第45話:「俺も、このダンジョンのみんなと仲良くなりたいな」
「ぼそっ(私は、私らしく生きるために、今を全力で戦うんだ!)」
そんな風に鹿島はるかが心に決めた日の夕方。
水島鮎名やバイオレッド・カンディル達のダンジョンでは、最深部に一番近いダンジョンの安全地帯で『水島おにーさん&エゼルさんの歓迎会♪』が賑やかに始まろうとしていた。
◇
「それでは、皆さん、準備は良いですか~? あっ、そっちの方、飲み物がまだですね! 急いでくださいね~(≡ω)ノシ」
テンション高めで、嬉しそうに魔物達に声を掛けているディル。
その横顔を視界に入れながら、俺とエゼルは泉のそばに作られた『主役席』に座っている。そして今日のメインディッシュとしての重要な役割として、とても良い笑顔を周囲に振りまいていた。
今の俺達がいる場所は、ダンジョン内の安全地帯に準備された屋外ステージ。
ダンジョン内の魔物達が全員集まれるのは、(防衛のために1時間区切りで幹部以外の魔物達が3回交代するとはいえ)ダンジョン内のフィールドしかなかった。
俺達の拠点であるログハウスもそれなりに広いのだけれど、一番広い部屋でも、せいぜい50人も入ったらぎゅうぎゅうになってしまう。
そこで、それなりに明るい光が有って、地面も短い芝生のような植物が生えていて、土埃や天井から水が落ちてくることが無い安全地帯が、立食パーティーの会場として選ばれたのだ。
もちろん、浅い階層の安全地帯ではなく、最奥に一番近い安全地帯を会場に選んだ。
新しく作ったダンジョンの出入口には、今まで以上に強力な隠蔽結界を張ってある。ダンジョン内も少なくない数の魔物が3交代制で防衛に回る。――とはいえ、宴会中に冒険者などの侵入者がこの安全地帯までやってきたら目も当てられないから。
もし、そんなことになったらダンジョン協会からのペナルティーも有りそうだし。
そういうわけで、今この会場には、ウチのダンジョンの3分の1の数の魔物達が集まっている。
歓迎会の直前に軽く自己紹介をしたけれど――ゴブリンのゴブさんとか、コボルトのボルトさんとか、スライムのスラちゃんとか、蝙蝠やネズミなどをまとめているサキュバスのサキ姐さんといった「魔物の幹部級のメンバー」も揃っている。
なお、ゴブさんとボルトさんは壮観な顔つきのヤ〇ザ系、スラちゃんは水色幼女で癒し系、サキ姐さんはお色気系と……うちのダンジョンの魔物幹部達は、個性的な人ばかり集まっている印象だ。
みんなディルの事が大好きで、ディルのためなら喜んで命を投げ出せるような人たちばかり。
もちろん、ディルの相方になる俺のことは――「「しっかりと見定めさせて欲しい」」「……(悪い人じゃなさそう)」「あらあら、うふふっ♪ 楽しみね~♪♪」――みたいな感じで概ね好印象で受け止めてもらえた。
でも、具体的に仲良くなっていくのは、この歓迎会が始まってからだろう。
もちろん、他の魔物達ともできるだけコミュニケーションを取るようにしていきたい。だって、俺達の命を預ける、大切な仲間なのだから。
そんなことを考えていると、会場の準備が終わったらしい。
俺が用意した拡声器を通して、ディルの元気な声が安全地帯に響き渡る。
「それでは、皆さん、飲み物は行き渡りましたか~?」
「「「は~い!」」」
元気の良い返事を聞いて、こくりとディルが首を縦に振る。
「え~、こほん。それでは私ちゃんことバイオレッド・カンディルが、乾杯の音頭を取らせて頂きます。――この度、おにーさんとエゼルさんが、私ちゃん達のダンジョンのDMとその補佐として仲間になりました。エゼルさんとは当初行き違いもありましたが、終わり良ければすべて良しです! これからのダンジョンの繁栄と私ちゃん達の素敵な出会いと未来を祝って――かんば~い!」
「「「かんぱーい!!」」」「乾杯なのだ(≡ω)y」「乾杯♪」
高々と木製のコップをかかげる者や、打ち合わせる者。
スライムやキラーバッド、キラーマウス達も小さなコップやチーズの欠片で祝ってくれている。
その容姿は魔物や魔獣のソレだけれど、俺の心は温かくなっていた。
そこに、隣に立っているエゼルが、はにかむような笑顔で言葉を掛けて来た。
「何だか、とっても嬉しいな、こういうの(≡ω)♪」
「そうだね、こうして見ると彼ら彼女らが、俺達の仲間なんだなって実感が持てるよ」
俺の言葉に、前を向いたまま嬉しそうな顔で、エゼルが小さな笑みを浮かべる。
「多分、ディルの人柄がこの温かさを生んでいるんだとエゼルは思うんだ。普通のダンジョンじゃ、ここまで魔物達がDCやDMの事を慕っていないからな」
「やっぱり、そうなんだ?」
「ああ。一部の幹部級の魔物に慕われているDCやDMは何人か見たことがあるが――下っ端と言ったら言葉が悪いが、『一般兵』にもここまで慕われているDCは珍しい、いや、1人もいなかったな……」
苦笑するエゼル。多分、彼女は俺達と出会うまでに、色々な世界を見て来たのだろう。そして多分、それはあまり楽しい思い出だとは言えなかったのかもしれない。
「それじゃ、俺達も頑張らないといけないね?」
色々な意味を込めた俺の言葉に、エゼルが俺の目を少し驚いたように見てから、こくりと頷いた。
「ああ、エゼルはみんなと仲良くなりたいぞ(≡ω)b」
視線を交わしたまま笑顔で頷くエゼル。
俺達の歓迎会は、まだ始まったばかりだ。
いっぱい食べて、いっぱい話して、いっぱい仲良くなろう♪
「俺も、このダンジョンのみんなと仲良くなりたいな」
(次回に続く)




