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「俺が久乃に何かしたかだって?それ知ってどうするつもりなの?俺に何があって、俺がどんな気持ちで、そうして久乃に何かしたって、そこまで考えてここ来たわけ?」
それは。
安易に、何かひどい事言って、それを聞き出して、そうして責めて、久乃ちゃんが傷付いてるって気付かせたくて。
それは何て――――一方的な、自己満足。
「どうしていつだっていつだって久乃久乃久乃もう十分だ!あんたらにとっての一番が久乃でも構わないが俺にまでそれを求めんな!」
紅君、ごめん。それでも、君は。
「紅君、久乃ちゃんの所、行ってあげて」
「だからっ…!」
「ごめん!わたしは!」
偀の剣幕に、芯久は思わず黙る。伝う涙。一瞬魅せられる。
「わたしは何もわかってなかった。紅君の気持ちも久乃ちゃんの気持ちも。勝手に自分の気持ちと重ねてた」
「自分、の」
「病院生活って、楽に見えちゃうんだよね、実際より」
「…宮野は骨折か何かだろ。久乃とは違う」
久乃の方がもっと辛い、そんな風に苦しみを比べるわけではない。
けれど同じ環境にいたからといって同じ状況と勘違いして久乃と気持ちを重ねるなど畑違いもいいところだ。
クス、と偀は笑った。
「勘違いしてない?事故って確かに交通事故だけど入院した理由は別に骨折じゃないよ。こっち」
トントンと偀は軽くお腹をたたく。
「内臓、やられちゃってたの。リハビリもそっち系の」
芯久は絶句した。
あんたに何がわかるんだよ!俺の気持ち考えてたわけ?
そう言ったのは、ほんの数分前。自らの口で。
分かったつもりになっていたのは―――俺の方だ。
「だからつい久乃ちゃんに同調…ううん、こんなのただの同情か。よき理解者ぶって。偽善者だな」
「宮野…」
「謝んないでいいよ」
ごめん、という言葉を飲み込む。
「だって私本当に紅君の気持ち考えてなかったもん。同じように入院してる久乃ちゃんの事ばっかで」
「…久乃」
俺、あいつに・・・。
今なら八つ当たりだったとわかる。
「俺っ…!」
言葉よりも心よりも足が先に動いた。
無我夢中で病院へ走った。ロビーをぬけて階段を突っ切る。エレベーターで待つ時間も惜しい。
「すみません、院内では静かにお願いします」
途中で看護婦に怒られ早歩きに変える。どっちにしろゆっくりなんて出来ない。
「久乃っ…!」
病室の扉を開けてベットを覗きこむ。久乃は寝ていた。
「久乃…」
脱力して、椅子に座り込んだ。
「久乃…」
ごめん。
ありがとう。
何を、言えばいい。
「久乃…」
声がかすれる。視界がゆがむ。
「久乃、大好きだよ…」
届かない声が、病室に響いた。
面会時間が過ぎて後ろ髪がひかれる思いで病室を出た。雨が降っていたが当然傘はなく濡れながら帰った。
翌日。
久乃が死んだ。
信じたくなくて、信じきれなくて、家を飛び出して。ふっかけられるままに喧嘩をかって頭をからっぽにするためにところ構わず走りまくった。




