閑話:「おにーさんのこと、大好きですよっ♪」
――これは、私ちゃん達が異世界のお菓子を食べる少しだけ前のお話。
そう、勇者の鹿島さん達を、ダンジョンの外へ追い出した後の出来事なのです。
◇
私ちゃんはプンプンです!
そう、とってもとってもプンプンなのです。いや、別に鹿島さんを仲間に加えることには反対していませんよ? それに、妻仲間に加えるのも、どちらかと言えば賛成です。でも――
「「指切りげんまん、半年後に迎えに行くよ♪ 指切った♪ 迎えに行くよっ♪」」
――あまつさえ、そうあまつさえ……私ちゃんの目の前で、他の女とおにーさんが「いちゃいちゃ指切り」をするなんて――うらやましすぎて心が嫉妬で燃え尽きそうです。
ああ、もう、何ででしょう? こめかみと頬っぺたがピクピクして止まりません。
「ぅふふふふ♪ おにーさん、帰ってきたら分かっていますよねー(≡ω)♪」
黒い笑い声が――そう、おにーさんに聞かれたら幻滅されちゃいそうな声が――思わず口から零れてしまって気が付きました。私ちゃん、かなり頭にきているみたいです。
「ぅ~、でも、おにーさんに甘えすぎるのはよくないし……」
おにーさんには「自立した私ちゃんが好き」と、さっき言われてしまったのです。
時々甘えるのはOKらしいですけれど、毎日いつでもベタベタしているのは、おにーさん的には避けて欲しいみたいですから。
……私ちゃんは、おにーさんさえよければ一日中ベットの中でくっ付いているのが理想なのですけれどね……。朝起きたら隣におにーさんがいて、おはようって言ってくれて、『ばきゅーん! どきゅきゅーん! どっかーん!!』な一日を過ごしたいです♪
――あれ? 今、何か音が聞こえたような気がしますけど……気のせいですよね?
と・り・あ・え・ず、おにーさんが返ってきたら、正座してもらおうと思います。
そして、私ちゃんはその上にそっと乗って――ぎゅっとハグしてもらうのですよ♪ そうしたら、おにーさんのことをもっと好きになれると思いますから。
◇
拠点のログハウスに戻ってきたおにーさんを正座させて、その上に、深々と椅子に腰かけるように私ちゃんは座りました。背中越しに、おにーさんの温かさを感じてしまいます。
「……ディル、どうしたの?」
戸惑うようなおにーさんの声が耳元で聞こえますが、私ちゃんには聞こえません!
おにーさんの頼もしい右手と左手を順番に取ってから、ベルトを締めるように私ちゃんのお腹の前で交差させます。もちろん、私ちゃんの手は、おにーさんの両手と重なっていますよ?
「ディル、ありがとう」
そう言って、おにーさんがそっと腕に力を込めました。
私ちゃんの心臓が、ドキドキして喜んでいるのが分かってしまうのです。
「おにーさんなんて知りません! おにーさんはやり過ぎたのです!!」
思わず素直じゃない言葉が出てしまって、ちょこっと後悔してしまう私ちゃんがいました。
でも――
「そうなの? 俺は、ディルのことを知っているよ? だから俺のことも、何度でも何回でも、ディルに知って欲しいな」
――おにーさんはやっぱり、私ちゃんのことを分かってくれています。私ちゃんが欲しい言葉をいつも口にしてくれるのです(///ω)♪
「……おにーさんの一番は、私ちゃんですからね?」
ちょっと俯きながら、独占する言葉を口にしてしまいました。今の私ちゃんの顔、おにーさんには見られたくない……だって、多分、泣きそうな顔をしているはずですから。
わがままを言っちゃいけないって分かっているのに、ソレを言わないと安心できない私ちゃんがいます。おにーさんを試して、安心したい&許してもらいたいって思ってしまう私ちゃんがいます。
私ちゃんのわがままは、私ちゃんの依存心の現れだと自分でも分かっているのに。
ああ、私ちゃんの醜い心が、おにーさんには伝わりませんよuni――
「俺、ディルに振り回されるの、嫌いじゃないよ?」
一瞬で血の気が引きました。私ちゃんが考えていたことが、おにーさんにも伝わっていたのですか!?
