十八話
「怪しいところはどこにもないと言うのか
あいつらが言う通りの旅行だと言いたいのか、お前は?」
傲岸不遜に座る主人を前に冷や汗をかきながらも、裏を取りまとめることを命じられている執事は「はい」と呟く。
「だが、噂によれば私に手が差し迫ってると
証拠も揃えられてると
まさかと思うが私を見張りに
いや、しかし宰相が直々に来るはずが
それに女連れとは考えられない。」
荒れる主人に執事は肩を揺らし、ただ見守るしかない。
「女の方はもう良い。
それより、宰相にいまより倍の監視を置け
小さな動きも見逃すな
見逃せばお前の大切なものが消えるぞ」
恫喝に青ざめながら頷き、一歩退き一礼した。
「お、仰せのままに、ハルバート様」
和やかに始まる宴を静かに席に座り、私は宰相閣下と子爵の会話を聞いていた。
「国益のため日々働いて下さる子爵には私を含め多くの者が感謝しているのですよ。
陛下に至っては賛辞をと考えているのですよ。」
「それはもったいないお言葉、私はただ父から受け継いでばかりでなにも」
腹の探りあいとはこの事だろう。
子爵は宰相様に任せて他はないだろうか?
気付かれない程度に視線を配る
壁に待機するもの達も対象だ。
?なにかおかしい気がする。
漠然とした気分でなお見ていれば
そうか、この屋敷は女性が少ないんだ。
ここにいるメイドは一人、ミーシャの世話をするメイドのみ
なぜ、姿をみないのだろうか?
これ程の屋敷で、メイドの数が少ないのはおかしすぎである。
最低でも、30人はいなければ
男性がその仕事を代わりにしてる可能性はあるが
「お食事はお口にお合いしましたか」
「美味しく頂いておりますわ。
子爵様の料理人は腕がよろしいんですのね」
突然掛けられた声に子爵に顔を向け、うっとりとした声で答える。
「そうでございますか。
アリー様が大層誉めていたことを料理人に伝えておきましょう。
王都の貴婦人に気に入られるとは」
満更でもない様子にもう一押しとばかりに
「子爵様は美食家でいらっしゃるのですね」
子爵を誉めちぎる。
そして相好を崩した子爵に素知らぬふりで回りを見渡して
困ったように首を傾げる。
「ところで、子爵様?
メイドは居ませんの?なんだか男性ばかりで私、少々心細くてなりませんの」
喪に服す女性は貞淑で有らねばならない。
しかも亡くしたばかりでは
なおにそれを求められるため回りに男性が多いのはよくないのだ。
「なんと、それは気が回らず申し訳ありません。
実はメイド達の大半が別館にいらっしゃる母上の元にいるのです。
突然、母上は父上が亡くなりそれは深い悲しみようで
メイド達に慰めるようにとあれこれとさせてる次第でございます。」
申し訳なさそうな、寂しげに微笑みで答える子爵
「まぁ、私ったら失礼なことを」
「子爵殿、前子爵夫人にご挨拶に伺っても?
もしかしたら、アリー殿の力になってくれるやもしれないのです。
同じく夫を亡くした者同士で」
横から援護するように今までミーシャ達の会話を聞いていたレイが、申し出る。
子爵はそれにレイには見えなかっただろうが、一瞬険しい表情を見せた
が、次の瞬間には笑顔で快く頷き返した。
「私からもお願い致したい。
もう一年経ちました。母上には笑顔でいて欲しいのです。
すぐに渡りをつけますので、恐らく明日の午後には会えるように致しましょう。」
「よろしくお願いいたしますわ」
こうして、前子爵夫人との面会を取り付けたのだった。