第81話
「あっ、おかえりなさい! どうでした?」
キョーコが居間のドアをあけたら、キッチンのカウンターから梨花がひょいと顔を出し、問うてきた。
「綺麗だったよ、花火」
「楽しかったんですね」
思わせぶりに、ふふっと笑う梨花。
「そんなに顔に出てる?」
「珍しいくらい」
「むう」
むにむにと頬をつかむ。
まだ調子が狂いっぱなしだ。
「いま、お夜食ににゅうめん作ってて。キョーコさんも、お夜食いります?」
「ううん、大丈夫。お腹いっぱい。ありがとう。とりあえず浴衣、着替えてくるね」
自室に戻り帯をほどくと、胸から肩から力が抜けた。
一気に現実に帰ってきたみたいだ。
(仙道さん、いるよね)
エンジニアブーツが玄関にあったし。
なんだか顔を合わせるのが気恥ずかしい。
顔を合わせたらつっこまれるだろうなぁと思いながら、キョーコは拭き取りコットンでメイクオフして部屋着に着替えて、自室を後にした。
「いいにおい」
キョーコが居間に戻ると、食卓にはにゅうめんのお椀が三つ、並んでいた。
「お出汁と具だけでもどうですか? ホッとするから」
「うん、じゃあいただこうかな。ありがとう」
にっこり笑って、梨花が空っぽのお椀を棚から出す。
キョーコが席につくと、人数分の湯呑みをお盆にのせた仙道がやってきた。
「で、進展あった?」
その口元はすでに楽しそうだ。
「仙道さん、めっちゃストレートに聞くじゃん」
「てへ」
ぶりっ子のようにほおを膨らませ、首を傾げる仙道である。
「やだもー、女子高生ぶったおじさんがいるよ」
「まだまだ可愛いでしょ」
「はいはい、可愛い可愛い。────付き合うこと、前向きに考えるって伝えた。いろいろありがとね」
「それは何より。────明日の透也のテンションがやばそうだな。口を塞ぐ用のチョコが要るな」
「それは、いいことを聞いたわ……」
透也を黙らせたい時は、その口にスイーツを突っ込めばいいらしい。
「やばっ。いい報告嬉しいっすね。おめでとうございます」
「わっ、びっくりした。五味っち、気配消さないでよ」
「普通に今きたとこですよ。お風呂、先にいただきました」
濡れた髪を拭きながら、「浴衣のデザイン、こだわった甲斐があったなぁ」と、五味はひとりごとのように自画自賛している。
まぁ、実際、浴衣の出来はとても良かったので、素直に礼を言おうと、キョーコはペコリと頭を下げた。
「うん。浴衣にもパワーもらったよ。五味っち、みんな、ありがとう」
おおっ。
三人がどよめいたかと思うと、梨花はにこにこと拍手までし始めた。ああ、やめて。恥ずかしい。
皆が席につき、あらためて思い思いにキョーコを祝ってくれる。
ありがたいんだけれども、いかんせん恥ずかしい。
照れの一つもなしに、教室で恋バナに盛り上がれた学生時代は最強だったのではないか。
若いってすごい。
キョーコがなんだか遠い目をしていたら、透也の事を考えているのかと、仙道に勘違いをされたらしい。
「恋する乙女の顔してるわ。もうほぼ付き合ってるね、これは」
と、仙道。
「いっちゃん楽しい時ですね、やば。キョーコさん青春してますね」
と、五味。
「五味っちまで面白がってない?」
「気のせいです。そんな命知らず」
「何て?」
「うそうそ。おめでとうございます」
「だから、まだよっ」
「透也さん、いまごろ喜びを噛み締めているでしょうね……。お祝いにクッキーでも焼きましょうか」
「梨花ちゃんも感想が独特よね」
「そうですか?」
「いや、個性的でいいんだけど。私は好きよ」
「私もキョーコさんのこと、好きです♡」
「ありがとう♡ ええっと、何の話だったっけ……」
キョーコが額を押さえると、仙道はおだやかに笑って言った。
さっきとは違う、おふざけゼロの顔で。
「や、でも本当。よかったよ。大切な友達と大切な友達が幸せそうで」
「胸がほわほわしますね。一周まわって懐いです」
「五味くん?」
「はははは。面白がってないっすよ。真面目にエモいっす。そーだ、キョーコさん、お漬物出しますねっ」
「うむ、許す」
はぁ、と一息ついて、キョーコは手をひらひらとふった。
「もう、恥ずかしいよ。この話はもう良いから────。ほら、麺のびちゃうよ。みんな食べなよ」
ほらほらと督促するキョーコ。
皆が席につくのを待って、手を合わせた。
「じゃあみなさんご一緒に、いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「はい、いただきます。────よろしゅうおあがり、です」
◇