「……私ちゃん、口に出していましたか?」
声が震えているのが分かります。動揺しているのは隠したいのですが、表情は見えていないはずなので、声さえどうにかすれば大丈夫だったはずなのですが――声の震えは収まらないのです。
「ううん、でも何となく、ディルが落ち込んでいるのは分かってしまったよ。ごめんね、鹿島さんのことで不安にさせたよね?」
おにーさんの優しい言葉に、私ちゃんは首を横に振る。
「……アレは、私ちゃんも鹿島さんをこっちの陣営に取り込むのに賛成しましたから大丈夫です。異世界の勇者の力は、このダンジョンの力にもなります。そして、女性を取り込むのなら、可能な限り恋愛感情や婚姻で絆を結ぶのが色々な意味で効果的だと思います」
そんな強がった私ちゃんの言葉に、おにーさんがゆっくりと私ちゃんを抱きしめる腕に力を入れた。
「……ディル、指摘するか悩んだんだけれど、今、早口になったよね? そんな時のディルは、いつも無理をしている顔をしてるんだ」
「――ッ!?」
自分でも気づいていなかったクセ。
それを指摘されて、言い逃れができなくて、心臓の鼓動が早くなっていきます。全身から汗が噴き出してきます。
でも、「それだけ私のことを、おにーさんが見てくれている」って分かってしまったから、気付くことができたから。不思議だけれど、さっきまでの沈んでいた気持ちが、少しずつ晴れていきます。
「……おにーさん、女の子が秘密にしていることを指摘するのは、紳士的じゃないですよ?」
自分の顔が熱くなるのを感じながら、ちょっと冗談っぽく、強がって言ってみました。
「それはいけないね、俺、ディルの前では紳士でいたいから」
「ふふっ♪ 期待しています!」
何だか、さっきまでの沈んでいた気持ちが嘘のようです。思わず笑顔になってしまいました。
そんな私ちゃんの様子を見ていたのでしょう、ずっとひとりで大人しくお茶を飲んでいたエゼルさんが、私ちゃん達に声を掛けてきました。
「なぁ、もうそろそろ良いか? エゼルは待ちくたびれたぞ(≡ω)ノ」
そして、エゼルさんが言葉を続けます。
「水島おにーさんとディルのやり取りを傍から見ていると、エゼルは砂糖を思いっきり吐けそうだ。これからお菓子を食べるって言うのに……もうすでに胸焼けしそうなんだぞ?」
そう言って、ニヤニヤしているケモ耳天使さん。ちょっと、恥ずかしいです。
「あ、ははっ……ごめんなさいです(///ω)」
「まぁ、ディルと水島おにーさんの仲が良いことは、とっても良いことだ♪ 何って言ったって、エゼルは『二番目』だからな♪ この地位は、今後に続く誰にも譲らないッ(≡ω)b」
そんなことを言うエゼルさんに、ふと疑問を感じました。
「……つまり、3番目や4番目が今後出てくると?」
思わず冷たい声になっていました。私ちゃんの背中越しに、おにーさんがビクリッと反応したのが分かっちゃいます。
「そりゃそうだろ? 鹿島さんが3番目で、その次に出会った可愛い女の子が4番目だ♪ 水島おにーさんは美少女に弱いからな♪」
「……エゼル? それはちょっと違うよ?」
「――と、水島おにーさんは言っているが、今のところエゼルも入れて100%だからな? しかも、敵対するような相手ですら、落として見せる『やんちゃなところ』がある、困ったさんだ」
「……確かに、おにーさんはそうですよね! もうちょっと、このまま正座を続けましょう!」
「え? ディル、それはちょっと――「言い訳は無用です。お仕置きが必要なのですよ♪」」
小さくため息をついたおにーさん。
これは、ちょっとお仕置きが必要ですね?
「ディル? 足がしびれてkita――ぐあぁぁッ!!」
「ふっふっふ~♪ あら、私ちゃんは体重移動しただけですが、どうかしましたか?」
そう、しびれている足の上で、ぐりぐりするように移動しただけです♪
「ディル……ちょっと、お腹が黒いんじゃない?」
「そんなことを言う、悪いおにーさんは、こうです!」
「ぅぁぁ!!」
ふふっ、思わず笑顔になってしまいます。
本当はいけないんだけれど、こういうことにちゃんと付き合ってくれるおにーさんは優しいから。私ちゃんのことを大切にしてくれると感じてしまうのです。
「ディル、楽しそうに笑わないの! 今、結構、非道いことしているからね!?」
「そうですか? 私ちゃんは、おにーさんのこと、大好きですよ♪」
「本当に?」
「ええ、本当に本当です! 私ちゃんは、おにーさんのこと、大好きですよっ♪」
そう言って、私ちゃんはもう一度、体重移動をしてみました。
んふふっ♪ おにーさんの泣き声が、とってもとっても可愛いです♪




