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知識の弊害

2話連続投稿の1話目です。

 八尾比丘尼騒動


 アラマドはお世辞にも二枚目とは言えない、良くて悪役から一歩上へ進んだ個性派俳優というところか。

 その『なんでも取り扱ってそう』な外見を活かして、威圧し、宥め、時におだてながら、相手の本質を引き出す。相手を手の平の上で転がす事にも手慣れている。


 今は、秘書さんも話しに加わって、互助会主催の事務や武術等の各種講座の日程や、何かアイデアを思い付いた時に、実用化へのアドバイスの受け方、既にそのアイデアが実用化されていても、市場に食い込む可能性や方法が有るかを窓口で確認する仕方等、細かに説明している。


 互助会の積立金制度と、そこから融資を受ける際の申請書類の書き方まで一通り説明を受け、一息入れることになった。


「お前さん、八尾比丘尼って知ってるかい?」

 秘書さんが煎れてくれたお茶を、物足りなそうに飲みながら、互助会会長が話しを振る。

 鏡を見るのは止めてくれ。

「あ、はい、人魚の肉を食べて不老不死になった尼さんのことですよね。」

 少し違う、不老不死になってしまったから、気味悪がられて故郷を追われ、尼になったんだ。


「そうだ、その話しを『こっち』でしゃべっちまった馬鹿野郎がいたんだよ」

「はあ、それが?」

「まあ本人達は酒の肴にネタにしていただけだし、水棲人の血肉では不老不死になんかならねえって、オチまで付けたのに、場所が酒場だったせいで、周囲の酔っ払い共が大事な部分を聞き逃して、『人魚の肉が不老不死の妙薬』って、噂だけが世間を一人歩きしちまったんだよ。物は試しで実行に移そうとした馬鹿野郎がいてな。」

 噂を流した転生者のせい、ひいては互助会のせいだと抗議の矢面に立たされた。他にも狼男伝説が獣人差別につながったと言われたこともある。


 だからお前も発言には気をつけろ、と続けるはずだったのだが。

 苦々しげな会長に対し、ザワルがオカシナ事を言い出した。


「つまり、儲け話を横取りされたんですね。」

 ん?

「あぁ?なんだって?」

「いや、だから、知識だけをタダ取りされるなよって話しでしょ?」

「俺は、今、人魚の血肉(そんなもん)が、不老不死の妙薬になんかならねえって言ったよな。なんでそれが儲け話だ?」

「不老不死の効果が実感出来るのは、5~10年じゃあ無理でしょう?その頃までに行方をくらましちゃえば良いんですよ。」

 それを世間一般では詐欺と言う。

 ついでに、『不老』はともかく『不死』はすぐに薬効を確かめられるぞ、詐欺師本人に試食させた後、首でも落とせば良い。


「それに、コッチの世界には治癒術が有るじゃないですか、一()丸ごと食べなきゃ効かない訳じゃ無いのなら、傷を治しながら血と肉を提供し続ければ、沢山の人からお金を集められます。」

 ベニスの商人かよ、死ななきゃ良いってもんじゃない、コイツは自分の計画の実態が虐待だと全く自覚が無い。


 どや顔で言い切った途端、アマラドの拳がザワルの頭に振り降ろされた。

「そしてお前さんは立派な犯罪者か?水棲“人”は人だ、誘拐と監禁、人魚から肉を切り取って傷害、ついでに詐欺。こっちの官憲ナメんじゃねえぞ、互助会(うち)を巻き添えにするんじゃねえ!」

 一人が行った犯罪で、互助会(転生者)全体が白い目で見られる。


 よく、ペットとして新しく犬や猫を家族に加えると、ペットは自分の序列を下から二番目に位置付けようとして、一番幼い子供の言う事だけ聞かなかったり攻撃的になったりする。

 それと似たような感じで、下流層の人間は見たことも無ければ、どんな暮らしぶりかも知らない他種族を、何の根拠も無く差別する。

『自分よりもまだ下の奴がいる』と思える相手を求め安心したいのか。


「良いか良く聞け、余計な差別意識は商売の邪魔だ!」

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