第22話 火山地帯の狂気と、豪華すぎる開拓作業
――魔物すら寄り付かない、極限の高温地帯。
大地はドス赤く裂け、どこを見渡してもドロドロとした溶岩が川のように流れ出ている。立ち上る硫黄の匂いと灼熱の熱気は、生身の人間であれば数秒のうちに全身が黒焦げになって絶命するほどの死の世界であった。
そんな地獄のような火山地帯を、北の勇者を先頭に四人の影が足早に進んでいた。
「ハァ……ハァ……っ! なぁ賢者さんよぉ……アンタも最初は反対してただろ……っ!?」
「そうよ……! 賢者のバリア魔法があるとはいえ、このままじゃ危険だわ……!」
額から滝のような汗を流し、激しい息切れを起こしながら悲鳴を上げるのは、男戦士と女僧侶だ。賢者の高度な防護魔法によってなんとか熱気を遮断しているものの、一歩間違えれば命はない。
二人の泣き言を聞きながら、銀髪の青年――賢者は、細い目をさらに細めて冷静に返した。
「ええ、最初は反対しました。ですが、私は彼に賭け、この身を投じました。……ならば、彼の作戦の成功に全力を注ぐまでです」
「だからって……っ!」
「……それに……本当に『それ』が実在するかどうかは、私にも分かりません」
「それなら! こんな危険な場所まで命の危険を冒して来る必要なんてねぇだろ……っ!?」
戦士が怒声を上げた、その時だった。
「……もうすぐ、目的の場所です」
賢者が足を止めると、最前線を歩いていた北の勇者がゆっくりと振り向いた。
その瞳には、狂気と野心に満ち満ちた怪しい光が宿っていた。
「……フフフフ、感じるぞ。感じるぞ賢者。『それ』はここに、必ず有る……!!」
メラメラと炎が燃え盛る火口の奥を見つめ、勇者は不敵な笑みを深く刻むのだった。
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一方、その頃。
かつてロッシュが「ただの沢があってイノシシも獲れる良い場所」として提案した、シルヴァ部族の開墾地――のちの『黄金の森の村』。
昨日までの栄養失調でガリガリだった難民たちは、ロッシュが振る舞った魚と魔王の庇護によって息を吹き返し、必死に開拓作業を進めていた。
……だが、その作業現場には、妙に張りつめたようなピリついた空気が漂っていた。
「おい……あれって……」
「バカッ! 見るな! 目を合わせるなっ!」
「軍師様に触れて機嫌でも損ねたら、俺たちは一瞬で消し炭だぞ……!」
「し、自然だ! 自然に振る舞え! いいな!」
物陰からヒソヒソと怯えたように視線を送る村人たち。
村を取り囲む防護用の木の壁作りに励んでいたラージが、木材を担ぎ上げながら怪訝そうに眉をひそめた。
「なぁロッシュ、ここの村人……なんかさっきからコソコソ話ばっかりしてねぇか?」
「たしかに、ちょっと感じ悪いわね。せっかく手伝いに来てあげてるのに」
エルも不満そうに汗を拭うが、丸太の先端をロープで縛っていたロッシュは、苦笑いを浮かべて首を振った。
「仕方ないさ。彼らは数ヶ月も流民として追われて、凄惨な体験をしてきたんだから。急に他人に心を開けって方が無理だよ」
(……まさか自分が「一瞬で人を消し炭にする恐怖の裏の支配者」だと思われているなんて微塵も思っていないロッシュの、ただただ優しい勘違いであった)
「チッ、一応感謝はされているから働くけどよぉ。もう少し和気あいあいと一緒に仕事がしてぇよな」
ラージが愚痴をこぼした、その時。
「ロッシュぅ、頼まれてた木材はここに置いておくよぉ?」
のんびりとした猫なで声とともに、人間数人分はあろうかとする巨大な丸太の山を、片手でひょいと軽々担いできた少女――魔獣王レガリアが姿を現した。
「あ、レガリア! ありがとう、助かるよ!」
「えへへ~ロッシュに褒められちゃったぁ」
さらに、その横の陰から漆黒のゲートが開き、死神ネクロアがすっと姿を現す。
「……ラージ様。そちらの木材、角度が垂直ではありません。あと三センチ右です」
「す、すみませんっ!! すぐ直しますっ!!」
死神からの丁寧かつ圧倒的な威圧感のある指示に、ラージは背筋をピシッと伸ばして大慌てで修正する。
すると今度は、空からバサバサと羽ばたき音が響き、金髪の鳥人少女――テンペスタが舞い降りてきた。
「エルちゃーん! 隣の作業班のバフ魔法が切れちゃったみたい! 掛け直してあげてー!」
「あ、はいっ! すぐ行きますっ!」
テンペスタの連絡を受け、エルも慌てて魔法の杖を手に走り出す。
魔獣王が木材を運び、死神が施工監督をし、魔翔王の姫が伝令に走る――。
ギルドから支給される「タダのお弁当」のために集まった冒険者たちと、ロッシュの手伝いをしたくて勝手に集まってきた魔王軍最高幹部たちによる、異常すぎる豪華さの開拓作業が繰り広げられているのだった。
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