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【番外編】王家の儀式

リヒトとローズマリーのお話です。




 どこまでも広がる美しい花畑に、私は横になって寝ています。

 その私の上に、麗しい微笑をたたえたリヒト様が覆い被さっています。

 ……これは一体、どういう状況ですかー!?



「やはり1日5回はキスをしないといけませんよね? そう思うでしょう? ロージィ」

「は、は、ははい……」


 リヒト様が愛しそうに私を愛称で呼びます。

 優しく私の唇を、親指でなぞります。

 彼の優しい笑顔に頭の中が沸騰しそうです。


 リヒト殿下は私の婚約者です。

 彼が私に結婚を申し込んだのは、私がアグニス公爵家の養女に迎えられたからだと思ってました。

 政略結婚だと私は考えたのです。


 回帰前の私は、嫌われ者でした。

 だから、本当に自分を好きになってくれる男性なんていない……なんて思っていたのは、油断だったのかもしれません。

 今どうしていいのか分からなくて、体が硬直しまくっています。


 今までの思い出が、次々と浮かんできました。

 人間は危機に直面すると走馬灯が浮かぶといいます。

 これが、そうなのかもしれないわ。




 私は、ローズマリー・アグニス。アグニス公爵家の養女。

 元の名は、ローズマリー・ハーピー。

 子爵令嬢にしてメイドでした。


 さらに元々は、アグニス公爵家の一人娘フローラ・アグニスでした。

 私の義妹カメリアと浮気したアーロン殿下に婚約破棄されて、慌てた私は王家の『時戻しの秘宝』を使って時間を遡ったのです。

 ほんのちょっぴりの手違いで、私は幼いフローラではなくメイドのローズマリーになってしまいました。


 そこからは、獅子奮迅の働きをしましたわ。

 苛められてた幼いフローラを助けて慈しみ、アグニス公爵家の問題を次々と解決していきました。

 憎いアーロン殿下の為に戦わなくてはならないこともありました。

 復活した魔王とも戦ってフローラ達を守りぬいたのです。


 そして、私の働きは公爵家に認められて養女に迎えられたのです。

 私は、やっと本当の家族の元に帰ってこられたのです。

 幸せの絶頂でしたわ。


 その後、王弟のリヒト様にプロポーズを申し込まれて婚約いたしました。

 王家は昔から、アグニス公爵家から花嫁を欲しがっていました。

 ですが、公爵令嬢フローラは隣国の第二王子と婚約したのです。

 リヒト殿下はアグニス家の養女になった私に狙いを定めた……と私は思いました。


 リヒト殿下は、信頼できて尊敬できる御方です。

 政略でもとても嬉しかったですわ。

 彼は誠実に細やかに、私にいろいろ教えてくれました。

 ゆっくりでも、彼と良い關係を築いていけると思えました。


 そして私達は、王家の試練を受けることになったのです。

 王宮の奥深くにある聖なる扉に二人で入り、王族を守護する金竜と銀竜から加護を得るというものです。


 扉の中は、どこまでも広がる美しい花畑でした。

 金竜と銀竜がいて、人間の子どもくらいの大きさで、とても可愛いいです。

 私達は、彼らと鬼ごっこをして遊んであげました。


 それは、無限の体力の子どもと遊ぶようなものでした。

 体力がなかったり子育てに向いてないカップルだと、竜達に追い返されてしまうそうです。

 竜達の加護を得られなかったら、王になる資格なしと見なされてしまうそうです。

 なんて恐ろしい……!!


 ですが、大丈夫ですわ、リヒト様!

 フローラ達をお育てした私が、竜達に気に入られてみせます。

 私は、金竜に走って迫り捕まえようとしました。


 金竜はひらりと私の手から逃げると、キュウと楽しそうに笑いました。

 そして背中から翼を出して飛び立ったのです。

 空に逃げれば捕まえられないと思ったのでしょう。

 それは考えが甘いですわ!


