第19話:「侵入者は――騎士が3名と女勇者だとっ!?」
『異世界からやって来る人間は、魔王やDMを倒す「勇者」じゃないのか!? 勇者がDMやっているなんて、おかしいだろ!?』
大絶叫したエゼル。正直、頭の中にガンガン響くから、ちょっとキツイ。
『エゼルさん、うるさいですよぉ~! 普通のボリュームで話してくださいませんか??』
『あ、すまん、悪かった。――でも、なんで勇者になるはずの水島おにーさんがDMをやっているんだ(≡ω)?』
心の底から不思議そうな雰囲気を醸し出しているエゼルのテレパシーに、ドヤぁとした雰囲気のディルのテレパシーが返ってくる。
『むっふ~♪ それは私ちゃんが頑張ったからです!! 過去の人間や魔族の国が異世界の人を召喚できるのなら、DCの私ちゃんにできないことはないと考えたのです!』
そんなディルの言葉に、小さなため息をエゼルがこぼした。
『……それ、普通はできないからな? 知っているか? 人間の国や魔族の国は、100年単位で魔力を集めて異世界召喚するし――天界なんて、過去に1度も異世界の人間を召喚できなくて、なんか変にへそを曲げて「異世界召喚は邪法だ!!」とか言っているからな?』
『そうなんですか? 私ちゃん、15万DPでおにーさんを一発召喚できちゃいましたけれど?』
『……それ、あり得ないぞ……天界が聞いたら発狂するかもしれないし(Tω)!』
『そうなんですか? いや、でも、おにーさんの召喚は案外簡単でしたよ?――あっ、分かりました!』
今、思い付いたというような声をあげたディルのテレパシー。
『これが愛の力ってやつですね(///ω)♪ 愛があるから乗り越えられたのですっ♪』
『『……そうだな』』
色々な意味で盲目なディルの前で「違うと思う」なんて絶対に言えない。下手したら、光り物という意味で身の危険すら感じるだろう。
だから、俺とエゼルは生暖かい肯定の言葉をディルに送った。
――っていうか、さらっとこの話題について俺は置き去りにされていたけれど、2人に聞いておきたいことがある。
『エゼル、聞きたいことがあるんだけれど良いかな?』
『ん、何だ? 良いぞ?』
『ありがとう。まずはちょっと気になったんだけれど、さっきお弁当とかおにぎりとかを食べた時に、俺が別の世界の人間だってエゼルは思わなかったの?』
最初に確認したかった俺の疑問に対して、エゼルはフルフルと首を横に振る。――イメージがテレパシーで送られて来た。
元々テレパシーは相手の表情が見えないから不便だったけれど、このイメージを送る「エゼル方式」を使えばコミュニケーションがもっと楽になると思う。……何気に器用なんだよな、エゼルは。俺もこの方法を採用させてもらおう。
『水島おにーさん、何か別の事を考えているみたいだが、説明を始めても良いか?』
『あ、ごめん、良いよ? 俺が異世界の人間だって、エゼルは気付かなかったんだよね?』
『そうだ。あの時は、おなかが空いていて細かいことは気にしていられなかったし――そもそも、お弁当の異様に薄くて軽い容器や、おにぎりを包んでいる透明な皮は「エゼルが知らない別大陸の新しい技術だろうな~」って思っていたぞ?』
『なるほどね。でも、エゼルがそう言うってことは――俺が出したお弁当のような薄い容器を作ったり、透明なラッピングを作る技術は、この世界にもあるの?』
『ん~、有るかもしれないし、無いかもしれない。なぜなら、お弁当にもおにぎりにも「米」が入っていたから、水島おにーさんのことは「東方連邦」の人間かと思ったんだ。あそこなら、独自の技術が進んでいるから、似たようなものが発明されているかもしれないし――ってエゼルは、少なくとも思ったな。それに、このペットボトルって容器? これ、ガラス製なら似たようなのが東方連邦で売られているぞ? この、蓋を開け閉めできる構造が、かなり似ている(≡ω)』
そう言って、ペットボトルのキャップを指さす(イメージを送ってくる)エゼル。
『そうなんだ、色々と聞きたいことはあるけれど、その「東方連邦」は興味があるな……。でも、ガラス製のペットボトル容器があるって、過去の転移者が頑張ったのかな?』
『だと思う。今になって考えてみると、この容器に書かれている言語をエゼルは見たことがないから、東方連邦から取り寄せた食品じゃないって分かりそうなものだけれどな♪』
『そっか、東方連邦で使われている言葉は、少なくともこのパッケージに使われている言葉じゃないんだね、了解。――あ、他にもエゼルに聞きたいことがあるんだけれど良いかな?』
『もちろんだ♪ 何でも、エゼルに聞いてくれ(≡ω)b』
キリっとした表情のエゼル。(のイメージが送られてくる。……っていうか、毎回コレを入れるのは大変だから以下、良い感じに省略)
『ありがとう。それじゃ質問だけれど、異世界召喚された人間って、勇者になることが確定しているの? あと、勇者って誰が認定するの?』
『ん、勇者についての質問か?……そうだな、異世界召喚された人間って色々と特殊な力や知識を持っているし、国や組織単位の存在が召喚することから、ほぼすべての異世界人は勇者に認定されていると思うぞ? ちなみに、勇者と認定するのは国や組織が多い。時々、108柱の神々の神託で勇者認定される者もいるが、それは異世界人以外の、この世界で生まれた人間であることが多いな』
そこまで言うと、エゼルは一度テレパシーを区切って一呼吸置く。そして、ゆっくりと続きを口にした。
