼女は、幼い頃から重い冷え性だった。

 彼女はいつも体が芯まで冷え、魔法を使えば心臓が凍りつきそうだった。

 極寒の寒さの中で、少しも寒くないわなんて笑う体力は、彼女にはなかった。

 

 そんな彼女が、唯一幸せに過ごせたのは、アグニス公爵の領地にある療養所に行った時だった。

 火の魔力が強いアグニス家領の療養所で、彼女は生まれて初めて、凍らない温泉に入って体の芯から温まることができたのだ。


 あの温泉の温かさを、今でも忘れられない。

 初めて凍らない湯船に浸かった。

 温泉から湯気が立っているのを、生まれて初めて見た。

 生まれて初めて、指先に感覚を感じられた。

 体が芯まで温まって、初めて夜ぐっすり眠れた。

 そして、お風呂上がりにいただいた冷たい牛乳の美味しかったこと!


 その療養所で、クリスティアは後にアグニス公爵夫人となるフローリアと出会った。

 フローリアは穏やかで、満開の花のように可憐な少女だった。

 しかし魔力過多気味で、すぐ熱を出して寝込んでしまう。


 そんな彼女の熱を冷ましてあげられるのが、クリスティアだったのだ。

 お互いの欠点を補える彼女達は、すぐに親友になった。もしいつか、お互いに子どもができたら結婚させたいと笑いあった。


 そんな美しい姫君達に、当時の王太子とアグニス公爵令息が恋に落ちて、結婚したのだ。

 彼女達は離ればなれになるが、お互いに手紙や贈り物をして親交は続いていた。

 氷華の姫は、火の魔力石で体を暖めながらの妊娠と出産をした。

 長男は母親そっくりな美貌の王子。長女と次男は父親似。末っ子のリヒトは幼いながらも母親似だった。

 前王は母親そっくりの長男を溺愛した。


 そして、長男の王子とアグニス公爵家の姫を婚約させた。

 長男が婚約破棄する迄は、王家とアグニス公爵家は親交を深めていた。

 婚約破棄後は親友とも疎遠になり、アグニス公爵家から優先で提供されていた火の魔力石も定価になって不足気味になった。

 クリスティアの夢は破れ、彼女は深く絶望したのだ。



——だから彼女は思うのだ。

 今度こそ絶対に、暖かい春の花姫を逃したくない、と。





★★★




 リヒトは、あきれたように溜息をつき説明する。


「母上は重度の冷え性なんです。火の魔力が強いアグニス公爵家の姫を娘にすることが、母上の悲願なんです」

「重度の冷え性……ですか。」

「ええ」


 クリスティアはローズマリーの手を握りしめて、指先がポカポカと温まる感覚にうっとりしている。


「ローズマリー様。わたくし、貴女と一緒なら温かいお風呂に入れるの! また体が芯から温まるのを楽しみにしていたのよ!」

「母上は気を抜くと、お風呂のお湯が凍りつきますからね」

「どんなに火魔法が上手な侍女を迎えても駄目だったの。見て! 私がずっと手を握っているのに、ローズマリー様は霜焼けにもならないわ!」

「母上! ロージィから手を離してください」


 ……日本の昔話に、人を息で凍らせた雪女の伝承がある。もし、その雪女が冷え性だったら、きっと苦労しただろうと、ローズマリーはボンヤリと考えた。

 カップを見ると、湯気がたっていたクリスティアの紅茶には、ぶ厚い氷がはっている。


「ローズマリー様、お願いしますわ。私と仲良くしてください」

「息子夫婦をそっとしておいてください」


 リヒトと前王妃は、笑顔で睨み合っている。

(息子の幸せをぶち壊す気か、この氷結女は……!)

(絶対に手放さないわ。やっと手に入れた春の温もりを!)


 母子だけあって、彼らは笑い方が似ていて、ローズマリーは微笑ましくなってしまった。

(リヒト様は家族仲が良いのですね)


 その後、前王妃は何かと理由をつけては、王太子宮を訪ねてくるようになった。


 リヒトは、今日もため息をつくのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


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