「来て、ビャク!」


 私の使い魔ビャクが現れます。真っ白い毛並みが美しい白狐です。


「私を乗せて飛んで!」


 ビャクは巨大化して私を背に乗せてくれました。

 ケーン……と一声高く鳴くと、フワリと空中に浮き上がりました。

 そのまま空を駆けるように、竜達を追いかけ始めたのです。


「リヒト様、しばらくお待ちください。竜達を連れてまいります」

「ローズマリー。気をつけて」

「はい!」


 竜達は空を駆ける私とビャクを見ると、目を輝かせてキュウキュウと楽しそうに笑いました。

 そして逃げだしたのです。


「ふふ。子どもは鬼ごっこが好きでものね。ですが、私の用意したおやつの誘惑に勝てるかしら」


 私は、腰のポーチに手を伸ばして開けます。

 このポーチは空間魔法がかけられているのです。

 小さな見た目に反して、多くの物が中に入るのよ。

 しかも、料理も出来立ての状態で保存されるの。


「さあ! 飯テロのお時間ですわ!」


 私は、フワフワのパンに厚切りベーコンと甘く煮た南瓜、醤油で味付けした茸を挟んだサンドイッチを取り出しました。

 醤油の風味とベーコンの塩味、南瓜の甘味がたまらない美味しさなのですわ。

 この世界は、幸いなことに現代日本に近い食材が揃っています。

 アグニス公爵家の料理人やお気に入りのお店に頼んで、用意してきました。


「キュウ?」


 竜達が空中で止まり、興味深そうにこちらを見てきました。

 私はポーチから、次々と美味しいサンドイッチやお菓子を取り出しました。


 甘く煮た林檎と小豆にたっぷりのバターを挟んだ菓子パン。

 煮たサツマイモを潰して甘く味付けして焼いた、しっとりなめらかスイートポテト。

 洋梨のジャムを使ったフワフワのシフォンケーキ。

 柿とリンゴとハニーヨーグルトのサラダ。

 南瓜とチョコのクッキー。

 栗を贅沢にたっぷり使ったマロンモンブランケーキ。


 私は食欲をそそる赤とオレンジ色のクロスをビャクの背中に広げ、白い皿の上に料理を並べていく。

 暖色系は食欲をそそるのよ。

 ダイエットしたい時は、寒色系をオススメしますわ。


「秋の味覚の虜におなりなさい! お腹いっぱい食べればいい! 私の勝ちですわ!」


 竜達が急旋回して、まるで弾劾のように私に向かって飛び込んできました。


ゴスッ……!!


 咄嗟に身体強化をして、私は竜達を受け止めました。

 しかし、私の体はビャクの背中から吹き飛ばされてしまったのです。



 脳内で、前世の世界で人気だった平和の歌のイントロが流れた。


……想像してごらん……

空中で子竜達をおやつでつったら

喜びで飛び込んでくるしかないと

ほら、危険でしょう?……


 後半は変な替え歌になっていた。


 私は思わず笑ってしまい、はっと気がつきました。

 凄い勢いで落下しています。一瞬意識がとんでいたらしい。


「お、落ちる―…!!」


 どうしたらいいの!?

 下に火魔法を撃ち込んで、落下の勢いを消す!?

 ……駄目だわ。リヒト様が下にいるかもしれない!


 ビャクが慌てて私を助けに来ようとしているのが見えた。

  私は必死で手を伸ばしました。

 でも間に合いそうにない。どうしよう!?


「ビャク……!」

「つれない人ですね。私の名前は呼んでもらえないのですか?」

「え……!?」


 ふわりと優しい風が、私の体を包みこみました。

 落下のスピードがゆっくりになり、私は横になった姿勢のままフワフワと落ちていきます。

 私が声がした方を見ると、リヒト様が面白くなさそうに眉をひそめて浮いていました、


「リヒト様……」

「私は隣国で風魔法を身につけたんです。忘れましたか?」

「そんなことはありませんが……、まさか飛べるとは思ってませんでした」


 リヒト様がふっと穏やかに笑いました。素敵な笑顔です。

 彼の後ろに、半透明の男性が浮かんでいました。

 私が驚くと、リヒト様が説明してくれました。


「紹介します。私の契約精霊のエアリエルです」


 隣国では精霊と契約して、魔法が使えるようになると聞いています。

 人間二人を浮かせられるなんて、とても力の強い精霊様なんだわ。

 こんな強い精霊と契約できるなんて、リヒト様は凄いです。


「エアリエル様。ありがとうございます。私はローズマリー・アグニスです」


 私はお礼をしっかりと伝えます。

 リヒト様の大切な契約精霊なら、私にとっても大切にするべき存在なのですから。

 エアリエルと呼ばれた精霊は、ニッコリ笑うと力強く頷いた。

 リヒト様が、少し考え込まれました。


「この世界は、私達が住んでいる世界と時間の流れが違うんです。どんなにゆっくり過ごしても、扉をくぐれば15分ほどしか時間が経っていないのです。他に誰もいません。いい機会ですから、話し合ってお互いの理解を深めましょう」