『――とは言っても、神々の勇者認定は100年に2~3人以下だし、国や組織の勇者認定も似たようなものだ。あと、重要なことだが、国や組織が公表していない異世界人も歴史上では多少いるみたいだな。勇者に不適格とされて殺されたり、そんな状況から逃げ出してひっそりと暮らしていたり、隠し戦力として戦争用に囲われていたり。――まぁ、あまり気持ちのいい理由ではないが、そういう例外もいなくはない』
まぁ、ありていに言うなら、勇者とは「国や組織の戦力」とか「扱いやすい神輿」とか「看板&広告棟」というような表現が似合っているのだろう。異世界の知識や多少のチートは持っているのだろうけれど、個人が国や組織に表立って対立することは難しい。
直接的な武力なり、色仕掛けなりの搦め手で懐柔したりされると、もうアウトだろう。『勇者』認定して、動かしているのが透けて見える。
『ありがとう。なんとなく、この世界での勇者が置かれている立場が分かったよ。それと……俺、ディルに召喚されてよかった』
心の底から、これは本気で思っている。
召喚されて、いきなり武装された騎士団とかに取り囲まれていたら……「誘拐ですよね?」なんて口にする余裕は絶対になかっただろうから。
そんなことを考えていると、ディルから、ご機嫌そうなテレパシーが飛んできた。
『おにーさん、私ちゃんの方こそ、ありがとうございます(///ω)♪』
『ううん、俺の方こそディルに感謝しているよ。ありがとう』
『(///ω) はいっ♪』
うん、ディルのこういう所、可愛くて好きだ。時々、ヤンデレっぽくなるけれど、基本的には素直な子だし。
『ところで、ディルに聞いておきたいことがあるんだけれど良いかな?』
『はい、良いですよ?』
『えっと、ディルは、どうやって異世界召喚の知識を得られたの? 人間や魔族の国じゃ100年単位の国家事業みたいだし、天界に至っては邪法指定しちゃうくらい難しい方法なんだよね? 冥界では、割と一般的な技術なのかな?』
俺の言葉に、ディルが首を横に振る。
『えっと、一般的かというと、それは違うと思いますね。冥界では「まゆつば」とか「コレで異世界人を召喚できるなら、召喚してみろ!!」なんて言われているトンデモな欠陥魔法なんですけれど……私ちゃんがオリジナルに改良したらおにーさんを召喚できちゃいましたので♪』
『魔法の改良?』
『はいっ♪ DCの召喚能力の中に、ランダム召喚っていう「世の中の物質を召喚する魔法」があるのですが、その魔法のランダム性と召喚部分のコードを分離して、欠陥異世界人召喚魔法に移植、さらに私ちゃん独自のアレンジを加えて――って、もっと詳しく説明した方がいいですか? 長くなりますけれど……』
『……いや、今はいいかな、後で時間があったら教えてほしい。ダンジョン運営の応用にも使えるかもしれないから』
『了解しました。それじゃ、3行でまとめます。「ランダム召喚魔法を分解」「ランダム性を決める乱数を調整」「再構成して、私ちゃんの大好きなおにーさんを召喚した魔法が完成&無事発動♪」です!』
何というのか、さらっと甘えてくるのはディルの中ではデフォなのだろうか? 可愛いけれど――って、話がずれそうだから、今は横に置いておこう。でも、多分というか確実にこの子は、天才なんだと思う。
普段はちょっと抜けているっぽいけれど、「DP獲得にこうもりを使うこと」や「キシ〇トールをキーワード検索する時のさりげないサポート」とかから判断するに、そうそう間違ってはいないと思う。
魔法を再構築すると言った瞬間から「ずっとエゼルが固まりっぱなし」になっている事からも、魔法を再構築できるディルが半端なくすごい実力を持っているのが予想できる。
多分、他のDCは異世界召喚は出来ないのだろうし、魔法の再構築さえも難しいのだろう。
『ディルが味方で頼もしいよ』
俺の言葉に、エゼルも再起動してテレパシーを飛ばしてくる。
『本当、ディルには驚かされるな。後で、魔法の再構築について教えてくれ(≡ω)b』
どこか嬉しそうなエゼルの言葉に、ディルが若干照れたような顔をする。
『えへへっ♪ 了解でs――(ビーーーーーーービー――――ビー――――!!)――ッ!? ダンジョンに侵入者です!!』
慌てたようなディルのテレパシーと同時に、作戦室の巨大モニターに侵入者の姿が映る。
っていうか、作戦室の正面にモニターがあるせいで、背中合わせになる俺達は3人ともモニターから目を外していた。思考を加速させた状態なのに、3人とも侵入者に気付かないなんて、間抜けすぎる。後で絶対に室内レイアウトの変更が必要だ。
『侵入者の情報、入りました。テトラ王国の騎士が3名と……』
そこでディルが絶句する。自然と俺とエゼルの視線は、モニターに向けられることになる。
モニターに映っているのは、いかにも中世ヨーロッパな雰囲気の銀色の甲冑を身に付けている男性騎士2名と女性騎士1名。さらに彼らの中央で守られているように見える、魔法使いのようなローブを身にまとった16歳くらいの女の子。
そして、ダンジョンの機能による「詳細な鑑定値」が表示されたモニターに目線を向けると――驚きの情報が並んでいた。
エゼルがあり得ないと言った雰囲気で声をもらす。
『侵入者は――騎士が3名と女勇者だとっ!? なんで隠蔽結界が張られたダンジョンに、こいつらが入って来れるんだ!?』
(次回に続く)




