第67話:「壊れているのは、あなたの方でなくて?」
「ぎにゃぁ! 足がッ! 足がッ!」「し、痺れるね……コレはキツイ」
ビリビリする足のせいで、真っすぐに歩けない俺達。何というのか、正座に慣れる日が早くやって来てほしい。
……いや、慣れるには、いっぱい正座をしないといけないから――そんな日が来ないことの方が100倍も良いのかな?
――なんていうことを考えていたら、急にダンジョンに警報音が鳴り響いた。
「っ!? こんな朝っぱらから侵入者か(≡ω)!?」
「ディル、侵入者の姿をモニターに映して!」
「了解です!――侵入者、映します!」
そう言いながら、ディルが空中にモニターを表示させる。そこに映っていたのは、今まさにダンジョンの入り口から入ってこようとしている金髪の天使の姿だった。
「ぶにゃっ!? こ、こいつは……ヤバいぞ……」
そう言って、顔から表情と血の気を失って絶句するエゼル。
「この天使を知っているのか? エゼル?」
「そんなに不味い相手なんですか!?」
俺とディルの問いかけに、エゼルは小さく息を吸い込んでから言葉を発した。
「ああ、かなり不味いぞ? こうやって見ると、普通の下級天使くらいの迫力しか感じないが……こいつは――特級天使のクローバー・ウォーターだ」
「特級天使?」「――っ!? 本当ですかッ!?」
これは持っている情報の違いだろう。
頭にはてなを浮かべて聞き直した俺と、表情から一切の余裕が消し飛んだディル。
でも、ディルとエゼルの表情や態度から察するに、特級天使というのは相当に不味い相手なのかもしれない。
「水島おにーさんがピンと来ていないから説明するが……こいつは、簡単に言うなら『亜神』だ。世界最強かつ世界最凶であるダンジョンマスターと対をなす神々に、片足を突っ込んでいる存在と言える。――いや、こいつの場合は片足どころか両足が入っているから、ほぼほぼ神々と同等の力を持っていると思って良い。世界有数の大規模ダンジョンのDMとタイマンで勝ってしまえるようなヤバい奴なんだ」
エゼルの説明に、ディルが口を開いて補足する。
「エゼルさんが、レベル250のあの強さで中級天使だったんです。そんな中級天使の2ランク上、上級天使の1つ上の階級を持つ天使が特級天使なのです。世界に7人しかいない『神々の代理人』とも呼ばれていて、地上で大規模な災害や魔物の氾濫などが起こると空から現れて、問題を解決していく存在と言われています。……善良な普通の人間にとっては、まさしく神々の御使いなのですが……私ちゃん達ダンジョン関係者にとっては、死神よりも怖い存在なのです」
そこまで一気に言い切ると、小さく息を吸ってからディルが言葉を続ける。
「特級天使と出会ったらダンジョンを放棄して逃げろ。それが無理なら潔く散れ。――そんな風にダンジョン関係者の間で語り継がれるくらいの存在なのです」
「……それじゃ、ダンジョンを放棄して外に逃げる?」
半分冗談っぽく、半分真面目に聞いてみた。
でも、2人から返ってきた言葉には、とある種類の熱がこもっていた。
「まさか(≡ω)」「有り得ないですね♪」
自然と笑顔になっている2人の闘争心に、俺も思わず笑顔になる。
「そうでしょ? 相手が特級天使だろうが、俺達のダンジョンに入ってきたんだ。全力で相手をしてあげないとだよね?」
俺の言葉に、エゼルとディルがこくりと首を縦に振る。
ついさっきまでの不安や緊張と恐怖が入り混じった表情は消えて、すっかり覚悟と信念を固めた顔になっていた。
その直後、モニター越しに特級天使と視線がぶつかる。
じーっとこちらを見ている特級天使に、思わず苦笑をすると――苦笑を返されてしまった。
「っ!? あっち側から、エゼル達の方が見えているのかッ!?」
エゼルの大きな声に、モニター越しに天使がクスクスと笑い出す。
「久しぶりね、エゼル? あなたが堕天してしまったかもしれないって、とある人から教えてもらったからちょっと足を運んでみたのだけれど……本当に残念だわ♪」
「エゼルさん。この特級天使とは、エゼルさんも知り合いなのですか?」
「ああ。エゼルの育ての親ともいえる、いわゆる恩師だ。ここ最近――いや、ここ150年くらいは直接話すことも少なくなってしまったがな」
モニターから視線を外さないエゼルの呟くような小さな声。それはやっぱり、モニターの向こうにも届いているみたいだ。
なぜなら、返事が特級天使から返ってきたのだから。
「あら? 今でも恩師と言ってくれるの? 嬉しいわぁ」
作ったような笑顔でにこっと微笑むと、特級天使は言葉を続ける。
「お礼に、サクッと殺してあげるからね♪――堕天した天使は、生きている価値が無いどころか、世界の害悪でしかないのだから♪」
「……クローバー様」
何かを言いたげな表情だったけれど言葉を飲み込むエゼル。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「クローバー様、すみません。エゼルは、このダンジョンで生きていくと決めました。だから――全力でクローバー様と敵対します! その御命、エゼルが頂戴します!」
珍しく丁寧語を使うエゼル。でも、その瞳はとても真剣な色を宿していた。
「ふふっ♪ いい仲間を見つけたのね? おめでとう♪」
そう言って毒気の無い笑顔で微笑む特級天使。
でも――
「なんてことを言うとでも思った? まさか本気にしていないでしょうね? 私は、あなた達を殺してあげる。徹底的に追い詰めてあげる。指の先から少しずつ切り刻んで四肢を落としたら、顔もめちゃくちゃに切り刻んであげる。回復魔法をかけてまた切り刻んで、また回復魔法をかけて切り刻んで、切り刻んで、切り刻んで、切り刻んで……私に敵対したことを神に悔やみながら死なせてあげるの♪」
――その笑顔は擬態だった。
「壊れてる……」
思わず俺の口から零れた言葉。それに特級天使が喰いついた。
「あら、失礼ね? これでも、『神に一番近い、神々の御使い様』って呼ばれているのよ?」
モニター越しに俺に酷薄な視線を向けて、唇を歪めながら特級天使は言葉を続ける。
「壊れているのは、あなたの方でなくて?」
(次回に続く)