「は、はい!」


 私はフワフワと落下しながら、哀しい気持ちになります。

 リヒト様のお役に立ちたかったのに、助けられてしまいました。

 侍女時代に鍛えたので、もっと活躍できると思っていました。

 学歴もなく元々の身分が低い私は、社交界で侮られているはずです。

 公爵家養女という身分以外でも、お役に立ちたかったです……。


 リヒト様がお話されます。


「実はですね、私は王位につく気はなかったのです。甥のアーロンは王位を拒んでますが、優秀な政治家です。幼い頃から天才的な手腕をふるっています」

「そうですわね」


 実はアーロン殿下も未来から回帰している。

 国が良くなるように、彼も努力なさっていました。

 悪い結果になっていた政策をやめさせて、起こる災害に備えたのです。

 これは私とアーロン殿下の秘密なのです。


「私は、風魔法の公爵家になるつもりでした」

「風魔法の公爵家を復興させたかったのですか?」


 風魔法は、補助や情報収集が得意とされています。

 残念なことに、我が国は風魔法を得意とする公爵家が没落してしまったのです。

 かつて某王子が起こした婚約破棄騒動の責任を取らされたからだそうです。


「そうです。ですが、私が王太子になってしまいました。もしできれば、私は貴女によく似た娘が三人欲しい。そして、アーロンを次の王太子にしたいのです」

「三人の娘ですか……!?」


 私はリヒト様の家族計画に驚いてしまいました。


「最後まで聞いてください。それから、貴女の意見を聞かせてくれると嬉しいです」

「分かりました」


 そうよね。お話を最後まで聞かなくてはいけないわ。

 話を途中でさえぎることは、相手の話に聞く価値がないと示すことになるもの。


 リヒト様のお話は続きます。

 彼曰く、水と火の魔法使いは相性が悪い。

 水魔法の家系を母にもつリヒト様と、火魔法を得意とするアグニス公爵家の私。

 結婚して安全に子供を授かるには、リヒト様の魔力を私の体に馴染ませることが大切だそうです。


「ご存知ですか? 相手の魔力に馴染むには、キスが最も効率がいいんです」

「キ、キスですか?」


 その時、フワフワと落下していた私が花畑の上に落ち着きました。

 リヒト様が優しく私の頬を撫でられます。


「ロージイと呼んでもいいでしょうか。公式の場でなければ私のことはリヒトと」

「嬉しいです。リ、リヒト……」


 この親密な距離感は、今だに赤面してしまいます。

 ロージィはローズマリーの愛称。

 様をつけないのは、親愛の証ですわ。

 リヒトさ……リヒトは、これが正しい婚約者の接し方だと教えてくれてるのです。

 他の方達も何も言わないので、きっと正しい接し方なのですわ……。


「私、アグニス公爵家の令嬢としてリヒトが恥ずかしくないように頑張りますわ。アーロン殿下のことも風の公爵家復興のことも、お手伝いいたします!」

「……ロージィ。実は……白状すると、私は貴女が侍女だった頃から目をつけていました。貴女を失いたくなくて、アグニス公爵に貴女を養女にするようにお願いしたのですよ」

「知りませんでした……!」


 衝撃の告白です。

 リヒトは、私が侍女だった頃から好意を持ってくれていたなんて……!

 暖かいものが胸いっぱいに広がりました。


「それに、王宮の家庭教師達も貴女の優秀さを褒めていました。まるで、王妃教育を受けたことがあるようだとね」

「……恐縮ですわ」


 回帰前に王妃教育を受けてましたなんて言えませんわ。

 そして悪女として断罪されましたなんて。

 恥ずかしい黒歴史なのです。


「王妃を助けて暗殺者を撃退したこともありましたね。あれで王妃派は貴女の味方になってくれたようだし、『戦慄の戦姫』と社交界で呼ばれています。ですから、表立って貴女を貶める者はいないのです。安心して嫁いできてください」

「そんな二つ名がついていたなんて……」


 思わず青ざめてしまいました。

 『戦慄の戦姫』って酷くないですか。

 もっと可憐で優雅な呼び名がよかったです!

 

「……邪魔する雑魚は、私が消しますから」


 ボソリと笑顔で呟いたリヒトの呟きを、異名で悩んでいたローズマリーは聞き逃した。





「私は、貴女によく似た女の子が三人は欲しいです」

「リヒト様……」


 リヒト様が、横たわっている私に覆い被さるように両手を私の頭の横につかれました。


「やはり1日5回はキスをしないといけませんよね? そう思うでしょう? ロージィ」

「は、は、ははい……」


 そして、冒頭のシーンになってしまったわけです。

 私は頭が沸騰して硬直しています。


「魔力をお互いの体に馴染ませるのに、もっと効率のいい方法もありますが、それは結婚後のお楽しみということで……」



ゴスッ!


