第68話:「エゼルはお茶がこわいぞ~(≡ω)♪」
「壊れているのは、あなたの方でなくて?」
そういってクスリと特級天使が笑う。でも、その笑みは彼女のステータスと同じで壮絶だった。
俺の視界の端に浮かんでいる特級天使のステータス、そこには6桁かそれに届こうかという数字が、ちらりと目に入るのだから。
正直、あまり見たくはないけれど特級天使のステータスを改めて視界に入れる。
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【クローバー・ウォーター】
種族:天使
性別:女
属性:聖・光・風(闇)
レベル:780(980)
HP:78000(98000)
MP:88000(128000)
SP:68000(78000)
物理攻撃力:5500(6500)
魔法攻撃力:8800(14100)
物理防御力:5500(6800)
魔法防御力:8800(12800)
筋力:550(630)
精神力:980(1280)
賢さ:980(1030)
素早さ:680(880)
器用さ:680(980)
運:980(1080)
称号:
特級天使/神の御使い/亜神/魂の救済者(/笑顔の殺戮者/殺戮の天使)
スキル:
断罪の瞳/level10/完全に犯罪者を見分けることが出来る。
鑑定分析/level10/相手のステータスや情報を完全に見ることが出来る。
鑑定回避/level10/鑑定や分析スキルから、自らのステータスを隠ぺいすることができる。
身体強化/level10/SPを消費して身体能力を向上できる。
攻撃力強化/level10/SPを消費して物理&魔法攻撃力を向上できる。
etc……
魔法:
聖属性魔法/level10
光属性魔法/level10
風属性魔法/level10
生活魔法/level10
etc……
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前半に表示されているのが、偽装表示されているステータス。そして()で囲まれているのが、隠されている本来のステータス。おそらく【鑑定回避/level10】というスキルが、ステータスの偽装に使われているのだろう。
しかし、スキルレベルの最高位であるlevel10を突破できる、俺の鑑定スキルはどれだけぶっ壊れているのだろうka――いや、今は考えないことにしておこう。
そんなことよりも優先順位の高いものが、今はたくさんあるのだから。
俺がそう考えて頭を振った瞬間、特級天使の姿を映していたモニターがプツリと音を立てて空中に消えた。
そして、その他の浮かんでいるモニターも虚空へと消える。
「ダンジョンシステム、再起動します!」
戸惑っている俺とエゼルをよそに、気合の入ったディルの声がリビングに響く。そして、空中にモニターが再展開される。
そのモニターの中には、先ほどと同じ映像が流れていた。
もちろん、特級天使の姿も映っている。
でも、先程までとは違いこちらの方に視線を向けてはいるものの、焦点は微妙にずれていた。
「これは……うふふっ♪」
何かの違和感に気付いたのだろう、特級天使が嬉しそうに笑い出す。
そして、微妙にずれた視線でこちらを見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「そちらには、かなり優秀なダンジョンコアが付いているのね? 私の鑑定解析スキルに対抗できるダンジョン防衛プログラムを即座に組み込むなんて……旧式の量産型ダンジョンコアとは思えない素晴らしさだわ♪」
小さく笑って言葉を区切ると、特級天使はその笑みを深める。
「取るに足らない存在だと思ってDCは無視していたけれど……このダンジョン、とっても楽しめそうねぇ♪」
そう言うと、特級天使は駆け出した。尋常じゃないスピードでダンジョンの中を天使の翼で飛び、遭遇する魔物たちをすり抜けざまに肉塊へと変えていく。
「――っ!? 早いぞッ!」
「おにーさん、どうしますか!? 魔物さん達をぶつけても、物量で攻める前に突破されそうです!」
慌てたような声を出したエゼルとディルに、俺は思考を加速させる。
『ディル、ダンジョン内の魔物たちに避難指示と待機命令を。こちらの体勢を立て直す時間が欲しい! エゼルは、特級天使の弱点とか足止めができそうな方法があったら教えて!』
ディルとエゼルにテレパシーを飛ばすと、2人からすぐに返事が戻ってくる。
『了解です、テレパシーで魔物の幹部4人に伝令します!』
『エゼルは、あいつの苦手だったモノをいくつか知っているぞ。だから、足止めくらいはできるかもしれない!』
今は1分1秒が惜しい。魔物達はパワーレベリングでそれなりにステータスを上昇させているけれど、特級天使と接敵したら足止めすらできずに倒されてしまうのは確実だ。
幹部の4人と俺達3人なら、さっきの鑑定が正しければ足止めくらいはできそうだけれど――無策で直接相対するのは賢い選択とは言えない。
何かしら、特級天使の虚を付けるような工夫や作戦が欲しい。
ディルがテレパシーで魔物の幹部と交信している間に、俺はエゼルに問いかける。
『エゼル、あの特級天使が苦手なものって何? 教えて』
『ああ、いくつかあるが――あいつはゲジゲジとかムカデみたいに足が多い生き物が苦手だったんだ。視界に入るまでなら耐えることができるらしいが、体に飛びついてきて錯乱状態になったのを見たことがある』
エゼルの言葉に、一瞬だけ想像してしまって……うん、ちょっと鳥肌が立った。
ゲジゲジが得意な人は、少数派だと思うな。俺だって、ゲジゲジが体にとびかかってきたら、錯乱するかもしれない。
とはいえ、ゲジゲジの魔物はDPで取り寄せることができるから……正直、ちょっと嫌だけれど……ダンジョンに放してみよう。
『エゼル、他には何か良いアイディアがある?』
『まだまだたくさんあるぞ! あいつは、猫が嫌いだ! 猫の目が怖いって言っていたからな♪』
『それじゃ、猫の魔物も苦手なの?』
『ああ、倒せないことはないが、あまり得意じゃないって言っていた!』
猫系の魔物、要検討だな。
『ほかには、ピーマンとニンジンが苦手だって言っていたぞ?』
『……それは、なんというのか、子どもみたいな感じだね……』
ピーマンやニンジンの魔物はさすがにいないだろうし、現物のピーマンやニンジンを出しても、足止めにはならないだろう。
そんなことが無意識のうちに伝わってしまったのか、エゼルが唇を尖らせる(イメージをテレパシーで送ってきた)。
『むー、そのままじゃなくて、ピーマンやニンジンに割りばしの足をつけて、ゴーレムにしてもダメか? ほら、日本の「おぼん」には、きゅうりやナスのゴーレムが先祖の魂を乗せて霊界と行き来するんだろ?』
『よく知っているね? きゅうりが「早く帰ってきますように」という願いが掛かった馬で、なすが「ゆっくり帰ってください」という願いが掛かった牛なんだよ』
『そうなのか!? エゼル、ひとつ賢くなれたような気がするぞ!!』
嬉しそうな声でそう言ったエゼルだけれど――うん、なんだか、だんだん脱線してきたような? 俺達、今、緊急事態なはずなのに。そんな俺の思考をディル経由で覗いたのだろう、どやぁとした表情でエゼルがゆっくりと口を開いた。
『あとな、怖いものと言えば……エゼルはお茶がこわいぞ~(≡ω)♪』
うん、緊迫した状況の中、冗談を投げてきてくれるエゼルは……『ドラコンファンタジーの遊び人』ポジションだな。
張りつめすぎていた緊張感を緩めてくれるポジションの職業で――レベル20を超えて転職すると賢者になれる、あの重要な職業だ。
遊び人だらけのパーティーを作るっていう冒険をして、何度も全滅したのはいい思い出だよね……(Tω)b
(次の話へつづく)




