第26話 溢れ出る難民と、山賊の砦(その5)
正面からの「突撃ぁーーっ!!」というラージたちの雄叫びと、物見櫓の山賊が「敵襲ーーっ!?」と叫ぶ混乱に乗じて、ロッシュはハシゴをつかみ、そーっと物見櫓を昇り始めた。
(よ、よし……見つかってない……!)
しかし、緊張と焦りから足元が狂い、ステップを踏み外してしまう。
「あっ――」
思わず漏れた小さな声に、上にいた山賊が即座に反応した。
「誰だ! ……むっ! 貴様っ……!」
ハシゴの途中で固まるロッシュを見下ろし、山賊は弓に矢を番えて狙いを定める。距離はわずか数メートル。回避も魔法も間に合わない。
(終わった……俺の人生、ここで幕引きか……)
ロッシュが半目になって死を覚悟した、まさにその瞬間であった。
――ズドンッ!!
「ロッちゃん! アタシが1位ね!」
地面から一直線に垂直跳びしたテンペスタが、可憐な見た目からは想像もつかない凄まじい脚力で山賊の顔面に完璧なドロップキックをかました。山賊はそのまま吹っ飛び、雲の彼方へ消えていった。
「お、おお……助かった……」
生きた心地がしなかったロッシュも、なんとか這うようにして物見櫓の上に到達した。
「こ、この銅鑼だな……!」
息を整える間もなく、ロッシュは壁にかかっていた巨大な木槌を手に取り、無我夢中で銅鑼をぶ叩いた。
――ジャーン! ジャーン! ジャーン!!
山々に響き渡る爆音の合図。
砦の中にいた山賊たちは一斉に頭を抱え、パニックに陥った。
「な、なんだ!? 背後からも敵の援軍か!?」
櫓の上からその光景を見下ろし、ロッシュは胸を撫で下ろす。
「よし! 作戦成功だ! 後は山賊を倒して――」
言いかけた瞬間、横にいたテンペスタが「わーい!」と声を上げ、物見櫓から中庭の山賊の群れへとダイブしていった。
無邪気な笑顔のまま、猛烈なスピードで山賊たちを片端から蹴り飛ばしていくテンペスタ。
だがその時、砦の奥にある広大な小屋の扉がバタンと開いた。
「おいおい! なんだこの騒ぎは!?合図は!?」
「チッ!作戦失敗か!ぶち殺してやるぜ!」
武器を手にした山賊が、中から一挙に20人も湧き出てきたのだ。正面から突入していたラージが目を見開く。
「マジかよっ!? 隠れていやがったのか!?」
挟み撃ちどころか、圧倒的な数の暴力で囲まれそうになったその時――上空から空を切り裂くような翼音が降り注いだ。
――ピギャアァァァァァッ!!
巨大な翼と嘴を持つ、プテラノドンのような恐ろしい姿をした数多の飛行魔物の大群が、雲を突き破って飛来したのだ。
飛行魔物たちはテンペスタの指先ひとつで急降下し、牙と爪で山賊たちに襲いかかる。
「ヒ、ヒギャアァァァっ!?」
「空からバケモノが――あぁぁぁっ!?」
山賊たちの悲鳴が木霊し、一人、また一人と瞬く間に倒れていく。
ほんの数十秒の間に、全ての山賊が生きたえ――さらに、その死体は一体残らず飛行魔物たちが足で掴み、上空へと持ち去っていった。
血痕ひとつ残らない、完璧すぎる現場の消滅。
「あはっ、あの子達、ご飯が手に入って喜んでるー!」
テンペスタが満足そうに手を振る中、グラニート山の山賊砦はあっけなく攻略完了となった。
正面で武器を構えたまま固まっていた冒険者たちのうち、事情を知るラージとエル以外のメンバーは、震える声で互いに顔を見合わせ始めた。
「す、すごすぎる……! これがギルド長が隠していた真の思惑か……!」
「ロッシュ隊長が、この日のために完璧な電撃急襲作戦を用意していたんだ……! 敵の潜伏場所も、空からの全滅処理も、全部計算通りだったんだよ……!」
感極まった冒険者たちがロッシュに崇拝の眼差しを向ける中、物見櫓の下からテンペスタが元気に手を振った。
「ロッちゃん! 終わったよー!楽しかったー!」
櫓の上で木槌を持ったまま、ロッシュはただただ呆然と「どうしてこうなった……」と天を仰ぐのだった。
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