 金銀の守護竜様がリヒト様の背中に飛びかかってきました。

 どうも、かまってほしいようです。

 リヒト様の頭に噛みついています。甘噛みでしょうか。


「いいところだったのに……」


 リヒト様はコホンと軽く咳払いをして、気を取り直されました。


「ロージィ。私達の子どものために、これから毎日5回はキスをしましょうね。これは夫婦になる私達の義務です。たとえ喧嘩しても、キスはしましょう」

「ぎ……義務ですか!?」


 私はまた頭が沸騰しました。

 きっとトマトのように顔が赤いに違いありません。

 美しいリヒト様とキ、キス……1日に5回も……耐えられるかしら、私の心臓!!


 金と銀の守護竜様が、私達の間に入り込んできました。

 なぜか、リヒト様と見つめあっています。

 私が先程出したおやつは、食べられてしまったようです。

 ビャクの背中には、白いお皿と暖色系の布しか残っていませんでした。


 ……おやつが足りなかったのかしら。


 リヒト様は残念そうに息を吐くと、私と並ぶように座り直されました。

 私も起き上がって、座りなおしました。

 私は疑問に思っていたことを聞いてみることにしました。


「あの……リヒト様。結婚相手は私で良かったんでしょうか? 私は目を引くような美人ではありません。学歴もありません」


 男性は視覚が女性より発達しているので、見た目重視になると聞きます。

 王子妃にもなると、やはり国一番の美貌や可愛いらしさを求めてしまうのではと思うのです。

 リヒト様は空を見上げました。

 どこか遠くを見るように言われます。


「美しい貴族の淑女の中には……、魔物を胸に詰めてセクシーに見せたり、魔物を乾燥させた化粧品をぬって若作りしている者が多いのです。それから、誰にもわからないと思って酷い嘘を平気でついて、周りを巻き込む者も多いのです」

「はい? 本当に?」


 私は驚いて聞き返してしまいました。

 リヒト様は、暗い顔をされてうつむきました。


「ええ。私は風魔法で常に情報収集しています。だから……分かってしまうんです。貴女には嘘がなかった。誰よりも美しい女性だと私は思います」

「ありがとうございます。リヒト様……」


 照れて死ねるなら死ぬ程、私は照れてしまう。

 顔はハバネロのように赤くなっているだろう。

 もう淑女の微笑みどころではない。

 これはもう、私と本気で親しくなりたいと思ってくださっているのだ。

 あのリヒト様が……!


 それから私は、可愛いフローラやカメリアが、魔物を化粧品を使う未来を想像してしまった。

 ……駄目。絶対ダメ。

 この世界は魔法があり、様々な魔物がいます。

 ですから、化学が発達せずに魔物を有効活用していることは理解できます。

 日本でも鳥の糞を化粧品にしていた時代がありました。


 でも現代日本の感覚もある私としては、なるべく使ってほしくありません。

 自然物からの化粧品の開発をしたいですわ。

 いや、しなければいけません!


「ロージィは、何かやりたいことはありますか?」

「私は、自然から作られた化粧品の開発や子ども達への教育の普及がしたいですわ。フローラを育てた経験から、この国の子ども達への教育を改善したいです」

「素敵ですね」


 リヒト様が優しく微笑まれました。

 私は彼の笑顔に見惚れてしまいます。彼のお顔は私の好みのタイプなのです。

 彼は私の肩に手を回されました。


ガブリ!


 金竜様がリヒト様の手を噛まれました。そして、グイグイと私とリヒト様の間に入ってきます。

 銀竜様は私の太ももの上に座りこんで、頭をグリグリと擦り付けてきます。

 リヒト様が呆れたような顔をされました。こんな表情もされるのですね。


「ここではもう口説けないようです。せっかく二人きりになれると思ってたのに……」

「もっとおやつがほしいのでしょうか」


 私は、ポーチの中からおやつを取り出しました。

 たくさん用意してきたのです。


「リヒト様もどうぞ」

「ありがとうございます」

「ビャクもお食べなさい」


 そして、どこまでも続く美しい花畑で、私達は仲良く秋の味覚を堪能したのでした。



 その後、花冠を作って竜達の頭に被せてあげると、嬉しそうにキュワキュワと笑ってくれました。

 そして私達の周りをくるくると踊るように回りだしたのです。

 キラキラと金と銀の光が雪のように落ちてきました。

 不思議な声がします。


『太陽の加護がつけられました』

『月の加護がつけられました』


「金竜様と銀竜様から加護をいただけたようです」

「ええ! すごく嬉しいですわ」

「強く健康な体と回復力、魔法や呪いへの耐性、癒しの力などの効力があります。まだまだ他にも効果があるはずです」

「素晴らしいですわね」


 任務達成しましたわ!

