第11話 魔王は街に馴染み、モブは勝手に軍師に任命される(前半)
ギルドでのあの前代未聞の大騒動から、およそ一ヶ月が経過した頃。
木漏れ日が心地よく差し込む街道沿いの草原で、ロッシュは地面にしゃがみ込み、地道に薬草を摘み取っていた。
そしてそのすぐ背後には――背中の漆黒の翼を消し、頭の角も隠して人間姿(美少女)に擬態した魔王アストラゼノスが、満足そうな笑みを浮かべてすっと立っていた。
「……なあ、ほんとに反省してるのか?」
薬草を摘む手を止めずに、ロッシュが背後に呆れ混じりの視線を向ける。
「してるしてる」
アストラゼノスは語尾に音符が見えるような軽快さで、全く反省していない態度で返した。
「この街の領主は冒険者ギルドの組合長も兼任してるから、なんとか事情を話して『ごく個人的な友人関係』ってことで納得させられたけどさ……普通の城主なら有無を言わさず処刑案件だぞ?『反逆者がー!』って」
「うん、分かってる。その時は領主を殺してネクロアに冒険者ギルドの組合長になってもらうわ!」
「そーゆー事じゃねーよ!」
事もなげに物騒な解決策を口にする魔王に、ロッシュは食い気味にツッコミを入れた。
「てかさあ、ここ最近毎日ここに来てるけど、会議とかはいいのか?」
「ああ、あの例の勇者の件ね。」
「ヤバイんだろ?」
「……うん、まぁ、軍師の意見を聞きに行くってオーバーロードには言ってあるし、大丈夫♡」
バチッとウィンクしてみせるアストラゼノスに、ロッシュは顔を覆って絶望した。
「なんで俺が魔王軍の軍師なんだよ! ……あーあ、また爺さん(オーバーロード)に愚痴を言われるじゃん……」
かつて魔王城を訪れた際、「ロッシュよ、また姫…いや、魔王様を甘やかして……」「仕事が進まぬではないか」とネチネチ言ってきたあの骨張った顔の世界中のアンデットの王にして不死者の王・オーバーロードを思い出し、ロッシュは胃が痛くなった。
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数時間後。
無事に薬草採取クエストを終えた二人は、夕暮れ時の冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
一ヶ月前は恐怖と衝撃で全員が顔面を真っ青にし、失禁する者まで出たギルド内だったが――ドアをくぐった二人を迎えたのは、意外なほど和やかな空気だった。
「おうロッシュ、お疲れ! 魔王様もお疲れ様です!」
カウンター近くで酒を飲んでいた強面の荒くれ冒険者が、親しげに手を振って声をかけてくる。
「お疲れ様!」
アストラゼノスもまた、可愛らしく手を振り返して爽やかに応じた。
一ヶ月間、毎日のようにロッシュに引っついてギルドに出入りし、時に威厳ゼロでデレデレし、時にロッシュに頭を叩かれて「むぅ」と膨れる魔王の姿を見続け……街の冒険者たちはすっかり毒気を抜かれ、今では「ロッシュのめっちゃ美人で重い彼女(ただし世界最強)」として謎の納得と親しみ(と、絶対に逆らってはいけない敬意)を抱くようになっていたのだった。
和気藹々としたギルドの風景を見回しながら、ロッシュは小声でぽつりと呟いた。
「(……なんで馴染んでるんだよ……)」
自分の目指していた静かなモブライフが、斜め上の方向で完全に崩壊していることを再確認するロッシュだった。




