第9話 揺れる世界と裏の軍師(後半)
数日後。
アルザード城から発せられた『魔王軍傘下入り』の告知声明は、魔法伝書や早馬を通じて、瞬く間に世界中の城、領地、そして人々の元へと駆け巡った。
『我がアルザード城は、理不尽な圧政と民への弾圧を繰り返す王国を捨て、魔王様の庇護下に入ることを宣言する――』
声明を読んだ世界中の城主や領主たちは、激しい衝撃と動揺に包まれた。
「な、なんだと……!? 人間の城が、魔王軍に下ったというのか!?」
「バカな……! しかし、噂では魔王軍の領地となってから税は安くなり、魔獣に襲われることもなく平穏に暮らしているというぞ……」
「……誇りばかりで重税を課す我が王国よりも、魔王軍に属した方が、民は幸せなのではないか……?」
王国の圧政に苦しんでいた辺境の領主たちの間で、少なからず「うちの城も、魔王軍に属した方がマシなのでは……?」という不穏なざわめきが伝染病のように広がり始めていた。
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一方、王国の王都――城の会議室では、国王をはじめとする幹部たちが顔を真っ青にして怒号を飛ばしていた。
「おのれ魔王め……!! ついにその本性を現し、我が王国の領土拡大に乗り出してきたか!!」
「第6軍団を全滅させ、アルザードの民を洗脳して盾に取るとは……なんという卑劣で恐ろしい知略だ!!」
彼らにとって、アルザード城の出来事は「魔王軍による恐ろしい領土侵略の第一歩」として完全に勘違いされていた。
ロッシュの「平和のための告知」は、王国幹部たちの目には「王国の威信を失墜させ、内部崩壊を狙う極悪非道な情報戦」として映っていたのだ。
「これ以上の侵略を許すわけにはいかん! 直ちに魔王領との境界にある前衛の城、および全ての砦へ増援の兵を派兵せよ! 境界線を死守するのだ!!」
大慌てで大規模な軍の再配置を決定する王国。
そしてその頃、前線で魔物と戦っていた「北の勇者」の元にも、この衝撃的な知らせが届いていた。
「……なるほど。魔王は力ずくの破壊ではなく、人間の内部から切り崩す策に出たか。……実にいやらしく、聡明な参謀が向こうにいるな」
勇者は冷徹な瞳で遠くを睨みつけた。
従来の力任せな魔物とは違う、裏で糸を引く「謎の影(※ただのモブ冒険者)」の存在を強く察知した勇者は、剣を握り直す。
「単なる武力だけでは、今の魔王軍は崩せない。……王国からの全面的な援助を取り付け、一刻も早く『賢者』を探す旅に出る。知恵には知恵を、呪いには更なる智謀をもって対抗する」
勇者は王国の潤沢な資金とバックアップを受け、伝説の賢者を探す旅へと本格的に踏み出した。
――ただのモブ冒険者ロッシュが「まあ大々に告知でもしとけば?」と呟いた一言が、世界中の領主を揺るがし、王国軍を大混乱に陥れ、そして勇者を新たなる旅へと駆り立てているとは。
当のロッシュ本人は、今日も平和な現場で鼻歌まじりに道路の補修作業に励んでいるのだった――。