 やはり、秋の味覚は最強ですね。

 また美味しいものをたくさん作って、金竜様達に差し上げたいですわ。


 その後も私達は、金竜様達とゆっくり遊んで扉の所まで戻りました。

 とても楽しかったので、名残惜しいです。


「久々に楽しい時間をゆっくり過ごせましたね」

「ええ。また来たいですわ」

「また来ましょう。貴女が望むなら何度でも」

「嬉しいです」


 リヒト様は、お優しい方です。

 こんな素晴らしい方と婚約できて、私は幸せです。

 私は金竜様と銀竜様を抱きしめて、お別れをします。


「また来ますね。金竜様、銀竜様」

『また来てね。待ってる』

『そっちの男は来なくてもいい』

「嫌われましたね」

「ええと……」


 頭の中に竜達の言葉が響きました。

 テレパシーというものでしょうか。

 リヒト様は笑っています。大人の対応です。

 できる男性ですね!


 リヒト様が扉に手を触れると、扉がゆっくりと開きました。

 お父様達が、扉の向こうで心配そうに待ってくれていました。

 扉が閉まるまで、竜達は私達を見送ってくれたのでした。


「おお、竜神様達が見送って下さるなんて」

「気に入られたのだ。今回の試練は上手くいったのだな」


 門の前で待ってくれていた皆様が、暖かく出迎えてくれました。

 麗しいお父様も笑顔で迎えてくれました。


「無事でよかった。ローズマリー。無事に加護もいただけたようだね。君なら大丈夫だと思っていたよ」

「嬉しいですわ、お父様」


 リヒトが私を後ろから抱きしめました。


「ええ。ロージィは素晴らしい働きでした。私の妻は優秀です」

「おやおや。お祝いの言葉をかけるくらい許してほしいな」

「もう十分いただきました。ロージィには結婚するまで王宮に住んでほしいくらいです」

「結婚式までは、アグニス公爵家で家族として過ごしたいんだがね」


 お父様とリヒトが仲良くお話されています。

 私は試練をやり遂げた誇らしい気持ちで、お父様の隣へ行きました。


「嬉しいですわ。お父様とお母様の結婚したお話をお聞きしたいです。今後のために……」

「ロージィ……!」


 結婚してアグニス公爵家を出るまでに、家族として出来ることをしておきたい。

 それも、今の私の本当の気持ちなのです。

 リヒト様とは、また明日王宮で会うのですから。

 そ、その時は、キ、キスを5回……、5回……!?

 やはりお父様とお母様にいろいろお聞きしたいです、今は……!


 私は興奮し過ぎて、火魔法の炎の玉がふわふわと出てしまいました。

 どうしましょう……! 上手く魔法をコントロールできない……!


 お父様がそれを見て、麗しく微笑んで炎の玉を消してくれました、

 そして、私の体をふわりと抱き上げます。


「ローズマリーは疲れているようです。私達はこれで失礼します。リヒト殿下もゆっくり休んでください。ローズマリーとはまた明日会えばいいでしょう」

「……分かりました。また明日会いましょう。ロージィ」

「はい。リヒト様」



 赤面して硬直しているローズマリーと、心配そうに彼女を抱き上げて早足で立ち去るアグニス公爵達を、リヒトは見送った。

 

(まったく……。ロージィが公爵の第二夫人を望まなくて本当によかった。勝てる気がしない……)


 契約精霊のエアリエルが手だけを出現させて、慰めるようにリヒトの肩を叩く。

 リヒトは苦笑して、待ちかまえてる国王夫妻達に向き合った。

 ここからは、彼らの対応をしなくてはいけない。

 先程までの、甘く楽しい時間を思い出す。


(逃がさない。貴女は私のものです。婚約を受け入れてくれたのだから)


 リヒトは不敵に笑った。

 






読んでいただきありがとうございます!


お話が完成できたら、ポツポツと追加していきたいです。

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